第8話

 後ろから感じる重たい視線。じっとりとした視線。

 

「……ゼロ」

 

 アレーヌさんが冷たい声で僕のことを呼ぶ。


「は、はい?何でしょう?」

 

 僕はアレーヌさんの方に振り向く。

 

「お前は私のものだ。私以外に馴れ馴れしくするな」

 

 アレーヌさんは僕のことを優しく抱きしめ、すねたように告げる。アレーヌさんの表情には不安の色が浮かんでいる。

 待って?かわよ。

 周りの冒険者たちはそんな僕らを見て黙り込んでいる。これが僕ら二人、アレーヌさんじゃなければ囃し立てただろうが、相手がアレーヌさんともなるとそんな迂闊な事はできない。

 すでに泡を吹いて気絶した犠牲者がいるし……。


「はい。ギルドの登録が終わりました。えっと、ギルドについての説明は必要でしょうか?」


「あぁ要らないよ。僕たちはこれでも元騎士団だからね。それくらい知っているよ」


「そうですか。ではこれがギルドカードとなります。……え、えっと……アイアンクラスからのスタートとなります」


「はい。わかりました」

 

 僕らは鉄製のカードを手渡される。そのカードにはギルドのみ所有している特別な魔法が込められており、カードに魔力を流すと自分の名前や年齢などが記載されるようになる。僕は『自分の情報を制限』してカードに魔力を流し込んだ。

 さて、このカードだが、これはギルドカードと呼ばれるギルドに登録すると発行される冒険者専用の身分証明書だ。これはこの世界の公の身分証明書として使用することができ、ほとんど国で通用する。日本のパスポートレベルで強い。

 冒険者には、クラスと呼ばれる階級が存在していてギルドカードもクラスに適した素材で作られる。

 下からアイアンクラス、ブロンズクラス、カッパークラス、シルバークラス、ゴールドクラス、プラチナクラス、ミスリルクラスと行った感じだ。

 僕たちはなったばかりの新人なので、アイアンクラスだ。実力があれば上のクラスに行けるというわけではない。ギルドからの信用がなければ上のクラスに行けないのだ。


「パーティーはお二人ってことでいいでしょうか?」


「うん。大丈夫。問題ないよ」

 

 僕は受付嬢さんの言葉に頷く。

 パーティー。基本的に冒険者は一人で動かない。複数人で動く。冒険者のまとまりのことをパーティーと呼ぶ。


「えっとそれでは……次にお二人のパーティーに加入する僧侶の紹介ですね」


 受付嬢さんは大きな本を取り出し、ページを捲りながら告げる。 


「要らない」


「……え?」

 

 アレーヌさんのその一言を前に受付嬢さんが再び固まった。

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