四章 第六話 シーン4
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真夜中。人は夢を見る。しかし機械人は、夢を見ない。
しかしこの日だけは例外だった。ハガネは今、夢の中に居た。
そびえ立つビルとクロスする道路。一見セプティカの風景である。しかし機械人も、人間も、整備が仕事のメカすらも居ない。それに何故か道路の中央に、輪っか状の机が置かれていた。真っ白い机に椅子が三脚。不可思議な光景と言えるだろう。
ハガネは何故かその机の側に、死ぬ前の肉体で立っていた。
「やっと来たか」
──と、そこに、少年が話しかけてくる。
白いフード付きのパーカーを着た、十代の中盤ほどの少年。やや目つきが鋭い印象の、ハガネが見たことのない人物だ。
「君は?」
「ビーハイヴだ」
少年は、ハガネに聞かれ不機嫌に答えた。
ハガネはそれを聞いて驚いたが、直ぐにとある事実に行き当たる。ハガネが直人の姿なのだから、彼もまた生前の姿なのだ。ビーハイヴのイメージと違うので少し面食らってはしまったが。
「お前がつまらんことを言う前に、この空間について教えてやる。ここは我々の意識を繋いで、造り出した言わばシミュレーションだ」
「夢ではない?」
「似たようなものだがな。明晰夢よりはっきりとしている。それに目覚めても忘れない。故に夢では無い。残念ながら」
少年の喋り口を見る限り確かにビーハイヴであるようだ。
腕を組んで偉そうな様子だが、それが逆に可愛らしくも見える。
「今失礼な事を考えたな?」
「考えていない」
「もう慣れたが」
ビーハイヴは言いながら目を逸らす。
ハガネとしては可愛いというのを失礼とは思っていないのだが。
そんなやり取りをしていると、最後の一人がやって来た。
「相変わらず愛想の悪い奴だ」
「師匠には言われたくないですね」
背の高い筋肉質の男性。彼こそがマッドハッターだった。マッドハッターと言うよりも、ウォッチャーだったときの雰囲気で。
マッドハッターはウォッチャーだ。それはハガネも直接聞いている。しかし頭では理解していても、二人を重ねるのは難しい。
「まあ座れ」
ハッターは椅子に座り、足を組んでパチンと指を鳴らす。するとたちまちケーキと紅茶とが、三人分机の上に並ぶ。
「今日作ったケーキをスキャンした。まあ座れ。食べながら話する」
ウォッチャーの威圧感は相当だ。逆らえる者などそうそう居ない。
そして、ハガネとビーハイヴには元々逆らうつもりなどはない。ビーハイヴなど直ぐにケーキをとり、フォークで切って口に入れるほどだ。
「相変わらず美味いですね」
「まあな。鍛錬は欠かさず行う事だ」
二人は実に慣れた様子だった。しかしハガネは初めてここに来る。何故ここに呼ばれたかも分からない。どうやってこの場所に来たのかも。
「何故私をこの場所へ?」
「俺達は、こうでもしないとケーキも食えない」
ハッターは優雅──と言うよりは、豪快に、ケーキを平らげる。フォークがあるのに手づかみで、大口を開けてワシワシと。
「しかし教訓を与えるとすれば、紅茶は一気に飲むことも出来る。少し火傷をするかもしれないが、可能である事には違いはない」
そして意味不明な事を喋った。
意味はあるのかも知れないが、ハガネに汲み取ることは不可能だ。
結局ハガネは諦めて、ケーキを口に運ぶことにした。そして目を丸くして驚いた。こんなにも美味いモノがあるのかと。
食べ終わって気が付くと──ハガネは機械の体で立ち、眠っていた。
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