第79話

「ふぅ。行くかぁ」

 

 俺はゆっくりと邪神と成り果てたアレーヌの元に近づいてく。


 アレーヌの持っている天剣。それは伸縮自在な天剣。射程なんてものはない。

 この世の全てが射程圏内。それがアレーヌだ。


 遠距離戦闘の場合、俺のほうが圧倒的に不利だ。

 あんな化け物のような天剣を振り回された俺は何も出来ない。

 魔法使いが、騎士よりも遠距離戦闘が弱いってどういうことだ?とは思うがな。


「んじゃ。死ね」

 

 俺は──────


「ァ……アァ」


「ちっ」

 

 舌打ちを一つしてから10本ほど魔剣を作り出す。

 そして、俺の方へと振られる神速の天剣にぶつけ、強引に軌道をそらしてやる。


 俺の魔剣は特別製だ。魔法の発動を手伝うなんてチンケなものじゃない。純粋なエネルギーの結晶体だ。

 

 っつうか。ちゃんと邪神はアレーヌの技術を使ってくるんだな。あぁ。気持ち悪ぃ。


「法具。幻影水鏡」

 

 水が弾ける。

 俺が弾ける。

 

 10体にまで増えた俺は転移で互いの位置をシャッフルし、バラバラに魔剣を握ってアレーヌへと襲いかかった。

 

「アァ……」

 

 天剣の刀身が縮み、短くなった天剣が光の閃光を描く。

 その神業はいとも容易く10体の俺を斬り裂いた。

 そんな中。

 

「ほらよ」


 俺は手に握った魔剣をアレーヌへと振った。

 どこから?

 地中から。

 10体の水によって作られた実態の存在する幻影を囮に使い、本体である自分は地中へと潜り、姿を隠していたのだ。


「……ァ?」

 

 完全な不意打ちによる攻撃。それが邪神へと襲いかかる。


「……ォァ」

 

「くっ」

 

 確実に心臓を貫ける、そんな俺の一撃、完全な不意打ちは。

 不意打ちで返される。

 確実に届かない、防げない位置にあった刀の刀身が急にねじれて、曲がって、伸び、俺に向かって迫ってきたのだ。

 その天剣は、俺の魔剣を弾き、そのまま俺の方へと向かってくる。

 刀身を強引に捻じ曲げるのにはかなりの力がいるのか、天剣自体に込められた力は大したことがなかったので、俺は宙に浮かせている魔剣を操って強引にその一撃を弾き変えた。


「ちっ。変な軽業を使いやがって、いつ覚えやがったんだ」

 

 そしてそのまま俺は舌打ちしながら、一度距離をとった。


「……これで決めるつもりだったんだけどなぁ」

 

 小さな声でボヤきながら俺は魔剣を構える。これで……これでもう短期決戦で終わらせる作戦には失敗した。


「長年待った俺らの逢瀬をすぐには終わらせたくないってか?」


 ちゃんと真面目にじっくりと戦わなければいけないようだ。


「ァ……」

 

 アレーヌの姿で、アレーヌの声で、知性の感じられない、歪んだ声を上げながら首を傾げる邪神に、心の底からの憎悪と吐き気を催しながら俺は魔剣を構え直した。

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