第12話
「もう少し待て。……も、もう少しで出来るから」
キッチンに立つアレーヌさんが僕に向かってそう告げる。
「はーい」
僕はそれに対して言葉を返す。
ここは何故か知らないけどアレーヌさんが持っていた家だ。普段は騎士団長用に用意されている宿屋があり、普段はそこで寝泊まりしているはずなのに、それとは別にもう一つ家を持っていたのだ。
「で、出来たわよ」
アレーヌさんが料理を持ってきてくれる。
まず目につくのがテーブルの中央に置かれている大きなお肉。美味しそうな肉とハーブの匂いが漂ってくる。
他にも美味しそうな大きなソーセージに、キャビアが載せられた生ハム。
原材料は何か知らないけど、これまた美味しいそうな匂いを漂わせ、湯気を上げるスープ。グラスにはワインが注がれている。
後はパンに野菜。
どれも本当に美味しそうだ。
「ありがとう」
「と、取り分けるわね」
少し緊張しているアレーヌさんが大きなお肉をナイフで切り分け、手づかみで渡してくれる。
僕はそれを小皿で受け取り、僕専用のフォークで差し、食べる。
食べると同時に口いっぱいに広がるこの世のものとは思えない激臭。
噛むたびに意味わからないドロリとしたものがとろけだし、苦味をこれでもかというくらいに叩きつけてくる。ネチョネチョした不快な食感。
前世で出てくるメシマズヒロインが作るダークマターも真っ青なレベルの不快感とまずさ。
僕は表情を歪めずに食べきるのに必死だった。
「ど、どうだ?」
「美味しいですよ」
「そ、そうか!……良かった……」
アレーヌさんが僕の言葉を聞いて頬を緩める。
きっと美味しいのだろう。見た目も匂いもパーフェクトだ。
だけど、僕の味覚は全てを捻じ曲げる。たとえどんな料理人が作った料理であってもゴミのような味しか感じない。
アレーヌさんも食べ始める。
お肉をナイフで切り分け、豪快に手づかみで食べる。
まぁ中世ヨーロッパの貴族でも手づかみでものを食べる。この世界の文明レベルは中世くらいなようだし、それが当然なのだろう。
アレーヌさんが素手で食事をするなか、僕はフォークで食べ進めた。
顔を歪めないように注意したまま。
「ごちそうさまでした」
「うむ」
程なくして全ての料理を平らげる。
僕は前世の癖でいつもどおり手を合わせ、ごちそうさまと告げる。
「美味しかったですよ。料理上手いんですね」
「そ、そうか!うん。頑張った甲斐があった」
アレーヌさんは満面の笑みを見せて告げる。
そんなアレーヌさんを見て僕は内心泣きたくなる。
なんで僕は……。
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