第12話
会場内がざわめく。
「ルールを説明しよう」
そのざわめきを無視し、男は続けた。
「始めに私と貴様とそれぞれ大切なモノをカードに書く。そしてそれと別に『弾丸カード』を用意する。互いに大切なモノを書いたカードを賭け台に置く。賭け台に置いたら引き下げることはできない。その上で互いに三回まで質疑応答をする。その質疑の結果、それを壊したいものであれば『弾丸カード』を発動。相手の大切なモノを壊すことができる」
それでは確実に大切なモノを失うことになる。ゲームとして成立していない。
秀一は反論しようとしたが、男が先に続けた。
「用意できる大切なものは三枚用。ただカードは五枚。そして『弾丸カード』は三回使用できる」
「ダミーが入れられるってことか……」
「その通り。上手くダミーを撃ち抜かせれば犠牲は一つで済む」
「それじゃあ必ず何かは失わないといけない」
「当たり前だ。ノーリスクで貴様とその女、二人の命を救えると思うな」
男はどこまでも冷酷だった。
「そしてこのゲームの醍醐味。このゲームにはそれぞれ信用できる者を使徒として送ることができる。使徒は相手が何を賭けたのか見て、味方に伝えることができる」
圧倒的なフリである。こちらの手札が知られては間違いなく大切なモノを狙い撃ちされてしまう。
「この使徒は三回までプレイヤーに伝える権限を持つ。嘘を伝えるか、真実を伝えるか使徒の自由。プレイヤーは使徒に聞くか聞かないか、もしくは相手の使徒に交渉する権限を持つ」
「交渉?」
「つまり、相手の使徒を交渉して買収しても構わない、と言うこと」
「買収して三回とも嘘を伝えさせて外させる、ということか……?」
「そういうこと」
秀一は頭をフル回転させた。
「ちなみに私が賭けるものは一億、清水美香の命、中本健一郎の命。一億を撃ち抜いた時は貴様の借金一億を無くす。清水美香の命を撃ち抜いた時、貴様に一億の借金は残るが清水美香の命は保証する。中本健一郎の命を撃ち抜いた時、中本健一郎の命を貰う」
最後だけはまるで救済になっていなかった。五枚中二枚は必ずヒットさせ、三枚中一枚は必ず外さなければいけない。
「そして貴様が賭けるのは清水美香の命、貴様の命、中本健一郎の命だ。全て撃ち抜けば全員死ぬ。私のカードを撃ち抜く前に私が貴様のカードを撃ち抜いた時は即座に成立。ただ既に貴様が私のカードを撃ち抜いていれば、貴様のカードを撃ち抜いた時無効とする」
用は秀一が先に男の美香の命を撃ち抜けば、その後男が秀一の美香の命のカードを撃ち抜いても意味がないと言うことだ。
「これを五ターン行いカードを使い切って終了。終了までに銃を三回使い切らなければ弾の数だけ、本当に自分にぶち込まれると思え」
一見有利に聞こえるが、秀一にはかなりリスクが大きかった。まず第一に先に男のカードを撃ち抜かなければいけない時点で先攻が必須になる。
それに秀一が使徒を交渉できる材料がない。そのため嘘の情報を流させることはまずできないはずだ。
そうなればこちらは密告させることはできない。逆に買収される可能性は大いにありうる。
「以上、質問は?」
「……あんたが持ってる俺と美香の命を撃ち抜けなかった場合は?」
「当然、死んでもらうよ」
さも当然のように応えるが、なおさら秀一の条件が厳しくなるだけだ。だがうまくいけば全員を救い、かつ借金を無くすこともできる。
「他には?」
「ない」
秀一が応えると、男はこくりと首を縦に振った。
「では本日夜一八時にそちらに伺おう。それまでに使徒をどうするか決めておくように」
そう言って映像は切れた。
「行こう」
三人は他に邪魔が入らないよう外に出てテントを張った。そして水を用意し、簡単な食事を取りながら作戦会議を始める。
「それで? どうするの? 下手したら私たち全員の命が失われることになるかもしれないのよ?」
明らかに不機嫌そうに美香が尋ねる。
秀一はへらりと笑った。
「大丈夫。とりあえず使徒について決めよう」
「使徒は俺が――――」
「いいや、美香にお願いする」
秀一の言葉に二人の目が大きく見開かれた。
「なんで清水?」
「清水のことは信用してるし、買収されたりしないって信じてるから」
「それなら俺だって……!」
「分かってるよ。お前のことも信用してる。だからお前には別でやって欲しいことがある」
「なんだよ?」
まだ納得いってないと言わんばかりに健一郎は顔を顰める。
「清水は? それでいいか?」
一旦話を戻すと、美香は真っすぐに秀一を見つめた。
「分かったわ」
「おっし。じゃあ悪いが清水はちょっと水を汲んできてくれ」
からの容器を渡すと、美香はそれを受け取ってその場を後にした。秀一と健一郎だけがその場に残される。
辺りには誰もいなさそうだ。
「……本気か?」
健一郎が探るように尋ねる。
「何が?」
「清水のことだよ。ほんとに信用してるのかって聞いてるんだよ」
「……もちろん」
「気づいてんだろ?」
彼の問いに秀一は押し黙った。
「夜あいつが見張りの時、かすかにどこかに行ってる。野菜や何か取りに行かせた時もやたらと遅い。絶対何かある」
「それこそ本当に誰かに密告してるとか?」
「……おそらく」
深刻そうな顔をする健一郎。秀一は肩を竦めた。
「誰かに会っているのは間違いないだろうな」
そのまま空を見上げた。澄んだ空が広がっている。
「だからこそあいつに使徒を頼んだ」
「なんで? また騙されるかもしれないだろう? 俺らを殺して一人で一億持っていくかも」
「ああ。清水の本心を調べる」
「……」
秀一の言葉の意味が分からない健一郎は納得がいかないと言わんばかりに眉間に皴を寄せた。
だが秀一の意見は変わりそうにない。諦めた健一郎は大きく息を吐いた。
「で、俺に頼みたいことって……?」
「あのさ――――」
そう言って秀一は二つのことを健一郎に託した。
そして一八時十分前にホテルに戻った。
会場は変な空気に包まれていた。中心にテーブルとソファが置いてあり、対面できるようになっていた。そしてそれぞれの椅子の後ろには個室のボックスが用意されていた。
その周りにはたくさんの人が野次馬として集まっている。
野次馬も気づかないうちに少しだけ人数が減っている様な気がした。また、中には包帯を巻いている人もいる。
すごく嫌な感じがした。だが秀一は堂々とその人混みをかき分け、ソファに向かって歩いていく。その後に続くは健一郎と美香だ。
秀一がソファに着こうとすると二人の女が近づいてきた。
「ついに気持ち悪いナイト気取りの童貞が死ぬところ、見れるんだ」
愉快そうに笑うまりあ。
「どんな苦しい顔をして死ぬのか楽しみ。考えただけでゾクゾクしちゃう」
舐めまわすように秀一を見つめ、蛇のように舌をチロチロと震わせる。髪をかき上げた時のピアスが相変わらず痛々しい。
「私も楽しみですぅ」
もう一人黒髪の少女が口を開いた。姫カットをした少女はピンク色のロリータに身を包み、手にはクマのぬいぐるみを抱きしめている。
一見可愛らしい風貌をしているが、その腕には大量の包帯が巻かれており血が滲んでいた。
「胡桃、血、見るのだーいすき」
愛らしく笑う姿は狂気に満ちていた。
「だから、今日は三人の血が見れるのかなって思うと、胡桃……イっちゃいそう」
照れくさそうに笑うお人形のような少女。そんな彼女をまりあは楽しそうに見つめていた。
「せいぜい私たちのことも楽しませてよ」
「……誰も」
「誰も――――」
美香が言い返そうとして秀一が割って入った。
「誰も、死なせはしないよ」
秀一はきっぱりと宣言する。
「君らが望むような結果にはならない」
「だといいね」
胸を張る秀一の声に応えたのは――――
「こうして直接お会いするのは初めてだね、武井秀一君?」
モニターに映っていた男だった。
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