第61話

「これが依頼金になります」


「うむ」

 

 アレーヌから笑顔で受付嬢さんからたんまりと金貨が入った袋を貰っている。

 どうやら僕とアレーヌは突如この街に出現したかなり強い魔物の捕獲の依頼を受けていたようなのである。

 そのかなり強い魔物というのが僕が初めてこんなところに来ていきなり戦わされた蟹の化け物というわけだ。

 

「それで……お二人はこの街から出ていくのでしょうか?」


 受付嬢さんがためらいがちにたずねてくる。


「あぁ。そうだ」


 アレーヌが力強く頷く。


「私たちの目的は邪神を殺すこと。そのためには色々なところを探しにいかなければならないんだよ」

 

「……っ!?」

 

 え?そうだったの?

 僕とアレーヌはあの邪神を殺すために戦いに出ていたの?初耳なんだけど?

 まぁ初耳で当然だけど。


「そうですか……それでは仕方ないですね」

 

 受付嬢さんが残念そうに呟く

 ふぅむ。随分と僕とアレーヌの好感度が高いな。そんなにこの街のためになることをしたのだろうか?

 まぁ、今のアレーヌはなんかコミュ力高そうだし、そういうこともあるのかも知れない。


「そういうことだ。すまぬな。私たちにもやらなきゃいけないことがあるのだ」


「いえいえ。大丈夫です。お二人の目標を私なんかが止めるわけには行きませんから」


「そう言ってくれるとありがたい。それではな」

 

 アレーヌはそう告げると、この場から離れた。

 僕もその後についていく。


「それで……次は何処に行こうか。行きたい場所とかゼロはあるだろうか?」


「ん?いや。無いよ」

 

 僕はアレーヌの言葉に笑顔で答える。


「そうか……じゃあ私が決めるな」


「うん。お願い……あ」

 

 僕は小さな声で呟く。


「ん?どうしたのだ?」


「いや、望みあったわ。僕美味しいご飯があるところが良い」


「わかったわ」

 

 アレーヌは僕の言葉に快く頷いてくれる。


「……ん?ゼロ、そんなに食事に固執していたっけ?」


 そして僕の言葉に疑問を覚えたのか尋ねてくる。


「食事の素晴らしさに目覚めたんだよ」


「おぉ!そうか!じゃ……じゃあ私が今度手料理を振る舞ってやるよ!」


「ッ!うん!ぜひ。楽しみにしている」

 

 僕はアレーヌの言葉に元気良く頷いた。

 アレーヌの手料理!楽しみだ……以前は味がわからなくて楽しめなかったから……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る