第1話

 僕は重くて邪魔な鎧をガチャガチャと鳴らしながら石畳の廊下を歩く。

 僕の名前は八重彩都。またの名をゼロ。今年16歳になる男の子だ。 

 そんな僕であるが、おそらく日本人の中でもかなり不幸に位置する人間であろう。


 今から一年前。新しく始まる高校生活に胸を踊らせていた新高校一年たった僕はある日、意味がわからないところに迷い込んだ。

 なんかその時の記憶はふわふわとしていて、あまり詳しくは覚えていないのだけどよくわからない洞窟を歩いて、野原の中で見つけた光に向かって歩いていたら、突然視界が白く染まり、気づいたときには全然知らない場所、異世界に迷い込んでいたのだ。

 よくある異世界転移系の小説にあるあるのパターンで、言語能力もなんら問題はなかった。普通に言葉を話すことが出来た。それだけは良かった。


 しかし、僕の異世界生活は最悪そのものだった。

 別にチートがなくて、苦労したというわけではない。他者とは比べものにならない才能を持っていた。所謂天才だった。 

 問題だったのは、何故か異世界に来てから体がおかしくなってしまったのだ。たとえなんであろうと、口に入れれば信じられないまでの『異次元のまずさ』が僕を襲い、一度眠れば悪夢に魘され、飛び起きる。ましてや僕の僕は死んでいた。何故かうんともすんともいわない。

 別に僕の僕はEDなわけではない。経験だってある。

 僕は、何故か人間の三大欲求である食欲、睡眠欲、性欲が奪われたのだ。 

 体が食事を拒否するせいで僕の体は痩せていて、目元には色濃いくまが刻まれている。女性だって性的な目で見れても、発散することが出来ない。

 割と地獄だ。

 というか、結構地獄だ。

 早く日本に帰りたい。切実に帰りたい。せめて味覚だけはなんとかしてほしい。

 

 

 そんな異世界生活を送って一年間。

 僕は必死に体を鍛えた。正確に言うと鍛えることしか出来なかったんだけど。食べることも、寝ることも苦痛で、女遊びも出来ないのだから。

 僕には剣を振ることしか出来なかった。それしかやることがなかった。悲しいことに。

 ひたすら剣を振って、魔法を極めて。

 一年間。一人で世界へ旅に出ても死なないだろう、というところまで僕は体を鍛えることができた。強くなれた。

 僕は今日、今までお世話になった騎士団を辞める。

 

 そして、僕は旅に出るのだ。

 

 日本に帰るのだ。いや、帰れなくていい。本当に切実に味覚だけはなんとかしたい。

 後ついでに僕の僕が復活したときのためにハーレムも作りたい。

 やりたいことは、やらなくてはいけないことがいっぱいあるのだ。

 

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