守護霊

 「今度ばっかりはそんな気になったんじゃないかって思ったのよ。だってあのお姫様ほんとに可愛いじゃないの、ね?ふたりきりで旅なんて全く穏やかじゃないわよね。」

 「穏やかそのものだよ。俺はあの子にやましい気持ちなんかこれっぽっちもないからな、今のとこ。」

 「あら何考えたってやましかないでしょうよ、別に。しかしその、今のとこってあたりがいかにも正直ね。」

 そう言うとシャクティと呼ばれた女はまたあははと笑った。彼女はいつも今のように、気紛れに現れては好き放題を言い散らすのだ。シャクティ自身は、自分はバーリの守護霊だと言い張っているのだが、かねてより彼のほうはそれは違うと思い続けていた。確かに助けられたことがないじゃなかったが、守護霊にしちゃ彼女実によくさぼる。そのうえこの口の悪さだ。何だかちっとも有り難くない。

 元々シャクティはバーリとは双児のきょうだいだった。一緒に生まれてくるはずだったが加減が悪く、シャクティだけが死産となってしまったのだ。名前をもらって手厚く葬られた彼女だったがどうしたわけか成仏ならずに、以来バーリの「守護霊」となってずっと彼のそばにこうしてついたままになっている。

 シャクティによれば、彼女とバーリはあくまでふたりで一人、本来なら一緒に居てものすごいパワーをうみだすはずだったというのである。確かに今現在でも、ふたりの意志が合えば強烈な熱線を放出するに至る場合があって、それでバーリが危機を脱したことも特に彼の放浪時代には何度もあった。

 しかしむしろ問題なのは「ふたりで一人」のほうであって、早い話が、バーリも絶命しないことには、シャクティは成仏しようにもできなくなっているらしいのだった。だからわたしは、あなたが死ぬのを待っているようなものなのよね、と時折シャクティは笑って言うが、それでもバーリの守護霊としての性格もやはり彼女一応備えてはいるようだった。

 「で・・・どうするの、バーリ、やっぱり逃げるの?」

 そういうシャクティに彼は軽く肩をすくめて見せた。元々バーリが今度の神殿行きの話を即座に受ける気になったのも、城の外にしかも一人で出られると思ったからだった。花嫁もいないというのにもうこの国に居る理由は何ひとつない。ここにいれば大事にはしてもらえるだろうが、基本的に宮廷暮らしは窮屈で好きではなかった。エミワックに長居したのも第二皇子がいたからで、彼が婿入りを済ませてしまえばバーリも城を辞してまたぞろ旅に出るつもりだったのだ。それに何より彼は、城の者たちに、生きているラーダーナにとうとう会わせてもらえなかったことをかなり根に持っていたのだ。それに気付いてバーリはすこし苦笑いした。自分がそんなに執念深い人間だったとは今の今までちっとも気付いていなかった。

 

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