第72話
膨れ上がり続ける魔力。
「……え?ちょっとヤバくね?」
「……ッ!油断するなよ!」
あまりにも際限なく膨れ上がり続ける魔力を前に僕は表情を引き攣らせ、アレーヌは警戒心に染まった声を上げる。
魔剣と触れ合った一個の石の破片は、それに呼応するかのような八個の石の破片は魔力を膨れ上がらせながら宙へと浮かび上がりだす。
その形は変化していく。
「……魔剣?」
これ以上無いくらいの魔力を纏った石の破片は魔剣へと変貌する。
僕の持っている魔剣より、それよりも強かった邪神が持っていた魔剣より、ずっと強い魔剣へと。
そして───────
僕の中に入ってきた。
魔剣たちは光となり、僕の中へと帰ってくる。
「は……?」
突然すぎる、唐突すぎる、意味わからなすぎる現状を前に僕は呆然と声を上げる。
そして、僕には落ち着く時間が与えれない。
「いっ!?」
突如と走った頭痛に僕は頭を抑える。
ズキッとした痛み。僕の中に何かが流れ込んでくる。
僕の中に入ってきたのは九本の魔剣だけじゃなかった。
邪神が使い、僕とアレーヌの攻撃を防いでいたたくさんの石の破片たちも僕の中へと入ってくる。
「あ、がっ……!?」
頭痛は更に酷くなってくる。
僕という存在を洗い流すかのように、数多の何かが入ってくる。流れ込んでくる。
これは……?これは……ッ!!!
「……後は任せたよ─────て」
僕の前に魔剣が差し出される。
それを僕は反射的に受け取る。
邪神より手渡されたその魔剣を。
「あぐっ!?」
頭痛は、頭は、記憶は、僕はとうとう辿り着く。
僕は─────俺は───────ッ!!!
「あッ……」
俺が頭痛に苦しんでいる時、アレーヌは邪神へと呑み込まれていた。
「あぁ……」
そして……その結末を見届けることはなく僕の視界は光に包まれた─────。
■■■■■
見えるのは洞窟。
光源のわからぬ洞窟。
いや、今ならこの光の正体もわかる。俺にわからぬものなどもはや無い。
「……今更俺にこんなものは不要だ」
俺はポツリと呟く。
視界が移り変わる。
赤黒い空。天上に浮かぶぎょろとした大きな瞳。地上を這いずり回る数多の蟲たち。
瞳に入る低い木、そんな木にまるで実っている果実のように這いずる回っている蟲たちに腐ったような形状し難い悍ましい葉っぱたち。
地獄のようなこの場所。
そんな中俺は平然と一言、言葉を告げる。
「案ずるな。俺だ」
鍵は今、開かれる─────。
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