第78話

 俺は耐えきれなかった。

 自分を蝕む邪神の存在に。

 俺を呑み込む闇を前に俺は敗北した。俺という石像は砕け散り、数多の石の破片と成り下がったのだ。


 そんな俺を集めてくれたのがアレーヌであり、解放された邪神を再度封印したのもアレーヌなのだ。

 石の破片に殆どの邪神は封じたままではあるものの、解放されてしまったごく一部の邪神を、アレーヌは自分の中に封印したのだ。

 

 だが、アレーヌも耐えきれなくなったのだ。

 自分を蝕む邪神という存在に。だから、分けた。

 世界を二つへと。


 元々アレーヌが生活していた世界を二つに、表の世界と裏の世界に。

 表の世界には聖なるアレーヌを、裏の世界には魔なるアレーヌを。

 異なる世界に邪神ごと、自分自身すらも分けたのだ。

 

 ただでさえごく一部でしかなかった邪神は、二つに分けられたことでその力を更に失った。

 アレーヌへと干渉することすら出来ないまでに。

 

 だが、だからといってそう簡単に邪神も引き下がるわけではない。

 おそらく邪神は二つの世界に自分を分けたことによって不安定になったアレーヌの精神へと働きかけ、自分をアレーヌから切り離したのだろう。


 アレーヌは二つの世界に自分を分けたことに加え、自分の一部を切り離されたことによってその記憶に、精神に、致命的なダメージを負った。

 自分が何者かを忘れてしまうほどに。

 

 俺は、僕は出来損ないの存在として復活を果たした。

 バラバラとなって、ほとんど原型も留めていない石像として残った出来損ないの僕はそのほとんどの力と記憶を失った状態で、自分を取り戻した。

 

 そして、あの光源のわからない洞窟。分けられた世界と世界をつなぐ洞窟を通り、9つの世界へと通ずる門を開ける草原にたどり着いた僕は開けられていた門の中に入って、世界で覚醒を果たした。

 自分が何者かを忘れてしまった男が見知らぬ土地へと降り立ったのだ。


 そして、そして、そして。

 あの日に。

 僕とアレーヌは再会した。

 アレーヌが作り出した裏の世界で。

 

 アレーヌは僕と触れ合う中で徐々に自分を取り戻し、あそこで表の世界のアレーヌと裏の世界のアレーヌが一つになったことで。

 俺はあそこで全ての石の破片と一つとなったことで。

 

 自分を取り戻したのだ。


 そして今、僕とアレーヌは向き合っている。


 全盛期の力を取り戻した僕と、邪神に呑み込まれたアレーヌは。


「……ふぅー」

 

 僕は深く息を吸って数多の法具を作り出して戦闘態勢を整えていく。

 ゆっくりと。

 ……覚悟を決めると良い。英雄よ。

 

 過去の英雄よ。

 

 お前は過去のものへと帰るのだ。

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