第7話 父親の事がわかりました
大男の名前はオギという名でこの大工たちの親方として面倒を見ているようだ。
メイの父親であるエイジもそのうちの一人で、オーガの次に古株ということで皆から慕われている様子だった。
「それで、なぜエイジの事を聞きたいんだ?」
「突然の訪問で驚かせてしまい申し訳ない。俺たちは森を抜けてこの町に来たのだが、森を抜ける途中でモンスターに襲われているメイと出会ったんだ。そしてメイを家まで送り届けた時にメイの母親の様子を見た。メイの母親の事は知っているか?」
「詳しくは知らないが、少しだけなら。調子が悪い言うのは聞いている」
「そうか。母親の様子を見た時、一目では簡単にわからないががあれは呪いをかけられている。だが、あの呪いは少し前に使われることが少なくなった呪いだ。そこで俺は呪いをかけたのがメイの父親ではないかと疑い、それで探していたんだ」
オギの後ろで皆がざわつくのが見えた。やはり呪いであることは誰も知らなかったようだ。
「そんなわけない!エイジさんがそんなことするわけないだろ!」
この小屋に入った時にすぐに飛びかかってきた男が叫んだ。
どうやら彼は特別エイジと仲が良かったようだ。
「エイジさんはいつも俺たちの事を気にかけてくれて・・・。毎日のように奥さんとメイちゃんの事を話して本当に愛していたんだ!そのエイジさんがそんなことをするわけがない!それに呪いだってできるほどあの人は器用じゃない!」
彼の言葉に多くの大工が賛同し納得するような素振りを見せていた。
なるほど。だから町で会話を聞いた時内緒にするよう話していたのか。
「なにも父親が犯人だと決めつけているわけじゃない。ただ、父親がメイと母親の元を離れるタイミングを聞いた時に何か知っているんじゃないかと思ったから探していただけだ」
「本当か?本当にエイジさんを疑っているわけじゃないのか?」
「ああ。ただ可能性を考えているだけだ。俺たちには母親の体調不良の原因が呪いということしかわかっていない。あとはそのタイミングで父親が消えたということだけだ。そうなれば父親の方を探すしかないと思ってな」
部屋の皆が納得してくれているようだった。
皆の意見をまとめるように親方が口を開いた。
「わかった。お前たちがエイジを理由があって探しているということは理解した。俺たちもエイジが居なくなった理由を知りたかったんだ。あんな良い奴が最愛の二人を残してどこかに消える訳がない。俺たちにできることがあれば協力しよう。ところでお前の名前はなんて言うんだ?」
「名前か・・・。そういえば名乗っていなかったな。悪いが今は誰にも名前を明かすわけにはいかないんだ。すまない」
「どうやら訳ありのようだな。まあいい。お前たちがメイと仲良くしていたのは知っている。それだけで今は信じるのに十分だ」
「メイといるところを見ていたのか?」
「ああ、試すような言い方をして悪かったな。で、エイジの事で聞きたいことってのはなんだ?」
「そうだったな。メイの母親が調子を悪くする前と調子を悪くしてからエイジが消えるまで、エイジの様子で何か変わったところはなかったか?」
「そうだな・・・。俺は変わったところがあるようには思えなかった。あいつはさっき言ったように不器用な奴だから隠し事なんかそう簡単にできるようには思えないけどな。他に何か知っていることがある奴はいるか?」
親方の問いに皆が答えたがやはりエイジの様子について疑問を持つものはいなかったようだ。
「すまない。とりあえず俺たちが知っている情報はこのくらいだ。これくらいしかできないかもしれないが、奥さんとメイちゃんのために・・・。エイジのために何かできることが他にもあったら言ってくれ」
「助かる。ありがとう。こちらでももう少し探ってみる。何かわかったことがあれば教えてくれ。よし、行くぞジナ」
そう言い残すと俺たちは小屋を後にした。
どうやら彼らは何も知らない様子だった。
だが、今聞いたことを整理するとエイジが奥さんを手にかけることをするような人間には思えなかった。では、誰が呪いをかけたのか・・・。
ひとまず俺とジナはメイの家まで戻った。
扉を開けるとメイが俺たちの料理を用意して待ってくれていたが疲れてしまったのか机に伏せて眠っているようだった。
俺は毛布を一枚とり椅子に座るメイに上からかけた。
せっかく作ってくれたものだからとジナと二人で食事をとることにした。
途中、食事をしているとメイの口から
「お父さん・・・」
という言葉がこぼれた。起きているのかと思ったがどうやら寝言を言ったようだ。
メイがしっかりしているから忘れていたがこの子もまだ子供だ。父親が急に消え、母親も急に調子が悪くなっているのだから普通でいられるわけがなかった。
そうなれば一人でダメもとで薬草の噂を信じ取りに行くこともするだろう。
今俺にできることは一刻も早くメイの父親を見つけ出し、母親の呪いを解いてやることだろう。
「なあウィンター。今日はメイのそばにいてあげたいんだがダメか?」
それはジナも同様の意見のようだった。ジナも父親を亡くしてからは森で一人で生活している。どこかジナと自分を重ねる部分もあるのだろう。
「ああ。俺たちといた方がメイも安全だし母親に何かあった時は対処できるかもしれない。今日はここで休ませてもらおう」
そう言うとジナは少し安心したような表情を浮かべ、メイの横に椅子を並べ一緒に眠るようにしていた。ジナからすれば妹のようなものか。
ジナが眠った後俺は日中に老婆から借りた本を少し読み進めた。
が、やはり呪いについては書いていない。もう少ししっかりと読み込む必要があるだろうか。
翌朝、朝日が昇り始めたころ窓のところからこちらを覗く人影を見つけた。
その人影は俺と目が合うなりすぐに顔をひっこめた。
何者だ?もしやエイジか?様子を見に来たのか?
俺はすぐに扉を開け外を確認した。するとそこには震えながらしゃがみこんでいる人間がいた。これがエイジか?
「お前がエイジか?」
しゃがみこんだ人物に声を掛けると、その人物は首を横に振り答える。
「ち、違うっ・・・。俺は昨日あんたたちが訪問しに来た大工の一人だ・・・」
「何をしに来た。なぜ窓から家の中を覗いていたんだ」
「き、昨日言えなかったことを伝えたくて・・・。でもメイちゃんや奥さんが起きているかもしれないと思ってこっそり・・・」
「なるほど。で、その伝えたいことってのはなんだ?」
男はかなり怯えている様子だったが、少しずつ落ち着きを取り戻している。
「実は、昨日言ってたエイジさんの事なんだが、一つ気になっていることがあって・・・」
「なぜそれを昨日言わなかったんだ?」
「もしかしたら俺が原因かもしれないから皆には言えなかったんだ・・・」
「なるほどな。それでお前が知っているエイジの情報ってのはどんなことだ?」
「俺は一人暮らしで普段することもないから夜飲みに行くくらいしか楽しみがなかったんだ。で、その日は大工の仲間で飲みに行く奴がいなかったから一人で飲んでたんだ。そしたら、隣のテーブルの奴が声かけてきて。妙に気が合ったというか。話が合うもんだから意気投合しちまって。で、そいつが俺に言ったんだよ。『この後もっと面白いことしないか?』って。いつもだったら断るんだけどそいつとは気が合ったから『どんなことだ?』って聞いたんだよ。そしたら『町から少し離れたところに金儲けや女と遊べるところがある』っていうんだよ。つい、面白そうだなと思って。普段飲むくらいしかこの町は娯楽がないと思ってたから。ついて行ったんだよ。そしたら、そしたら町から少し離れたところにポツンと家があったんだ。そいつとその中に入っていって、家の奥にある部屋に入ったら地下への扉があるんだよ。で、そこを降りていくと、信じられないくらい空間が広がっていて電気やら音やらとにかくすごかったんだ。人もたくさんいてこんな空間がこの町の近くにあるとは知らなかったんだ。で、その男に勧められるままトランプをやったんだよ。お金を掛けて。そしたらビギナーラック?ていうのか、勝ちまくって。一晩ですごい金額になってそのお金を使って女の子と遊んだんだよ。あれは天国かと思ったよ・・・」
この近くにそんな施設があったのか?この町の人間は一言もそんなことは言っていなかったな。聞いた感じだと一部の人間だけ連れて行っているのか?
「で、それがエイジと何の関係があるんだ?」
「そ、そうだよな。で、その日の事が忘れられなくて何度かそこに行ったんだよ。その男がいるときは一緒に行くようになったんだけど、途中からは一人でも行くようになって。で、最初の方は勝ったり負けたりしてたんだけど、だんだん勝てなくなってきて、最後の方にとんでもないくらいの負けになってしまって。お金を払えなくなってしまったんだ。で、その施設にいたとんでもなくでかい大男なんかが出てきて俺を脅したんだ『金を用意できなきゃお前の職場の仲間とお前を殺す』って。で、俺もどうしていいかわからなくなって。唯一相談したのがエイジさんだったんだ。昨日も皆が言ってたけどエイジさんてすごい仲間思いなんだ。だから何か助けてくれるんじゃないかと思って・・・。そしたらエイジさん『俺に任せろ。その場所はどこだ?』って聞かれて、その場所を教えたんだ。エイジさんは戻ってきたんだけど、そのくらいから奥さんの体調が悪くなったからもしかしたら関係あるんじゃないかと思って・・・そしたらエイジさんもいなくなるし俺はどうしたら良いかわからなくて誰にも相談もできなくて・・・」
この男の話を聞く限り、その施設が今回のエイジと奥さんに関わっている可能性は高いな。まずはその施設を調べるべきか・・・。
「おい、その施設まで案内できるか?」
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