第75話

 簡単な話だ。

 生命が誕生したのは海だった。

 それが、僕が地球で暮らしていた2022年の頃から約36億年前。

 そして、約4億2000万年前にようやく植物が地上への上陸を始めたのだ。


 約32億年も、海の方が速いのだ。生命の息吹が芽生えるのは。

 地上に暮らしている生命体よりも、海中に暮らしている生命体の方が先に知性生物へと進化し、文明を築き上げていたとしても何も不思議なことではないだろう。

 

 深海に文明が出来たのは約2億年5101万年ほども前の話だった。

 海底人の、深海に住む人たちは1万年もの間文明を発達させ続けた。

 地球を覆っていた大陸を自由自在に動かし、宇宙にまでもその手を伸ばした。

 そして、海底人はこの世の理のほとんどを解き明かすことに成功した。

 

 そんなある日のことだった。

 2022年から約2億5100年前。

 P-T境界と呼ばれる大量絶滅が起こった。生物の絶滅率は90%。

 そんな史上最大の大量絶滅。

 

 それを引き起こしたのが『俺ら』海底人の戦いだった。

 

 この星には、宇宙には自浄作用がなかった。なかったのだ。

 世界は平然と滅び、残滓となった世界が並行世界としていくつも存在していた。

 そして、その残滓となった世界には、文字通り世界の残滓が残っていた。

 その世界で決定された理も、その世界で生まれた災厄も。

 全てが残滓として残っていた。

 

 邪神。

 それは突然姿を表した。

 一体滅びた世界が何をしたのか。俺は知らない。

 キメラか、理の化け物か、はたまた人間の成れの果てか。俺らの理解出来る範疇になかった存在だった。

 だが、そいつは確実に存在していた。

 並行世界を探索していた俺ら海底人は、並行世界にいたそいつと出会い、この世界に呼び寄せてしまうことになった。なってしまった。

 邪神の持っている強さは圧倒的だった。

 理をある程度改変することさえ出来た海底人でさえも太刀打ち出来なかった。

 海底人と邪神の戦いは壮絶だった。

 そして、それがP-T境界を引き起こした。

 

 P-T境界。ここが全ての始まりであり、全ての終わりだった。

 邪神のほとんどの力を、海底人たちは奪い、瀕死に追い込んだ。

 その代償として深海に住む者たちは滅び、文明は終わりを迎えた。

 俺とアレーヌを残して、全てが死んだのだ。


 俺らは全てを終わらせてしまったのだ。戦いの果てに。

 

 そして、俺とアレーヌの。

 後片付けのための戦いが始まることになった。

 残ってしまった味噌っかすの邪神を倒すための。


「やぁ。邪神。そろそろ終わらすとしようぜ?残党の残党とか……それだけでも笑い話にもなりはしないのに。残党の残党の残党とか一体何なんだ?」

 

 俺は軽口を叩きながら、アレーヌを飛ばした場所に降り立つ。

 すでに邪神にほとんどを侵食されてしまったアレーヌの元へと。


「さぁ、やろうか。命乞いも聞いてやりはしないよ」

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