第5話
「おい! こっちだ!」
「逃げろ!」
そんな悲鳴にも似た声が辺りを飛び交う中。
「おい、あんたなにやってんだ!」
「そっちは逆方向だぞ!」
俺は一人逃げ惑う人々と逆流して馬を走らせていた。
「はぁ、はぁ……なっ、なんで」
――こんな事に!
向かう先は自宅。ロアの元だ。
――てっきりもう逃げたモノだと思っていたのに!
しかし、聞いたところによるとその日。一度も外に出ている姿を誰も見ていないと言う。
「クソッ!」
俺はその日、ロアの使いとして隣国に来ていた。そのタイミングで『魔物』が攻めてきたのだと言う。
「あれが『魔物』か」
遠目でしか見えないが、いつぞやにロイさんから聞いていた翼を生やした『魔物』やどの建物よりも体の大きな『魔物』の影が数十体見える。
大きさはまちまちで個性豊かなのではあるが、そのどれにも人間が敵うような様子は見当たらず、とても相手になりそうにない。
――よりにもよってなんでこのタイミングなんだ!
苛立ちを押さえつつ、俺は逃げ惑う人々の隙間を縫うように駆け抜け、自宅へと急いだ――。
「はぁ、はぁ……あ?」
自宅に辿り着くと、そこに広がっていたのは不思議な光景だった。
――なっ、なんで……。
なぜなら、辺り一面は何も残らず平地になっていたにも関わらず、自宅だけがポツンと残っていたのだから。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「どっ、どういう事だ?」
――訳が分からない。
これだけ『魔物』が暴れていれば、貴族の中でも小さいはずの我が家なんてすぐになくなっていそうに思ってしまう。
――たっ、確かにここは国の中でも端の方にはなるが。
それにしても「無傷」というのはおかしい。
「!」
――って、呆けている場合じゃないぞバカ!
正直、屋敷の周りに広がっている光景は……とてもひどいものだ。それを考えると、たとえ屋敷が無傷でも、中がどうなっているのか分からず、思わず足がすくんでしまう。
――いや、自宅が無事だからと言ってロアの安否を確認するのが先だ!
そう思い意を決して屋敷に入ると、そこはいつもと何も変わらない光景が広がっている。照明はついていなかったが、それ以外は何も変わらない。
「……」
俺はその光景を見てただただ驚くしかなかった。しかし、歩みを止めるワケにはいかない。
――まずはロアを見つける事だ。たとえ、どんな姿になっていたとしても。
「あら、もう帰って来たのね」
「!」
だが、俺の心配は杞憂だったとすぐに分かった。なぜなら、俺が見つけるまでもなく、ロアは自分から階段を下りてきたのだから――。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「ロア! 無事ですか!」
「ええ、もちろん」
いつもの様に現れたロアは傷一つ無く元気そうだ。
「そっ、そうだ。ロア、今すぐここを離れないと!」
「あら、どうして?」
「今『魔物』が国を攻めて来ていて……」
ロアは俺が必死に状況を説明しているのに、全然気にしている素振りを見せない。それどころかどこ吹く風だ
「だから」
俺がそう声をかけた瞬間、突然室内が明るくなった。
「っ!」
その事により俺は思わず目を細めたが、その理由が「魔物によるモノだ」という事にすぐには気がつかなかった。
「なっ!!」
気がついた時には、屋敷よりも大きな『魔物』が俺たちを覗き込むように見ていた。
「クッ!」
俺はすぐにロアを守る様に立ったのだが、次に聞こえてきたのはロアの「ねぇ」と俺を呼ぶ声。
「だっ、大丈夫です。ロアは俺が……え?」
しかし、ロアは俺の心配をよそに『魔物』に見える様に姿を現す。
「ロッ、ロア!」
「ふふ、大丈夫よ。ノア」
「なっ」
「だって『魔物』をここに呼んだのは、私だもの」
サラリと言われた衝撃事実に、俺は「え」と間抜けな声を出してその場で立ち尽くして呆然とするしかなかった――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます