第28話

「ふっ。ふっ。ふっ」

 

 僕は一心不乱に剣を振るう。持っているのは重たい訓練用の剣だ。

 

「ふっ。ふっ。ふっ」

 

 僕は魔法が得意な遠距離攻撃タイプだ。しかし、だからと言って剣をおろそかになんてしない。

 鍛えておいて損になることはない。魔法には天賦の才を持っているが、剣に関していえばそんなでもない。才能がある方だと思うが、天才と言うほどではないのだ。

 だからこそ剣の修練は怠ることが出来ない。

 眠れぬ夜。孤独の夜。

 僕はこうして一人で剣を振り続けるのだ。

 

「ふっ。ふっ。ふっ」

 

 僕がいる場所はスラム街。お世辞にも治安が良いとは言えない街で、星明かりの下剣を振る。

 スラム街の人間は明らかにお金を持ってそうな僕を得物を見るような目で遠くから見てくるが、誰も襲っては来ない。

 まぁ高そうな魔法使い用のローブを身につけた男がずっと剣を振っている。そんなヤバい男を襲うなんて度胸はないだろう。スラムの人間は基本的に確実に勝てそうな相手にしか挑まない。

 僕はたくさんのギャラリーの元、一人剣を振り続けた。 


「ふぅー」

 

 それからしばらく。

 僕は剣を振る腕を止める。

 空はもうすでに明け始めていて、太陽がすでにこんにちはしていた。


「よっと」

 

 僕は手に持っていた剣を異空間収納魔法に仕舞う。


「んーっと」

 

 僕は体を伸ばし、汗を魔法で消し飛ばし、自分の体臭を打ち消し、ローブもきれいにしていく。


「これでよし」

 

 僕は頷き、安宿へと戻った。

 

 ■■■■■


「すぅすぅ」

 

 安宿のベッドで心地よく、気持ちよさそうにアレーヌがベッドに眠っている。


「つんつん」

 

 僕はアレーヌのほっぺをつつく。アレーヌのほっぺはとても柔らかく、僕の指を優しく押し返す。


「すぅす」

 

 アレーヌは基本的に一度寝たら殺気でも向けられない限り起きない。どんな悪戯をしても基本的にはバレない。


「ふふっ」

 

 僕はアレーヌの寝顔を見て笑みを浮かべる。かわいいなぁ。……僕は……。


「ううん」

 

 僕は頭を振り払い、余計な考えを打ち消す。


「起きて」

 

 そして、僕はアレーヌの体を優しく揺する。


「起きて。アレーヌ。朝だよ」


「ん、んぅぅ」

 

 僕に何度も体を揺すられたことでようやくアレーヌは徐々に意識を取り戻していく。


「うぅぅ。もう朝か?」


「うん。朝だよ。いい天気だよ。外は」

 

 僕は安宿につけられたボロボロのカーテンを明ける。

 窓、いや。ガラスはないのでただの穴から温かな光が差し込んでくる。


「おはようぅぅぅ」


「うん。おはよう」

 

 僕は未だ寝ぼけているアレーヌに笑顔で言葉を返した。

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