第74話

「ふぅー」

 

 俺はゆっくりと息を吸って吐く。


「うぅぅぅぅぅぅぅぅうううううううううううううううう」

 

 そして、頭を抑えて蹲っているアレーヌの方へと視線を向ける。


「い、一体何が……」


 隣。

 俺の隣にへたり込んでいたアキラネ第一王子が呆然と呟く。

 ……そういえばこんな奴もいたな。


「すみません」


 僕は笑顔を浮かべてアキラネ第一王子へと声をかける。


「しばしここから離れて貰ってもよろしいでしょうか?」


「む、む?何故だ?……というかその……お連れの人は良いのか?うちの騎士団には神の奇跡を使えるものもいるが……良ければ」


「必要ありません」

 

 俺はアキラネ第一王子の申し出をはっきりと拒絶する。

 アキラネ第一王子は邪神の呪いかなんかを受けて今、苦しんでいると思っているのだろう。

 まぁ、そう思うのが妥当で、その通りだ。

 邪神を倒して、視界が光に包まれたと思えば、いきなりアレーヌが苦しそうに蹲っているのだ。

 そう思わなければ、そいつの感の鈍さを俺は疑う。感の良いガキも嫌いだが、感の悪すぎるガキも嫌いだ。


 だが、アキラネ第一王子の神の奇跡とやらじゃどうしようもない。

 君たちがその神の奇跡と呼ぶソレを人間に、誰にでも使えるようにしたのは俺なのだから。

 まぁ、どっかのクソ教会が神の奇跡の習得方法を独占し、神を信じるものだけが使えるようになるとかいう巫山戯たお遊びに変えられたんだけど。


「そうか……?」


「はい。あなた方を巻き込むわけにはいきませんから」


「……もう少しでいいから頼ってくれても良いのだぞ?そなたたち二人はあまりにも人との距離を置きすぎているように思うのだが……」


 ちっ。

 俺は心の中で舌打ちを打つ。


「……これは私とアレーヌの話ですから。私もアレーヌも異次元なのです。他の人たちでは何もすることが出来ないのですよ。少し離れていてください」

 

 俺は無理矢理にでもアキラネ第一王子たちをアレーヌの近くから遠ざける。


「『ほい』」

 

 そして、俺は魔法を発動させて天井に大きな穴を開ける。


「何をしているのだ!?」


「おそらくもうすぐここは崩れるでしょうから、早く逃げることをおすすめします」


「お前のせいだろ!?」

 

 僕は喚くアキラネ第一王子を無視してアレーヌとの距離を一気に詰め、アレーヌの横っ腹を思いっきり蹴り上げる。

 アレーヌは天井の穴から飛んでいく。そして、その姿はすぐに見えなくなる。

  

「何を!?」


「心配なさらず。あなた方は自分の心配をしていてください。それでは失礼します」


 俺は地面を蹴り、アレーヌを追って天井の穴から外へ出る。

 アキラネ第一王子なんて無視だ。


 俺とお前の物語。

 

 これは徹頭徹尾そうなのだ。

 ずっと……繰り返している……やり残した俺とお前の物語なのだ。

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