ペンダント

 バーリはまた会釈を返したが、小首を傾げ、レザルーン王に向き直って言った。

 「しかし陛下、わざわざファル様にご足労いただく必要はございません。やはりわたくしひとりで参りましょう。片道三日の徒歩の道程をファル様にお願いするのは心苦しく存じます。」

 「いやそれは構わぬ。この子には・・ラーダーナにもそうだったが・・その程度の道行きはものともせぬだけの教育は施してある。必ずバーリ殿のお力になるぞ。それにあの神殿に入るには王族の血を持つ者が必要なのだ。ラーダーナと永年連れ添っていたならバーリ殿にも門は開かれようが、今の状態ではおひとりでは中に入ることはかなわぬと思われるぞ。」

 「はあ・・。」

 どちらかというとファルにバーリが連れて行ってもらうというのが正解のようだ。

 「しかしふたりきりで旅をするというのは・・」

 「なに、よいだろう。これから兄妹としてやっていくのだ、はじめは遠慮もあろうがすぐに心安くなることであろう。そうであってもらいたいものだ。」

 そう言うとレザルーン王は今度はファルに向き直った。

 「ところでファル、そなたはこれを身につけて行くがよい。」

 ファルが恭しく受け取ったのは、小さな、細かい模様がぎっしり彫られた木の箱だった。蓋を開け、中からファルは何やら取り出した。それは、これまた精緻な透かし彫りで出来た、大きいがごく薄い、美しいペンダントだった。

 ファルはそれをそのまま自分の首にかけた。

 「それを身に着けている限り、邪な者がそなたに触れることはならぬだろう。万一の備えだ、離すでないぞ。」

 ファルが丁寧に礼を言う。バーリは自分が本当に信用されているのかどうかはなはだ疑わしいと思いはじめていた。

 「ふたりとも明日の朝出るがよい。星もそう告げておる。今日はゆっくり身体を休めるのじゃな。要り用のものがあれば侍従に申しつけるがよい。バーリ殿にはのちほど森までの道をご説明させておこう・・。」

 というわけでバーリとファルが城を出て今日で二日目だった。その日の朝のうちに問題の森には入っている。森に入れば道などほとんどあてにならない。慣れた様子でてきぱき歩く、ファルの記憶だけが頼りの状態だった。 

 

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