婿入り
もともとバーリは、エミワック王国の第二皇子の剣の指南役をしていた。年も近いせいか皇子とはすこぶる仲が良く、バーリは城内に住み込んで、ふたりはいつも行動を共にしていた。その皇子が隣国のレザルーン王国の第一皇女の元へ婿入りすることが決まり、準備も着々と進んでいたところ、数人のお付きだけ連れて一人で出かけた遠乗りの際に皇子が落馬し、あっけなくこの世を去ってしまったのだ。
それを聞いたバーリは悲嘆にくれたが、すぐに彼に下されたエミワック王の命令は、呆れたことに、亡くなった皇子になりすまして、レザルーンに婿入りするようにというものだった。
このところぎくしゃくしていたレザルーンとの関係をどうにか修復してこぎつけたこの婿入りを、いまさらなかったことにはできないが、第一皇子にはすでに妻がいるし、あとの三人は皇女だったのでエミワックにはもう皇子がいない。レザルーンには二人の皇女がいるのみで、縁組みをしようとすれば皇子がどうしても必要となるのだ。偽物を差し向けるほうがよっぽど信頼関係を損なうとバーリは思ったのだが、あれよあれよのうちにいつの間にか養子縁組の手続きがされて、形の上ではバーリもエミワックの皇子ということになってしまった。それなら亡くなった皇子のことも話すべきではと思われたが、いかにも代わりの者を行かせたのではレザルーンに対して礼を欠くであろうと言われて、あくまでバーリは第二皇子として婿になることになった。やってることはどうせ礼の欠きまくりじゃねえかとバーリは腹で毒づいたが、逃れられるわけもない。彼ひとりに一抹の罪悪感を背負わせて、婿入りの輿は粛々とエミワックからレザルーンへ、国境を越えて行ったのであった。
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