三章 第五話



 疲労困憊と言える状態で、フラムに連れ回されたハガネ達。そのハガネ達が最後に来たのは、体を休める場所のはずだった。テレポーターから見慣れた廊下へ。そして扉の先のリビングへ。

 しかし、そこでハガネが見たものは──ある意味変わり果てた部屋だった。


 まるで王族や貴族が使う、ワインレッドと白が基調の部屋。調度品のデザインは美しく、且つ、細部まで凝り尽くされている。


「どうかしら? 私のリビングは」


 フラムは笑顔でハガネに聞いた。

 ハガネとしては前の部屋の方が、やや好みであったと言えるだろう。確かに新しい部屋は綺麗だ。豪華である事は否定出来ない。だがだからこそハガネはこの場所で、心が安まる気はしない。

 幸い、ハガネがそれを指摘する、必要性などまるで無かったが。


「どう考えてもアウトです! て言うか元々あったリビングは!?」


 ミウが即刻キレたからである。

 良く考えれば前のリビングはミウによりローカライズされていた。彼女にすれば自らの巣穴を、破壊されたタヌキの気分だろう。


「安心して。私も鬼じゃないわ」

「はい。悪魔ですよね。わかります」


 ミウは徐に金属バットを、転送して素振りを開始した。

 しかしフラムは意にも介さずに、扉の一つに近づいて開く。

 するとその先に在ったのは──ハガネ達の元のリビングだった。


「貴方のリビングよ。安心した?」

「安心はしました。しましたが、この間取りはどうかと思います」


 キッチン付きのリビングの隣に、キッチン付きのリビングを繋げる。常識的とは言えない間取りだ。

 それに、問題はもう一つある。


「あれ? でもこの扉の場所って……」

「ワタシの部屋が置かれていた場所だ」


 元のリビングからハガネの部屋に繋がる扉が入れ替わっていた。正確にはハガネの部屋があった、その場所にリビングを作ったのだ。

 ハガネの自室は取り壊された。そう考えるのが自然であろう。


「心配しないで。ハガネの部屋には、私のリビングから行けるから」


 しかしフラムは楽しそうに言った。


「やっぱり訴えます! 暴力に!」

「そう言わないで、仲良く暮らしましょ」


 そして暴走寸前のミウを、フラムの魔法が瞬時に止める。

 全身液体金属で出来た、ムキムキでのっぺらぼうな人型。ビーハイヴとの組み手をしたときに、フラムが作った謎の存在だ。

 今回も音もなく現れて、ミウからバットを取り上げた。


「彼は魔法生命体のペクマ。家事全般を引き受けてくれるわ」


 そう言う問題ではないと思う──ハガネは心の中でツッコんだ。とは言えハガネが止めようが、止めなかろうが結果は変わらない。


「私は所用でちょっと外すけど、これから三人ともよろしくね」


 フランベルジュはハガネ達に言うと、優雅にリビングから去って行った。



 同じ人型の兵器でも、タイタンとヘヴィでは違いがある。サイズもその一つでタイタンは百メートル前後と、とても巨大だ。量産ヘヴィの十倍近く。そのため非常に威圧感がある。しかし何よりも大きな違いはその巨体を操る手法だった。


 球体状のコクピット中心。フランベルジュはそこに浮いて居た。座席に座っているわけでもなく、透明な床があるわけでもない。ただコクピットの中心に浮いて、思考と動作で駆動させるのだ。


「早かったわね」


 そのフラムが言った。

 彼女の乗る赤色のタイタンはファンタジーの鎧を思わせる。その名をガラゼラ。金色の装飾が高貴さを一層引き立たす。


 一方、そのガラゼラの前方に青いタイタンが転移をしてきた。

 色こそ違えどそのデザインは、ガラゼラとどこか似た部分がある。神であるレフィエラの駆るタイタン。清廉で美しい、ユリスである。


「こちらが貴方を呼んだのですから、急ぐのは当然かと思います」

「貴方が人間ならそうだけど、神の基準ではとっても謙虚よ」


 レフィエラの神妙な態度を見て、フラムは小さく優雅に笑った。

 しかし、二人がタイタンで来たのは決して話し合いのためではない。


「それにしても急に模擬戦なんて。思っていたよりも大胆なのね?」

「事態が差し迫っているだけです。故に、見極めなければなりません」


 レフィエラが言うと彼女のタイタン、青きユリスがガラゼラに仕掛けた。



 夜──と言ってもハガネ達の住む住宅には窓一つないのだが。ハガネはフランベルジュのリビングで、彼女の帰宅を待っていた。一応照明の光度を落とし、夜であることを演出しながら。

 微動だにせず立っているハガネは、端から見ると置物の鎧だ。もっともハガネ一人だけなので、気にする者など何処にも居ないが。


 とにかくハガネがそうしていると、フランベルジュが優雅に帰宅した。彼女はハガネに気づいて居ながら、全く慌てる様子などもない。


「あら。私を待っていてくれたの? ますます貴方を好きになりそうね」

「そう言う冗談はどうかと思う」

「冗談じゃないから問題無いわ」


 フラムは相変わらず幼い女の子のような声で、そう言った。

 それも冗談とハガネは思った。だがハガネが指摘することはない。ハガネが彼女の帰宅を待った──その理由は用があるからである。


「もしかして私が何処に居たのか、気になって眠れなかったのかしら?」

「気にならないと言えば嘘になるが、ワタシが聞きたいのはそれではない」


 薄暗い部屋でハガネを見上げる、華奢で小さくも恐ろしい少女。ハガネは彼女に問わねばならない。ここに二人が共に居るワケを。


「貴方は何故ワタシ達に目を付け、何故ワタシ達と同居をするのか」


 ハガネは単刀直入に聞いた。

 彼女が答えると思っていない。それでも聞かずにはいられなかった。


「良いわ。少しだけ話してあげる。折角、とても素敵な夜だから」


 しかしハガネの予想を裏切って、フランベルジュはお話を始めた。

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