第46話
「ふむ。これからどうする?」
「そうだねー。とりあえず何か口にしようか」
僕とアレーヌはアキラネ第一王子と別れ、スラム街を歩いていた。
誰もがやせ細り、生気の失った瞳を浮かべているような地獄。
路地で、真っ昼間から女が乱暴者に欲望のはけ口にされ、悲鳴をあげている。それに対して誰も何の反応も示さないような地獄。
そこらかしこに死体が転がり、その死体にハイエナが群がっているような地獄。
そんな地獄を平然と軽い足取りで。
ふむ。
僕は心の中で首を傾げる。
何の疑問もなく僕の口から、心から漏れ出た言葉。
アレーヌ以外何も要らない。
僕とアレーヌだけの物語。
なぜ僕はこうもはっきりとそう思うのだろうか?
アレーヌは恩人だ。感謝もしている。しかし。しかし、だ。知り合ってからそれほど長い年月が経っているわけでもない。
僕にとってアレーヌがそんなに『大切な人』になる理由がない。
……確かに僕はアレーヌが好きだ。だけど、僕にとってこれが初恋というわけでもない。彼女だっていたし、それなりに女性経験もある。どちらかと言うと清廉潔白から真反対にいるような人間だった。
……普通ならば。
疑うのだろう。何か精神が汚染されるような魔法が使われたのではないか、と。
これは何か。別の何かによるものの意思で、自分の意思によるものでないか、と。
だけど、なぜか。僕の魂は。
これを絶対の自分の意志だとしている。陰ることもない絶対の意思として。
魂が告げる。これは僕とアレーヌの物語だと。
「うむ!そ、そう……だな。ここにはまともな飯屋などない、であろう?」
ためらいがちに告げられる言葉。
「うん。そうだね」
「良ければ……私の、手料理。なんて……どうだ!?」
頬を赤く染め、告げられる言葉。アレーヌの恥ずかしそうな好意。あれだけ堂々と夫婦だと断言した人間とは思えない弱々しさ。下手すぎる甘え方。
……なぜ僕はこんな余裕の無い人を好きになったのだろうか?
僕はどちらかと言うと余裕のあるお姉さんが好みだったというのに。
「うん。そうしようか」
僕の肯定の言葉。
それを受けてアレーヌは嬉しそうに破顔させる。
……可愛い。心の底からそう思う。愛おしい。
僕の心を撫でる暖かな気持ち。
ふふふ。心地よい。
もしかしたらこれは誰かの策略なのかも知れない。
そうでもあっても構わない。
今は……この心地よさにしばし浸っていたい。
「ではゆくぞ!」
僕は意気揚々と歩く速度を早めたアレーヌの後を追っていった。
……食事は嫌だなぁ。
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