会えぬままの花嫁
さて着いてみると確かに下へも置かぬもてなしを受けはしたが、肝心の花嫁にはなかなか会わせてもらえなかった。なんでも婚礼の夜までふたりは顔を合わせてもならない決まりだという。ありそうなことだが本当にそれでいいんだろうかと行き場のない疑問を抱えていたバーリの元にこれまた難儀な知らせが入った。なんと花嫁である第一皇女のラーダーナは現在重い病の床にあるという。
もともとあまり丈夫でなかったところにきて、何故か急に原因不明の高熱に襲われ、実は明日の命も知れない状態だという話に、バーリは花嫁を見舞わせてくれと頼んだが、伝統とやらの前にそんな願いが聞き入れられることもなかった。星の配置で決まった日取りのため婚礼の日時は動かされず、狭い神の間の中でバーリは神官たちに囲まれて花嫁不在の結婚式を行なった。式を終えたというのに花嫁の部屋を訪れることは許されず、式の三日後、ついにラーダーナは息を引き取ったとバーリは聞かされた。
バーリがはじめてラーダーナを見たのは、彼女の葬礼の時だった。白い白い花に埋め尽くされた豪奢な棺の中にそっと横たわるラーダーナを見た時、バーリは自分でも驚いたことにこみあげてくる涙をとめることができなかった。
棺の中のラーダーナはまるで眠っているだけのように穏やかだった。淡く紅をひかれた口もとにはほほえみさえ浮かんでいる。色白で透明感のあるなめらかそうな肌、すこし明るい色調の黒い髪、閉じたまぶたには理知の光と涼やかな優しさがまだほんのりとさしたままだった。ラーダーナは美しかった。誰にもまして美しい人だった。
そしてバーリがファルをはじめて見たのもその席だった。目を真っ赤に泣き腫らしたファルはその場でもぱっと目につく愛らしさを持っていた。ラーダーナとは少しタイプが異なりあまり雰囲気は似ていない。しかしこちらもその大きな目に利発そうな光を溢れるほどたたえ、その立ち居振舞いの全てが彼女の育ちの良さを物語っていた。姉よりすこし色の濃い髪と肌をしている。ファルはバーリと目が合うと丁寧なお辞儀をしたが、近くに寄って来ることはまだなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます