第16話

「ふん!ふん!ふん!」

 

 僕は二人に魔法を教えている間、他の男子二人はアレーヌさんに稽古をつけてもらっていた。

 剣を持った男の子は素振りをアレーヌさんに見てもらい、重装備の男の子は防具の手入れの仕方などをアレーヌさんから教わっていた。

 商人はそんな様子を温かい眼差しで眺めている。

 アレーヌさんは女の子相手に教えている僕を重い、重たい視線でじっと眺めている。

 ……たまにこっちに向かって剣を振るの辞めて?アレーヌさん。


「そろそろ睡眠の時間でしょうか?」


 僕は暗くなってきた空を見上げた呟く。

 そろそろ眠る時間だろう。

 商人なんかはすでに寝る準備に入っている。


「夜番は僕が担当しましょう。この中では僕が行うのが一番適任でしょうから」

 

 僕はみんなに向けて告げる。


「うむ。任せた」

 

「え?一人で?」

 

 アレーヌさんは僕の言葉に頷き、魔法使いの子は疑問符を浮かべる。


「夜番は最低でも二人でやれって教わっているんだけど?」

 

 剣を持った男の子は僕のことをはっきりと眺めて告げる。


「そうですね。基本は二人のほうが適任でしょう。ですが、私は別です。私には便利な魔法がありますから。一人でも十分なのですよ」

 

「な、なるほど……」

 

 僕の言葉に四人の冒険者たちは頷く。


「皆さんはぐっすりと眠っていてください。後は全て僕がこなしますから」

 

 ■■■■■

 

 ガサガサ

  

 チュッチュッ

 

 草木の揺れる音に鳥の鳴く声。

 空に輝くのはお月様に様々な星々。空に浮かぶ高嶺の宝花たちがここからでもよく見えた。

 僕はそんな星々に手をのばす。

 あの星々の中に地球があるのだろうか?

 お母さんは、お父さんは、友達は、彼女は……今。何をしているのだろうか?


「ふー」

 

 そんな世界を眺めながら僕は一息つく。

 少しでも油断すれば落ちてしまうほどの強烈な眠気。だが……眠ることはできない。夜番があるし、何より寝ても悪夢に魘され、飛び起きだけ。

 余計な体力を削るだけで終わるだろう。

 

「……」

 

 眠気に負けないように集中する。

 僕の感知に、感知魔法に引っかかる小さな小動物、虫たちの動きを把握する。

 魔物は範囲内にはいない。……魔物にもある程度の知識はある。危機感知などの本能であれば魔物のほうが高いくらいだ。

 化け物でしかない僕とアレーヌさんがいるような場所に近づこうとしないだろう。僕もアレーヌさんも自身の力を隠していないし。


「ふわぁ」

 

 せめて魔物でも出てきてくれれば楽なんだけどなぁ。

 長く、そして孤独な夜を僕はまた一つ。過ごす。

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