第49話

「ひどい……」


 胃の中のものを吐き出し続けていたアキラネ第一王子が呆然と呟く。


「ふむ」

 

 アレーヌが興味深そうに奥の台を見つめる。

 ……少しは動じない?そんな面白いを見るような、興味深そうな目で見つめるようなものじゃないと思うんだけど……。

 まぁ別に僕もなんとも思わないんだけどさ。……僕ってばこんなに薄情な人間だったかな?

 こんなん見れば僕だって吐いてると思うんだけど……。

 なぜだろうか。別になんとも思わない。すっごく冷めた自分がいることを認知する。

 よくわからないけど、アレーヌ以外の人間にあまり強い感情を抱かない。

 色っぽいなぁとか、おっぱいもみたいなぁとかなら普通に思うけど、好きだとか、友情だとか。なんか結構大事な他人への強い思いを抱けない。

 思えばこの世界に来てから。

 はぁー。謎だわー。


「あぁ……」

 

 奥から。

 猟奇的な台の後ろからしわがれた掠れた人間の声が聞こえてくる。


「なぜ……なぜですかァァァァァァァアアアアアアアアアアア!!!」

 

 台の奥からゆっくりと一人の男が歩いてくる。……邪神教の教祖かな?

 体を振るわせ、首を信じられない角度で折り曲げる狂人。

 僕が心配になっちゃうくらいに細い体に、不健康そうな顔色。

 頬がコケ、くまが色濃く見える。

 

「はぁ!?神よ……これが……あなたの試練だと言うのですかッ!」

 

 そんな男はこの場の誰よりも元気に体を動かして叫ぶ。


「お前が……!お前がやったのかッ!!!」

 

 アキラネ第一王子が怒りに満ちた視線を男へと向ける。


「えぇ」

 

 男は当たり前かのように平然とした口調で頷く。


「ッ!!!この邪神教徒がッ!


 それを聞いてアキラネ第一王子は怒りに体を震わせる。

 それに対して男も怒りを顕にし、激しく動き出す。


「私はッ!神の寵愛を受ける者ッ!アァ!!!私はァァァカミラッ!神をッ!邪神などと呼ぶものを決して許しはせぬッ!神こそがッ!神こそがッ!!!この世界を救う!この残酷な世界を救ってくださる神なのですッ!」

 

 男、カミラは実に気持ち悪い動きで動きながら叫んでいる。

 うへぇー。気持ちわりぃ。

 君の人体構造どうなっているの?


「お前はここで殺すッ!」


「あぁ!神よ!今!供物を捧げますッ!」


 なんかどっかの物語の最終決戦ばりに盛り上がっている現場。

 僕とアレーヌが蚊帳の外だ。


「『ストップだよ』」

 

 僕は告げる。

 魔言で。

 その瞬間にこの場にいるアレーヌを除く全員がピタリと止まる。


「勝手に話を進めないでほしいのだけど?」

 

 僕とアレーヌを蚊帳の外にするとかいい度胸しているじゃん。

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