第58話

「ご、ごめん。ちょっと用事を思い出した」

 

 僕は席を立ち、離れる。

 居ても立っても居られない。


「あ、おい!」

 

 困惑の声を上げるアレーヌを無視して僕は突き進む。

 冒険者ギルドを出て、大通りを歩く。ただただ歩く。呆然と。

 

 わからない。


 わからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわ


 わからない。

 

 僕の中の困惑が止むことはない。

 ただただわけもわからず呆然と歩き進める。


 ドンッ

 

 僕の体に衝撃が走る。


「あ……」

 

 誰かとぶつかる。よろめき、倒れそうになるのをなんとかこらえる。


「あ、ゼロさん!すみません!ぶつかってしまって」


 僕の不注意でぶつかってしまって人が僕に向かって頭を下げる。

 

「いえいえ。別に構いませんよ。こちらのせいですので」

 

 僕は曖昧な笑顔を浮かべてその場を急いで離れる。

 

「あ、い─────」

 

 僕に向かって投げられていると思われるその言葉を無視して。

 大通りから少し外れ、僕は裏のスラム街の方へと進んでいく。

 

 少し……静かな場所へ行きたかった。

 頭を冷やしたい。


「あ……」


 僕が呆然と歩いていると、一つの寂れた屋台へと辿り着く。

 そこで売られているのは只のスープ。何の具もなく、色も薄い。


「おじちゃん。一つ……」

 

 僕は屋台に立っている筋肉隆々の男性に話しかける。


「金は?」


「どうぞ」

 

 示されている金額分を渡し、スープを僕は受け取る。

 

 少し離れたところに移動し、スープを前にして僕は固まる。

 

「はぁはぁはぁ」


 確実に味がした。不快、以外の味が。

 味覚が治っている……?

 ……。

 …………。

 怖い。口にするのが。

 もしかしたら……。


「いただきま、す」

 

 でも食べなければ何も変わらない。

 僕はスープを口へと運んだ。


「あぁ……」


 感嘆の声が僕の口から漏れる。

 僕の体を、心を、暖かなものがじんわりと広がっていく。


「美味し……」

 

 僕の頬を何か熱いものが流れているのを感じた。

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