第73話
たった一言で世界が変貌していく。
赤い空は青く澄み渡り、天上に浮かぶぎょろとした大きな瞳は、揺らめく太陽へと変わっている。
低かった木はすくすくと成長し、一つの立派な木へと成長し、青々とした葉っぱを付け、大きな果実をつける。
爽やかな風が野原の草を、僕の髪をなびかせる。
地面を這いずり回っていた蟲たちは……一気に羽化していく……。
自らの体を突き破り、青色のきれいな蝶々へと。
蝶々たちは一斉に空へと飛び上がり、視界が青く染まる。
バシャ
互いにぶつかりあった蝶々たちはその体を水へと形を変化させて地面へと降り注ぎ、地面の中に染み込んでいく。
蝶々の数は減っていく。
パタパタ
一匹の蝶々が俺の回りを飛び回り、俺が差し出した手の指の上にゆっくりと止まる。
「んしょ」
俺は魔法を使って立派な木になっている大きな果実を自分の方へと持ってくる。
蝶々が止まっていないもう片方の手でそれを掴む。
「いただきます」
そして、その真っ赤な果実を口に含む。
シャリシャリ
うん。甘くて美味しい。これを口にするのも実に久しぶりだ。
「はぁー」
俺は一つため息をつき、芯だけとなった果実を捨てる。
「まったく……いつになったら終わるのやら」
小さな声でボヤく。
俺は全てを思い出した。今回もまた時間がかかったものだ。いや、前回よりも遥かに時間がかかったものだ。
前回は2億5100万年近くかかった。それでも気が遠くなるほど長いというのに……今回は何百億年とかかってしまった。
「……またアレーヌに手間をかけさせてしまった」
俺は一本の魔剣を取り出す。
「『開け、ごま』」
魔剣は光り輝き、一つの門へとその姿を変える。
「にしてもすっごいことをするものだよな。アレーヌも」
俺は姿を表した一つの門、門に入っている亀裂をゆっくりと撫でる。
じゃあ行こうか。裏側の世界へと。
俺は門の中へと入っていく。
──────俺の頭によぎったのは邪神の……いや、アレーヌの言葉。
俺に出来損ないの魔剣を渡してきたあの言葉。
「私を殺して、ね」
あぁ、そうだな。
もう……終わらせねぇと。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます