第8話 謎の施設への入り口を発見しました

ジナを起こしすぐに出発の準備をし男に施設まで案内させた。


「あ、あれがその施設の入り口です」


メイの家からしばらく歩き町から離れたところに男が言っていたような建物がポツンと建っていた。この辺りは、メイの家がそうであるようにすぐ周辺に家が建っておらず独立した家が多いためこの家を見かける人間は特別気にするということはないだろう。そのくらいこの地域に馴染んでいた。もし、男が言っていたような施設がこの地下にあるとすれば、確かに密かに何かやるには最適な場所かもしれない。


「ほんとにあそこにメイの父親がいるのか?」


ジナは男を疑い睨みつけた。昨夜あの場で何も言わなかったことに対して怒りと疑いを持っているようだ。


「いや、それはわからない。だが、何かヒントがあることは間違いない。一度様子を見てみるか」


俺とジナは建物に近づき中の様子を見た。

中には一人の老人が椅子に座って本を読んでいるのが見えた。

俺はドアをノックした。すると中からその老人がドアを開けてくれた。


「どちら様ですか?」

「旅をしているのですが、水が切れてしまって。お水をいただくことは可能ですか?」

「そうでしたか。少しお待ちください」


そう言うと老人は台所に水を取りに行った。

その隙に俺は家の中を見渡した。

あの男が言うように奥に部屋があることは確認できた。が、パッと見た感じは普通の家だ。が、部屋の中に物が少なすぎると感じた。老人一人であればこのくらいかとも思ったが、それにしては少なすぎる。老人が水を汲んでいるあたりもとても生活している雰囲気を感じることはできなかった。

恐らく、日中はこの老人がカモフラージュとして生活しているのだろう・・・。


老人が水を汲み戻ってきた。


「ありがとうございます。おじいさんは一人でここに暮らしてるんですか?」

「ええ。ばあさんに先立たれてしまってね。それ以来ずっとここにいるよ」

「そうでしたか。それは大変ですね。僕らはしばらくこの町に滞在するつもりです。もし何かあればお手伝いするので言ってくださいね」

「ありがとう。何かあればお願いするよ」


そう言って老人はドアを閉めた。


「あの人少し変だったな。おばあちゃんの話をした時何か嘘を言っているような感じがした。先立たれた人はあんな雰囲気はでない」

「ジナの言うとおりだ。恐らくあそこに施設があることは間違いないな」


俺たちは大工の元に戻った。


「ど、どうでしたか?」

「お前の言っていた通りあそこに何かあることは間違いないな。だが、今行っても何もないだろう。強行突破しても良いがあそこにメイの父親がいるとも限らない」

「どうするウィンター。一旦、戻るか?」

「そうだな。夜まで待とう。おい大工。夜になったら俺たちをあの施設に紹介できるか?」

「な、何とかやってみます」

「よし。それなら一旦戻ろう。お前も職場に戻れ。親方にこのことは言わないようにしてくれ。事が大きくなって騒がれても困る」

「わかりました・・・。また後で、酒場でお待ちしております」


そう言うと大工の男は走って去っていった。


「俺たちもメイのところに戻ろう。メイが心配するからな」


メイの家に戻り、俺たちは夜になるのを待った。

施設で戦闘になることは考えにくいが、ジナには一応備えておくように伝えた。

俺は老婆から借りていた本を読み進めたが呪いに関することは書かれていなかった。

この本はどちらかというと導入部分、実践的な部分については恐らくこの作者の別の本に書かれているだろう。俺はこの本から探すのを諦め老婆に本を返しに行った。


「そうかい。この本には書かれていなかったかい」

「はい。この作者の別の本には書かれていそうな気がするんですが他の本はないですか?」

「この作者の本はこれだけなんだよ。ごめんねぇ」

「いえ、この作者を追っていけば何かわかるかもしれないというヒントを得られたのは大きな収穫です。また何かあればお借りしても良いですか?」

「いくらでも貸すよ」


老婆に礼を言い家を出ようとした時老婆に呼び止められた。


「ちょっとお待ち。あたしは占いも少しやってるんだ。少し見させてもらってもいいかい?」

「ええ。お願いします」


そう言うと老婆は木や葉っぱ、怪しげな道具を広げると占いを始めた。

何かぶつぶつ呟きはじめ、『キエーーー!!!』という声を最後にあげると、こちらをパッと見つめ、


「あんた・・・。この世のものではないね?この先かなりの困難が待っているよ。そうだね・・・。何やらまばゆい輝きを放つもののようなものと対峙する時が来るかもしれないね・・・」


俺は思わず笑ってしまった。この占いかなり良いところをついてきている。

確かに俺は一度殺されているしなぜか復活しているからこの世のものではないと言っても過言ではないだろう。


「ありがとうおばあさん。その占いかなり当たりそうだね」


そう言い俺は老婆の家を後にした。

まばゆい光か・・・。その言葉についアルスの聖剣を思い出してしまう。

そういえばこの町に来てから慌ただしかったため気にしていなかったがパーティーの皆は今頃どうしているのだろうか。この町は首都と離れた位置にあるらしくそっちの方の情報はあまり入ってきていなかった。俺が死んだあとパーティーはどうなったのだろうか。


メイの家に戻ると、なぜかオギが待っていた。


「ウィンター。オギが用があるって」

「どうした?」

「少しいいか?」


オギはそう言うと俺を外に連れ出した。


「何かあったのか?」

「さっきうちの従業員が一人殺されてな。何か知らないか?」

「殺された?エイジではないのか?」

「違う。別の奴だ。今朝から誰も見てなくてな。一人で酒を飲みに行くような奴だし飲みすぎて帰ってきていないのだと思ったんだが仕事の時間になっても来なくてな。仕方ないから放っておいて仕事に取りかかろうとしたら俺たちの宿舎の近くに倒れていたんだ。お腹が妙に凹んでいたがあれは恐らく内臓を抜かれていた。で、何か心当たりがないかと思ってな」


あの施設を教えてくれた男だな。

恐らく俺たちに施設の事を話したのがバレて殺されたのだろう。

ここで話をして親方を巻き込んでも迷惑をかけるだけだ。ここは黙っておいた方が良いだろう。


「いや、知らないな。そちらの従業員を全員覚えている訳ではないしな」

「そうか・・・。わかった。何か情報がわかったら教えてくれ」

「わかった。何かわかったらそうしよう」


そう言うと親方のオギは宿舎へと戻っていった。

どうやらエイジに関してもこの施設が絡んでいることは確実だ。早急に手を打たなければメイと母親にも迷惑がかかるかもしれない。

俺は家に入りメイと遊んでいるジナに準備を促した。


「ジナ行くぞ。準備してくれ」


ジナはメイとの遊びを切り上げすぐに準備をした。

メイは寂しそうにこちらを見ている。


「おじさんとジナおねーちゃんは今日は戻ってくる?」

「ああ。オギと少し話をしてきたら戻ってくるよ。だから食事の準備をして待っていてくれないか?」

「うん!」


メイにそうお願いすると嬉しそうに食事の準備をし始めた。

俺はジナに目配せし外に出た。


「じゃあメイ。行ってくるから良い子にしてるんだよ」


ジナがそう声を掛けるとメイは嬉しそうな顔をしていた。


「よし。行くか」


俺たちはすぐに今朝の施設がある家まで向かった。

家に明かりはついていなかった。

まずは外から家の中の様子を確認してみる。

やはり今朝の老人はここには住んでいないのか。

誰かがいる気配はしない。やはりここで間違いはなさそうだ。

中に誰もいないことを確認し、家の中に入る。

あの大工が言うにはこの奥の部屋から例の施設に入れるということだ。

俺とジナは奥の部屋へと進んだ。


が、そこはただの部屋で特別怪しいところなどなかった。

おかしい。あの大工の男は奥の部屋から地下へ繋がる扉があると言っていた。

ジナと手分けし他の部屋も探したがそれらしき扉はなかった。

どこだ・・・。どこにあるんだ・・・?


無音の部屋で数十分探したがそれらしき扉は全く見当たらない。

床の継ぎ目で変なところがあるかと言われればそんなものはなかった。

やはりあの男がいなければ入ることは難しいのか?

となれば、この下にいる人間が俺達を入れないようにあの男を殺したのか?


「ウィンター、誰か来るぞ」


ジナはそう言うと窓の方を指差した。

窓の方を見ると男が二人歩いてくるのが見えた。片方の手には酒瓶のようなものが握られている。間違いなくこの家に歩いてくる。


「ジナ、こっちだ」


そうジナを呼びリビングの隅に隠れた。隠れたと言っても隠れることのできるものはなかったので隅でうずくまっているだけだ。簡単に見つかる。

息をひそめると男二人が家に入ってくる。完全に酔っ払っており入ってきた瞬間にアルコールの匂いが鼻をつく。


二人は酔っぱらっているためかこちらには目もくれず奥の部屋へと進んでいった。

もしや・・・。と思い、俺とジナは奥の部屋に繋がる扉の隙間から中の部屋の様子を見た。

なんの変哲もない部屋。だが、男の一人が背丈ほどある本棚に近づき上から四段目においてある少し分厚めの赤い背表紙の本に手を伸ばす。そしてその本を思いっきり手前に引き倒した。

次の瞬間、カチッという音が鳴ると男はそのまま本を持ったまま手前に引っ張る。

すると本棚が扉のように手間に引くことができ本棚と壁の間に隙間ができた。

二人の男がそこに体滑り込ませ中に入ると本棚型の扉は閉まり元通りになった。


あの本棚が地下へ通じる扉になっていたのか。

今朝老人が本を読んでいたから気にはならなかったのか本棚はあまり詳しく調べていなかった。完全に盲点だった。


二人が消えたのを見届け、俺とジナは本棚の前に立った。

そして先ほどの男たちがやっていたのと同じ手順で本を手前に引いてみた。

すると先ほどと同様に本棚が動く。もう少し手間に引いてみると本棚の左側が手前に動き扉と同じような動きをした。

開いた扉の先にはしっかりと地下へと続く階段が見えた。


どうやらこれが施設へと繋がる扉のようだ。

この先にどのような景色が広がっているのか想像はできないが、大工が殺されているのもあり油断しないよう気を引き締めて階段を降りその先の扉を開けた。








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