第11話
「どの依頼を受けましょうか?」
僕は冒険者ギルドで、依頼が書かれている紙が貼られた掲示板を眺めながら呟く。
ちなみに掲示板の周りにいるのは僕らだけだ。冒険者たちは文字が読めないので受付嬢さんにいちいち何の依頼があるのか口頭で確認するのだ。
……何のための掲示板なんだろうね。これ。
ほとんど平民、貧民である冒険者達が文字を読めるはずがないのに。
「うむ……やはりこの国から離れられるような依頼のほうがいいよな」
「うん。出来るだけ世界を見て回りたいよね」
「これなんかどうだろうか?」
アレーヌさんが指さしたのは商人の護衛の依頼。……複数パーティーで、ということになっているのだけどアレーヌさんはいいのだろうか?
僕とのデートにしたいと思っていたのではないのだろうか?
僕は別に鈍感じゃない。アレーヌさんの好意には気づいている。というか、好きって言われたしね。
……まぁ、ちょっと色々あって僕はその好意に対してなぁなぁな態度をとっているんだけど。『付き合って』て言われてないから……結構ひどいやつだね。僕。
……でも、僕が一体何なのかわからないからなぁ。……いきなり元の世界に戻ったとしても何もおかしくない。僕がこの世界に来たのだって唐突だったのだから。
そんないつ消えてもおかしくないような人間と付き合うなんてアレーヌさんも嫌だろう。
「アレーヌさんがそれでいいのならそれにしようか」
「うむ」
僕たちはこの依頼を受けることにした。
依頼には明日の朝に待ち合わせ場所に来るように書かれている。
今日はここで一晩を明かすことになるようだ。
……この異世界に来て早一年。実は野宿を除いて、騎士団員に与えられる宿屋以外で眠るのは初めてかも知れない。……今日は眠れなそうだが。
■■■■■
「夜ご飯何にしますか?」
「ふむ。そうだな……」
アレーヌさんが顎に手をやり、悩んでいる様子を見せる。
特に要望はなし、か。
「じゃあ、そうですね。あそこなんてどうですか?」
僕はアレーヌさんが好きそうなお店を指差す。
「……」
それを聞いてアレーヌさんは沈黙を保つ。
「……アレーヌさん?」
挙句の果てには足を止め、完全に止まってしまう。一体合切どうしたのだろうか?何か嫌なことでもあったのだろうか?
「よ、良ければ……」
アレーヌさんがためらいがちに口を開く。
「わ、私の手料理を食べてくれないだろうか……?」
「え……」
僕はアレーヌさんの予想外の提案に足を止め、呆然と口を開いた。
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