第65話
「へぇー。ここがそうなのかい?」
「うん。多分ここが入り口だと思う」
僕はアレーヌの疑問に肯定でもって答える。
今僕たちがいるのはおそらく邪神関連のものだろうと思われる地下空洞への入り口の前へとやってきていた。
「じゃあ失礼しますね」
僕は魔剣を作り出して入り口を塞いでいる大岩を粉にして、中へと入っていく。
「……随分ときれいだな……それに光源はどこから来ているのだ?……ゼロ?」
アレーヌが何かを言っているが、それどころではなかった。
僕は目の前の光景が信じられずただ呆然と立ち尽くす。
「……な、んで?」
意味がわからない。意味がわからない。意味がわからない。
目の前に広がっているこのよくわからない光源に照らされた洞窟。
それに対して僕は非常に見覚えがあった。
……僕が、ここに来た時も、異世界に来た時も、必ず現れた洞窟だ。
「……は?え、……わから、ない」
ここから先にあるもの。それは僕が魔法で確認したじゃないか。
そこにあるのは空洞。地下の空洞。
わかっているじゃないか。今もこれ以上無いくらいの魔法を連発し、重ね合わせて感知をしている。それでも……結果は変わらないじゃないか。
僕の魔法は狂いはない。狂いがあるはずがないのだ。そんなことを誰よりも僕がわかっている。この先に広がっているのは地獄ではない。
「ひっ」
それでも……それなのに……僕の口からはひきつった悲鳴が漏れ、足を一歩引く。
思い出されるのは這いずり回る虫たち。形状を告げることさえ憚れるような虫たち。
「うぇ」
僕は跪き、口を塞ぐ。
「おぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇええええええええええええええええええ!!!」
僕は耐えきれず胃の中ものを吐き出す。
「ゼロ!?」
瞳には涙が浮かび、体がカタカタと震えているのを感じる。
「あ……あ……あ……」
僕は言葉をまともに言葉を紡ぐことすら出来ない。
脳裏からあの虫たちが離れない。
辺り一体を這いずる回る虫たち。僕の腕を登ってくる虫たち。……口に含んだあの虫たち。
「大丈夫か!?」
アレーヌは僕の吐瀉物で汚れることすら厭わず、僕の背中をさすり続けてくれている。
その優しさに僕は泣きそうだった。
「おぇ、おぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇええええええええええええええええええ」
僕から溢れ出る吐瀉物はとどまることは知らない。
僕の考えに、意思に反して、体は正直だった。
体に植え付けられた恐怖が僕を蝕んでいた。
「大丈夫……大丈夫だ……」
そんな僕の背中をアレーヌはずっとさすり続けていた。
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