神殿へ
バーリとファルがやっと言葉を交わしたのは葬礼からもう三日後、王の間でのことだった。その日、レザルーン王に召し出されたバーリは、そこに一足先にファルが来ているのを見つけて会釈をした。
ファルは花みたいに笑って挨拶を返したが、その顔はまだ泣き疲れたように翳っていた。レザルーン王がバーリに声をかける。
「バーリ殿ご気分はいかがかな。このところ何かと立て込んでおったゆえお疲れではないだろうか。」
「いえ・・・。」
「はるばるお越しいただいたのにこのようなことになってわたしとしても大変心苦しく思っている。できる限りのことは何でもするつもりだ、いつでも言ってくれたまえ。」
「ありがたく存じます。」
エミワック王族の名前は信じられないほど長ったらしい。だからバーリが自分のことはバーリと呼んでくれ、と言えば皆喜んでそうしてくれた。おかげさまで自分の名前を呼ばれたのにうっかり返事を仕損なうなんて失態は避けることができそうだった。
「ところでバーリ殿。本日お呼び立てをしたのは他でもない。そなたにやってもらいたい仕事があるからだ。」
やってもらいたい仕事・・・。
「はい、何でございましょう。」
「この城の裏しばらく行くと大きな深い森に出る。ご存知かな?」
「はい。一度物見台より見たことがございます。」
「実はその中には我が王族の古来よりの神殿がある。ほんの小さなものですっかり森に埋まってしまっておるがな。バーリ殿にはそこへ行って鏡をひとつ、取って来てもらいたい。」
「鏡、ですか。」
「鏡だ。ラーダーナが生まれた時に祭壇に置いたものだよ。あの子が亡くなってしまったので今度は別の祭壇に移し替えなくてはならない。歩いて片道三日ほどだが行ってもらえないだろうか?我々一族にとっては大切なものだ、仮にもあの子の夫であるバーリ殿に、ぜひ取って来てもらいたいのだが。」
「それはもちろん喜んで。」
バーリは即座に快諾した。レザルーン王は満足気にうなづく。
「頼もしい言葉だ。よろしくお願いする。これはある意味秘儀にあたるので、供の者はできたらお付けしたくないのだがよいだろうか。」
「ええ結構です。」
バーリはしっかりとうなづいた。
「わたくしひとりで参りましょう。」
「いやそなたひとりではない。」
バーリが、え、という顔になる。
「この子を連れて行ってくれたまえ。ラーダーナの妹のファルだ。もうご存知かな?」
ええ、とバーリは短く答えた。ファルはあらためてバーリにきれいなお辞儀をする。
「よろしくお願いいたします、兄者様。」
それが、バーリがファルの声を聞いたはじめだった。発音のはっきりした鈴のような声だが甘ったるい感じはあまりない。どことなく歌うような、独特の響き方が心地良かった。
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