二章 第六話
1
通常森林と呼ばれる場所は緑と茶色とで構成される。木の実や花などもあるにはあるが、面積で言えばそう広くはない。
しかしハガネ達が今居る森は──地球のそれとは全く違った。
幹も枝も無い葉だけの植物。それも高層ビル並に巨大な。そんな物が乱立する場所など、地球上のどこにも在りはしない。
その上葉の表面は虹色の光沢で微かに被われている。
まるで異世界の草むらの中に、迷い込んだ小人の気分である。
ハガネ達は装備を身につけて、戦士としてこの場所にやって来た。
つまりこの場所は緩衝領域。ハガネはミウとアイリスの二人とその中をゆっくりと飛んでいる。
「それにしてももの凄い場所ですね」
その中のミウが話しかけてきた。
彼女は新たなフェアリータイプのソル・アーマをその身に纏っている。色は変わらず白で大きさも、むしろコンパクトになった程だが。
そのソル・アーマの由来を知るには時を少々戻さねばならない。
2
ハガネ達はいつもの広大な、格納庫に三人でやって来た。
出撃前にこの場所に来るのは特別不思議な行動ではない。
ただし今回の出撃は、ハガネ達にとっては特別だが。
「ビーハイヴさん指定の任務って、一体どんな戦場なんでしょう?」
「わからないが警戒はするべきだ。何か意図が在るのは間違い無い」
ハガネはミウに聞かれそう答えた。
そのハガネは既にアーマを纏い地面からも数センチ浮いていた。アイリスも特に浮いてはいないが、魔法装具を既に装着済み。
それだけに一つ違和感を、ハガネはミウに対して持っていた。
「ところで君はアーマを着ないのか?」
「あー。それはもう少しだけですね……」
ハガネが問うとミウは目を逸らし、両の人指し指をツンツンした。
どうやら何か隠して居るらしい。彼女は嘘がつけない人である。
しかしハガネがミウの隠し事を問い糾す前にそれは現れた。
格納庫の壁が突然開き、眩い光が差し込み照らす。そこが巨大な扉だったのだと、ハガネもそのとき気が付いたのだが。
何にせよその扉をくぐり抜け大きめのトラックが現れた。盛大に高速スピンしながら、ギリギリにスピードを殺しつつ。
「ヒャッハー! お届けに上がりましたあ!」
そのトラックを操っていたのはハガネもよく知る人物であった。
武器商人のマッドハッター。尚、助手席に座っていたカナヅチは口から魂が抜け出している。
しかしそんなことは気にも留めずにマッドハッターはミウにこう言った。
「ご所望の新装備になりマース! 早速ポッドで装着しやがれ!」
マッドハッターの言うとおり、トラックの荷台にはポッドがある。
円筒型で丁度ソル・アーマのフェアリータイプが入っていそうな。
「えーと、じゃあちょっと……行ってきます」
ミウは驚いて固まっていたが、暫くしてハガネに向けて言った。
そしてトラックへと近づいて行き、ポッドの入り口を開いて入る。
それから数分。ハガネとアイリスが呆然とポッドを見て居ると──ソル・アーマを身につけたミウが、ポッドの中から飛行して現れた。そのアーマはハッターの言うとおり見たことの無い新しい装備だ。もっとも前の装備を元にしてグレードアップしたようなものだが。
白を基調にしたメインカラーも、スーツと機械の位置も変わらない。しかし装備自体の形状はより精緻且つ美しくなっている。特にキャノンに着いたウィングは天使の羽を象った物だろう。金属で出来ているようであるが細部のデザインまで凝っている。
「ヒャッハーー!! どうですかお嬢様!?」
「良い感じです。さすがハッターさん」
「お気に召したようでヒャッハーだだだ! またのご利用をお待ちでヒャッハー!」
ミウが褒めるとハッターは返した。
どうやらこの装備はハッターが用意若しくは製造したようだ。
そのハッターは現在カナヅチに『殺す気かー!』と問い詰められていた。
とは言え彼のドライビングテクと商人としての腕は本物だ。
それはミウの態度を見ればわかる。
「あの、ハガネさん。どうですか?」
彼女はハガネの前に飛んできて、照れながらハガネへと聞いてきた。
新装備を手に入れた時の高揚感はハガネにも、理解出来る。それ以外にも何かありそうだが、まあハガネには関係無いだろう。
ハガネは思った事を口にした。
「その装備の真価はわからないが、非常に良く出来たアーマに見える」
「そうですか。まあ、ハガネさんですし……」
結果ミウは激しく落ち込んだ。
どうやら何かを間違ったらしい。
その答は意外にもアイリスが、ハガネの元へともたらしてくれた。
「きれい」
「アイリスちゃん! ありがとう!」
ミウはハガネの時と打って変わり、目を輝かせ彼女に抱きついた。
つまり彼女は装備の外観を、褒めて欲しかったと言う事だろう。
ハガネは外観には無頓着だ。それは生前から変わっていない。
「性能は?」
「それはオレが解説だ!」
と言うワケでハガネが投げかけると、ミウの代わりにハッターが答えた。
「ぶっちゃけ前のアーマを小型化し、基礎性能を上げたのがこいつだ! 一応大将と同じタイプのマルチ・ランチャーは追加したけどな! もっとヒャッハーなグレネードとか、ロケットパンチとかをつけたかったぜ!」
「何故着けなかった?」
「そりゃ注文でな! 可愛くない武器はNGなのさ!」
なら肩のキャノンやライフル等は可愛い武器に分類されるのか。ハガネは尚疑問に囚われたが、深く追求はしないことにした。おそらく哲学的になるからだ。ハガネもそれ位は理解出来る。
とにかく、ビーハイヴの指示を受けてハガネ達は戦場に赴いた。
それはメール一通で成されたが、ハガネは経験上知っている。通知方法と任務の難度は時に反比例すると言う事を。
故に気など抜いてはいなかった。それに意味があるかはまた別だが。
3
再び異界の奇妙な草原。
ハガネ達は小人の気分になり、巨大な葉を避けながら飛んでいた。ファントムの巣であるファントム・ネスト。包囲殲滅戦はそこを目指す。
「ビーハイヴさんと殲滅戦って、あまり良い思い出がないですね」
「あの時は彼に殺されかけたが、今回は違うと祈るしかない」
ハガネは思い出しながら答えた。
あの時ハガネはミウと共に、ビーハイヴの放った砲火から逃げた。
もし退避が間に合っていなければハガネ達はこの場に居ないだろう。
「念のため。退避勧告が出たら、全速力でエリアを離脱する」
「了解です」
「わかった」
釘を刺すと、二人から肯定が還ってきた。
ただその段になってみなければ、実際の所などわからないが。
なんにしても少し、悠長だった。
ハガネ達はその直後一斉に、三方へ散って攻撃を避けた。直後紫色をしたビームが植物を砕きつつ通り過ぎる。
その攻撃を放ったファントムは、十メートル近くある竜だった。
「骨ドラゴン?」
「いや、アレは外殻だ。確かに骨のような印象だが」
ミウのボケにハガネは突っ込んだ。
骨は肉を支えるため、或いは臓器を守るため、体内に在る。
しかしドラゴンは骨の鎧を纏ったような、姿を取っていた。そして肉の代わりに体内を、黒い炎が満たして燃えている。
形状は西洋の竜に似るが、当然地球には存在しない。
「どうやら異世界に来ているようだ」
「すっごい今更ですよハガネさん!」
今度はミウがハガネに突っ込んだ。
無論そんな場合では無いのだが。
「くる」
ドラゴンが吠え、アイリスが言う。
しかし次の瞬間攻撃を──放ったのは上空のミウだった。
「先手必勝!」
ミウの肩キャノンが橙の光線を放出する。
ドラゴンは翼で被って防御。フィールドのような物も見られたが、貫かれ翼へと直撃した。
弾き飛ばされたドラゴンは斜め下に吹き飛び、そこで停止する。幸い翼は無傷なようで、その翼を大きく左右に広げ。
「クリスタル・じゃべりん」
そこに追撃。
広げた翼の内側に、水晶の槍が三本全て命中。その全てが完全に貫通し、翼に三つの大穴を穿つ。
竜が翼で飛行しているのか。それはハガネにも判断できない。とは言え事実竜はバランスを、欠いて地面へと落下を始める。
その直前にハガネはもう既に、ドラゴンに向けて突撃していた。
「ぜい!」
ハガネが彼の側を通ると、同時に彼の首が斬れて飛ぶ。
袖から輝く光の刃を、一瞬だけ出して斬り裂いたのだ。
普通の生物なら首が飛んだ時点で死は免れないだろう。実際ドラゴンも力を無くし、そのまま地面に叩きつけられる。
しかし相手は巨大なファントムだ。ハガネは手を抜いたりなどはしない。
ハガネは飛行速度を急速に、落としながらまるくなって回転。次の瞬間ドラゴンに体を、向けた状態でピタリと止まった。
その両腕をドラゴンへと向けて、且つ両足を肩幅より開き。
「マルチ・ランチャー」
そしてトドメを刺す。
脚部マルチ・ランチャーから八発。更に両腕内蔵ライフルも。同時に発射し墜ちたドラゴンの、炎の体の各部を貫く。
「うわー……。容赦無いですね?」
ミウはこう言ったが、念のためだ。
兎にも角にもドラゴンファントムの体は崩れ虚空に消えて行く。
「大型を仕留めるのは初めてだ。やり過ぎと言うこともない、と思う」
「どうい」
アイリスも同意見らしい。
もっともまだ始まりに過ぎないが。
「二人共編隊を組み直す。ビーハイヴの思惑が何にせよ、ワタシ達は仕事を完遂する」
「了解です。ハガネさん」
「アイリスも」
ハガネ達は再び集合し、ファントム・ネストの方角に向かう。
戦士としての義務を果たしつつ、裏に潜む何かを探るために。
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