第9話 謎の施設にたどり着きました

階段を降り扉を開けるとそこはまるで別世界のようだった。

階段が暗かったのもあるが、地下に降りたとは思えないほど部屋の中は明るく、

そして何よりも広かった。恐らく小さな町一つ分はあるだろう。


「地下にこんな空間が広がっていたのか・・・」

「ここはなんなんだ?」


ジナはここまで光る明かりや大勢の人を見たことはことはない。森を抜けて最初に訪れた町は文明的には少し遅れていたからだ。これが初めてなので驚くのも無理はない。

だが、俺が知っている明かりの仕組みや明るさは少し違う気がした。俺が死んでいる間に技術も進化しているということか。

よく見れば全体的に何かギャンブル的なことをしているのはわかるが、俺が知っているトランプの他にも見たことのない方法で勝負している。

ここがあの大工が言っていた施設であることは間違いない。


俺とジナはまず施設を把握するため施設内を歩き回った。

施設の中には大勢の人がいた。そして各々様々な娯楽を楽しんでいた。

昔からあるトランプや見たことのない方法のゲームで金を掛けるギャンブル、金網に囲まれたリングに鎖につながれたモンスターや人々を戦わせて楽しんでいる者や、バーカウンターまである。それと男女で奥の部屋に入ってくのも見えるのであれも大工が言っていた情報通りだ。

どうやらここは非合法にギャンブルなど地上では味わえない娯楽を提供する施設のようだ。そして人が多い理由は恐らく複数の町にこの施設へと繋がる入口があるのだろう。メイの町では見かけたことのない人間が多くいるのがその証拠だろう。


これだけ人がいればメイの父親であるエイジもいる可能性はあるな・・・。

だがエイジの顔はわからないため手がかりはない。どうやって探すべきか。

この施設の管理者にでも聞けばわかるだろうか?

あの大工が殺されたのは完全に誤算だった。エイジに関する手がかりが何もない状態で探すのはかなり確率は低い。


少し考えていると怪しげな男がこちらに近づき話しかけてくる。


「こちらの施設は初めてでしょうか?」


男は格好は綺麗にしており髪も整っているが、顔に浮かべた表情は笑ってはいるがどこか目の奥は笑っていないため気味の悪さを感じざるを得なかった


「友人に連れてきてもらったんだがその友人とはぐれてしまって。どうしたらいいか戸惑っていたところだ」

「左様でございますか。そのお友達様はこの施設の楽しさに耐え切れず先走ってしまったのでしょう。申し遅れました。私こちらの施設で案内人をしております。グリンモリティーと申します。よろしければ私が案内させていただきますがいかがいたしましょう?」


これは運営側からの接触だ。エイジの事を探るチャンスかもしれない。そう思った俺はこの怪しげなグリンモリティーに案内を頼むことにした。


グリンモリティーは丁寧にこの施設内を案内してくれた。

一通り案内を受けた後、グリンモリティーがこちらに問いかけてきた。


「これでおおよそ施設内は案内させていただきましたが、どれか気になる娯楽はありますでしょうかウィンター様」

「そうだな・・・。今のところは思い浮かばないな。ジナ何か気になるものはあるか?」

「いや、どれもわからないな。ウィンターに任せるよ」

「そうか・・・。いや、しばらく考えておくよ」

「左様でございますか。では、この施設を隅々まで、心行くまでお楽しみくださいね。私はこれにて一旦失礼させていただきます」

「ああ、ありがとう」


そう言うとグリンモリティーはくるりと踵を返し、どこかへ歩いていこうとした。

が、俺はそれを呼び止めた。


「待て。一つ聞きたいことがある。この施設にエイジという男はいるか?」


グリンモリティーはこちらに向きなおし答えた。


「いえ、そのようなお客様は聞いたことはありません。ここには各地から多くのお客様が出入りしますからね。一人一人を覚えてはおりませんよウィンター様」

「そうか。それは残念だ。それともう一つ。この施設に入ってから俺は自分の名前を一度も言っていないはずだ。なぜ俺の名前を知っている?」


そう問いかけるとグリンモリティーは一瞬下を向き、先ほどよりも怪しい笑みを浮かべ答えた。


「そうですね・・・。それはあなた方をお待ちしていたから。とでも言いましょうか」


俺とジナは咄嗟に戦闘態勢に入った。

が、グリンモリティーから仕掛けてくる気配はなかった。


「あなた方がここに来た目的はわかっていました。が、その前に一度この施設を楽しんでいただければと思ったのですがそんな気もなさそうですし。すぐにお連れしましょうかね。ついてきていただけますか?」

「俺達を待っていただと?待っている人物は誰だ?」


グリンモリティーは「ふふふ」と笑うと、

「私についてくればすべてわかりますよ」

と怪しげに言い歩き出した。


俺とジナはついて行くしか選択肢はなかった。

この男の目的はいったいなんだ?そして俺らを待っていただと?

この先に誰がいるのかはわからなかったが、エイジの事を知るチャンスだ。このチャンスを逃すわけにはいかなかった。


グリンモリティーは二階へ進み先ほどの男女のみでしか入れない部屋の先へと進んでいった。


その先にはいくつかの扉があった。そのうちのいくつかに男女所が出入りしているのは見えたがグリンモリティーはそのどれにも目はくれずただ真っ直ぐ進んでいった。

突き当りにある屈強な男が二人立っている扉の前まで来ると、その片方に何かを告げた。それを聞いた屈強な男は頷き扉を開けてくれた。


「ありがと~」


グリンモリティーは陽気にその二人に礼を言うと鼻歌交じりに奥へと進んでいく。

奥の突き当りまで進むと、ピタッと足を止めこちらを向き、


「ここですよ」


と俺たちに言った。そのままグリンモリティーは扉の方を向き扉を開け中に入った。

続き俺たちも中に入ると、そこは広めの一つの部屋になっていた。

部屋に入り正面はガラス張りになっており先ほどの施設の様子が一望できるようになっていた。先ほどの場所からガラスになっていることはわからなかった。

ということは、恐らく隠蔽の魔法が掛けられているのだろう。


「何の用だグリンモリティー」


ガラス張りの前に置いてある机と椅子。その横に立つ短髪の身長が高く色黒な男が問いかける。


グリンモリティーは表情を変えずに


「こちらのお二人があなたに用があるようですよ。ノルジアさん」


その言葉を聞いた椅子に座っていた人物は椅子を回しこちらに顔を向けた。


椅子に座っていた人物は女だった。髪は長く赤色だ。手には本を持っている。その長く切れた目がグッとグリンモリティーを捉え睨みつける。


「またお前かグリンモリティー。勝手なことばかりしやがって」


ノルジアと呼ばれたその女は「チッ」と舌打ちを鳴らしながら手に持っていた本に目を移した。


「で、そっちの二人は何の用だ」


今度はその目が俺とジナを捉える。


「ここにエイジという男が来ているはずだが知らないか?」


ノルジアの表情が一瞬曇るのを俺は見逃さなかった。が、すぐに表情を戻し答える。


「知らないな」


俺はその表情からこの女が嘘をついていると感じた。

どうやらエイジの事は知っているようだ。


「そうか。なら突然押しかけて申し訳なかった。俺たちは帰るとしよう。ジナ、帰るぞ」


俺とジナが帰ろうとした時、ノルジアの横にいた男がこちらに向かって言った。


「あまり詮索しない方が身のためだぞ。旅人らしく次の町に早く行くんだな。じゃなきゃあの大工みたいになっちまうからな」


そう言うとその男は笑っていた。

「余計な事言ってんじゃねえ」

とノルジアは一喝した。


そうか。やはりこいつらはエイジの事を知っているのか。

そして今日殺された大工のあいつもこいつらにやられたのだろう。

俺は扉の前まで来ていた足を止め小声でジナに戦闘準備を指示した。


「やっぱりエイジの事知ってんのか。じゃあ、教えてもらうまでは簡単に帰るわけにはいかないな」


そう言いノルジアの方を向いた。

その瞬間、横にいた男がナイフを抜きこちら目がけ投げた。

放たれたナイフは「ヒュッ」と音を立て俺の顔横を通り壁に刺さった。


「帰りな。死にたくなかったらな」


俺は背中に装備していた盾と剣に手を掛け構えた。


「どうやら、力ずくで教えてもらうしか方法はなさそうだな」


俺がそう言うと、ジナも構え戦闘態勢に入った。

こちらの言葉と雰囲気を感じ、横にいた男も腰につけていたナイフを抜く。先ほどこちらに投げてきたものよりも倍の大きさはある。


構えると同時に男はジナの方へ一気に距離を詰める。


「お嬢さんは俺と楽しもうぜ!!」


ナイフを振り下ろす。が、ジナは軽く後ろへ飛びその攻撃をかわす。

すかさず男は次の攻撃に移り次は突いてくる。ジナはそれを半身で躱し手に持っていたナイフで男の顔面目掛けて突いていく。

が、男も寸でのところで頭を横に倒し躱す。


「やるじゃねえかお嬢ちゃん。これはどうかな?」


男は握っているナイフをジナの首目がけて突いてきた。ジナはそれを避けた。が、男の手にナイフは握られておらず、反対の手に移していた。そしてそのナイフをジナの脇腹に刺そうとした。

野生の勘なのかジナはかろうじて躱したが、遅かったのか少しその刃先をかすめ脇腹の服に切れ目が入りそこから血が滲む。


「はっ!うまく避けてたけど今度はそうもいかなかったな!」


ジナは痛みに少し顔を歪める。

まずいな。ジナは戦闘能力は高いが対人戦の経験がほとんどない。

対するあの男はなかなかの手練れだろう。このままではジナが危ないかもしれないな。


そう思い、ジナに助太刀しようとした瞬間、目の前に火の玉が現れ顔を掠める。

飛んできた方向を見るとノルジアが本を開きながら手をこちらに向けていた。

どうやら彼女は攻撃系の魔法使いのようだ。


「さっきからどっちを向いている。お前の相手は私だよ。ゲイツ!お前のせいで面倒なことになったじゃないか!後でどうなるかわかっているでしょうね!」


そうジナと戦っている男の方へ叫んでいる。

ゲイツと呼ばれた男はニヤッと笑っている。


まずはこの女を倒さなきゃジナを手助けするのは難しそうだな。

魔法使いということは、恐らく近接攻撃には弱いだろう。

ということは、まずは距離を詰めなきゃだな。

そう考えた俺はダッシュで女の方に詰め寄る。が、火の玉による攻撃が飛んでくるため簡単には飛び込めない。盾で防げばダメージはないが防げば火の玉の勢いで少し後ろに下がってしまう。


何か策はないか・・・?

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誰が俺を殺したのか 矢口ウルエ @yaguchi-urue

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