第44話
「なるほど……素晴らしい魔法だ。恐ろしい……魔法とはこの世の理に自由自在に干渉するものだ、と」
ゆっくりと進んでいく馬車の中。
アキラネ第一王子がなるほどーっと、しきりに頷いている。
「じー」
そんな中、僕の前に座っているアレーヌがじーっとした視線を、無言で向け続けている。……な、何を考えているんだ……?
僕とアレーヌの目的地である邪神教のアジト。それはミリア王国内にあるのだ。目的地は僕とアレーヌ。そしてアキラネ第一王子は一致していた。
なので護衛任務という形で僕とアレーヌが同行している。
先程の馬車を囲んでいた男の人たち、盗賊たちの奇襲を受けて騎士が半壊してしまったので、新しい護衛を必要としているのだ。
ちなみに盗賊たちは全員焼却処分した。
ここはまだアラキア公国なのだ。外国の盗賊を生け捕りにして運ぶのは面倒だし、殺してしまったほうが楽だ。
圧倒的に、ね。
「じー」
そしてその馬車の道中。魔法が得意らしいアキラネ第一王子に魔法を教えてあげているのだ。
……アレーヌの視線が痛い。
「そういえば」
アキラネ第一王子は顔を上げて僕とアレーヌを見比べる。
「お二人は夫婦なの?なんで二人で騎士団を辞めて旅に出ているの?」
「夫婦だ。旅に出ている理由はゼロが旅にでたがっているからだ」
夫婦だ。
……アレーヌは即答す、……りゅ?
「……え?」
「む?どうした?お前は私のことが好きだろう?」
「え、あ。うん」
アレーヌの有無を言わさない絶対的な言葉を前に僕は頷かざるを得ない。
……確かに僕はアレーヌが好きだよ?異性として。……でも僕は異世界人で、いつこの世界から居なくなってもおかしくない存在で……僕が誰かと……。
今更か。
僕は考えを改める。僕もアレーヌも共依存といえるほどの互いに深い関係を刻んでいる。すでにどうしようもない位置にまで来ていると言えるだろう。
……ただ僕がチキンな、だけ、か。
「うん。そうだね」
僕は笑顔を浮かべてアレーヌの言葉に頷く。
「新婚旅行のようなものですよ」
僕はアキラネ第一王子に向かって自然と伝える。僕とアレーヌが夫婦。
これ以上無いくらいに僕の中に嵌まる。パズルのように。
とはいえ、だ。
……でも付き合ってと言われた記憶もないし、結婚してと言われた記憶もない。当然付き合った記憶も、結婚した記憶もない。
……。
…………。
ま、いっか。
深く考えないほうが良い。
異世界に来てから磨かれた僕の危機察知能力がそう言っている。うん。素直に従おう。
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