第2話

 僕が石畳を歩いていると、音が聞こえてくる。

 鎧がガチャ付く音と僕の足音以外の音が。

 

 ブンッブンッ

  

 風を切る音が聞こえてくる。

 しばらく歩くと、開けた場所に出る。


「アレーヌさん」

 

 僕は声をかける。

 ここは訓練場。騎士団のための訓練場だ。


「あぁ。ゼロ。どうした?」

 

 ハスキーで、カッコいい女性の声が聞こえてくる。

 訓練場にいるのは騎士団長であるアレーヌさん。

 さっきまで訓練で大剣を振っていたのだろう。その手には僕くらいの長さがある大剣が握られていた。

 短く肩で整えられた金髪のショートヘアで、碧眼の瞳がきれいだ。

 僕よりも遥かに高い身長と、僕のもやしボディーとは異なるマッチョでムチムチなボディを持った美人さんだ。

 この人は僕の命の恩人だ。 

 

 一年前。

 いきなり飛ばされた異世界で困惑していた僕を拾い、面倒を見てくれた人だ。

 この人のおかげで僕はこの異世界で生きていく事ができたと言える。

 パトラシア王国。僕が転移した場所の国であるパトラシア王国の騎士団長で、僕を独断で騎士団へと入れてくれた人だ。

 本当にこの人には頭上がらない。


「すみません。訓練の邪魔をしてしまって」

 

 僕はアレーヌさんに謝罪をし、汗を拭うためのタオルを渡す。

 その際、アレーヌさんから濃厚な汗の匂いが僕を襲う。

 すぅー。はぁー。くんくん。

 ……女の子の汗の匂いって、良いよね。


「嫌。大丈夫だ。問題ない。それで?何のようだ?」

 

 僕は呼吸を整え、真面目な表情を作る。


「大事な話があります」


「……っ!」

 

 僕の言葉を聞いてアレーヌさんの表情がピクリと動く。基本的に動くことのないアレーヌさんの表情が一瞬でも動く瞬間は本当に珍しい。


「いつ。お話が出来るでしょうか?」


「……な、なるほど。では今日の夜。私の家でどうだろうか?」


「わかりました。では、今日の夜。アレーヌさんのお部屋を訪れさせてもらいますね」


「あぁ。そうしてくれ。……くれぐれもバレないようにな」


「……?あ、はい」

 

 僕は首を傾げながらアレーヌさんの言葉に頷く。

 なんでバレないようにするんだ?

 確かに婚前のアレーヌさんの部屋に男である僕が行くのは少し問題があるが、別に今回が初めてではないだろう。

 何度かお邪魔させてもらっている。

 なのになぜ。今?わからない。だが、アレーヌさんが言うなら従おう。

 なんかあるのかもしれないし。


「では、夜にまたお会いしましょう」


「……あ、あぁ!」

 

 若干いつもより声が高くなったアレーヌさんの言葉に疑問を懐きながらも、僕は訓練室を離れた。

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