第6話 手がかりを見つけました

翌朝、俺たちはメイの母親を救うべく町で呪いの解き方を知っている人間がいないか捜索したが、この町にはその方法を知っている者はいなかった。

そもそもこの呪いをかけた人間は誰なのか。

俺は恐らくメイの夫が犯人だと睨んでいる。だとすればその父親が呪いの解き方を知っているかもしれない。そう考えた俺たちは呪いの解き方と同時にメイの父親の行方を捜した。

メイが教えてくれた特徴を元に聞き込みをしたが、父親の事を知っていてもその行方までは知らない人が多かった。俺たちの捜索は困難を極めた。

一度昼食をとるため酒場に入ることにした。そこで今までの状況を少し整理するようにジナが口を開いた。


「全然見つからないな・・・。どこに行ったんだ?そもそも父親がなぜ家を飛び出したのかがわからない。やはりメイの母親を殺そうとしたのが自分でその罪から逃れるためにこの町から出て行ってのか?」

「どうだろうな。だが、母親から状況を聞く限りその可能性は高いかもな。その結果耐えきれなくなってこの町から逃げたとかそんな感じだろう」

「自分の子と奥さんを捨てて逃げるなんて・・・。そんなことがあり得るのか?」

「人間なんてそんなもんだ。自身の目的のためなら人を殺すことだってためらわないのさ」


そう言って、かつて自分が殺された状況と重ねた。

誰がなんのために自分を殺したのか・・・。


「人間は勝手なんだな」


ジナはそう呟くと席を立ち酒場の外に出た。

その表情はどこか怒りを感じているようにも見えた。

俺もすぐに彼女の後を追い店を後にした。


店を出てメイの父親の捜索を開始した。

進展があったのは酒場を出て数時間後の事だった。

ジナと捜索を続けていると路地から声が聞こえた。


「おい、聞いたか。エイジさんを探し回っている人がいるらしいぞ」

「知ってる。昨日から探し回っているらしいな・・・。たしか、怪しい二人組で一人は長身でガタイの良い仮面をつけたやつらしい。盾を背負っているらしいな」

「そうそう、もう一人はいかにも小娘って感じだが見た目はすごく汚れた感じらしい。多分あれは山で育てられた人間だな」

「だろうな。もし何か聞かれても絶対に何も話すなよ」

「そ、そうだな。そうするよ」


どうやら男二人が話をしているらしい。

その声を聞いていたジナは今すぐにでも彼らの元に飛びかかって聞いてやろうという姿勢をとったが、すぐに俺はそれを止めた。


「なぜ止める。あいつらはメイの父親の仲間かもしれない!」

「待て、ジナ。今言ってもきっと話してくれないだろうし、騒ぎが大きくなるだけだ。そうなるとこの町に居にくくなって捜索出来ない。そうなるとメイのためにはならないだろ?」

「そうか・・・。残念だ。今すぐにでも聞き出してやりたいのだが」

「そう焦るな。ジナ、彼らにバレないように後をつけることはできるか?彼らの住んでいる場所を突き止めるんだ。そして、日が落ちたころに彼らの元を訪れることにしよう」

「なるほど・・・。わかった。追うのは得意だから任せてくれ」

「よし。彼らの住処だと思うところを特定したら一度メイの家に来てくれ」

「わかった」


そう言うとジナは家の屋根に音もなく登っていった。

恐らく山の中で獲物を捕らえるために培った技術だろう。注意しなければ気づかないくらいに彼女は周りと空気感を合わせている。

ジナの姿が見えなくなった後、俺は呪いを解く方法がないか探ることにした。

だが、この町の医者は話を聞く限りでは役に立たないと思った。

普通の病気やケガであればある程度対処はできるかもしれないが、どうやら呪いや魔術に関してはからっきしだった。そもそもこの町は魔術に関するものがかなり減ってきているように感じる。たった10年でここまで変わるものだろうか。


幸い、情報を集めている時に訪れた老婆が一人で住む家を訪れた時、多くの書物があったのでそこで書物をいくつか貸してもらうことにした。彼女は書物を読むのが好きらしく、よく町に来る旅人なんかから昔から本をもらう代わりに世話をするのが好きらしい。おかげで彼女の書物ではこの町では珍し書物や、かなり古い本まであった。


いくつか目星をつけその本をジナの帰りを待ちながらメイの家で読むことにした。

メイの家に戻り玄関を開けると、良い香りが鼻を包んでいった。どうやらメイがスープを作っていたらしい。


「あ、おじさんお帰りなさい!ちょうど今隣のおばさんから野菜をもらったんでスープを作っていたところなんです。あれ?ジナさんは?」

「ジナは今おつかいを頼んでいるところだからもう少しで帰ってくると思うよ」

「わかりました!ジナさんが戻ってきたらみんなでご飯にしましょう」

「そうだな。ありがとうメイ」


メイが再びスープ作りに戻ると、俺は先ほど老婆から借りた書物を開いた。かなり古い書物で、表紙の文字はほとんど消えかけている。タイトルは・・・、『魔術の深淵』かなり難しそうなタイトルだ。作者のところはかなり文字がかすんで読むことができないが、『ロジック・ハート』と書いているのだろうか?それがあっているのかはわからない。


『はじめに

私がこの本を書いたきっかけは近年、魔術の悪用による事件が多く勃発してる。そのことに杞憂しているからである。私は魔術を専門として世界にその素晴らしさを広めるため時には講師や旅人、冒険者をしているが、元々魔術というものは相手を傷つけるためのものではなく、自身や大切な人、生活をよりよくするために使うべきである。そもそも魔術というものの始まりは・・・』


から始まる文章を見るに、かなり古い本なのだとわかる。俺が物心ついたころから魔術、魔法というものは魔物を倒す際の攻撃手段として多く用いられている。むしろそれ以外の方法で魔法を使う人間などほとんどいないだろう。そうなると、この本の作者の時代はかなり前の時代だと読み解ける。だが、なかなかに興味深い内容が書かれていた。おそらくこの作者は平和的な魔法の使い方を望んでいるのだろう。

そして、今のこの町はその理想に限りなく近い生活をしているように感じた。町には冒険者もおらず、武器や魔法で他人を傷つけるものもいない。だからこそ、メイの母親のように急に持ち込まれた呪いのような魔法が許せなかった。


本を読み進めると、『バタンっ』と家の扉を開く音が聞こえた。

ドアから人が入ってくる音が聞こえその足音はそのまま俺に近づき、耳元でこう告げた。


「奴らの居場所が分かった」

「よし、すぐに行こう」


俺は立ち上がり、メイに向かって


「少し出てくる。すぐに戻ってくるから待っていてくれ」


そう言いすぐに家を出た。

ジナが連れてきたところはメイの家からは少し離れた、町からメイの家とは逆の方向に進んでいったところにある宿舎のようなところだった。俺たちが抜けてきた森に入りすぐのところだ。俺たちはは木に登り上から彼らの宿舎の様子を見た。


「あそこだ。あの家に彼らは入っていった。どうやら、彼らは木を伐り加工しながら生活をしているようだ」

「なるほど、彼らは大工だったのか」


どうやら木こりの宿舎でそこで生活してる人間のようだ。何人かの人間が中にいるのが見えた。彼らの中にメイの父親を知っている人間がいるのか。


「よし。行くか」


そう言って俺とジナは木から降り、彼らの宿舎の前に立った。なるべくなら穏便に済ませたい。いくつか頭の中でプランを練った。どうすればメイの父親の事を聞き出せるだろうか。最悪戦闘することになったとしても負けることはまずないだろう。

俺は思い切って正面から攻める事にした。ドアノブをつかみ回しドアを開けた。

中をのぞくとすぐに居間のような部屋が広がり、そこで4人ほどがくつろぎながら談笑をしていた。が、俺の姿を見るなりすぐに立ち上がり戦闘態勢をとっていた。

俺は彼らに誤解を与えないようにすぐに説明した。


「突然すいません。メイの父親の事で聞きたいことがあるのですが、どなたか知っている方はいませんか?」


完璧だ。が彼らの反応は俺が思っている反応とは違った。


「エイジさんの事など知らん!何者だ!」


完全に誤解されている。今返答を返してきたのはどうやら路地の会話で聞こえてきた声と同じようだ。だが、メイの父親と聞いたのに対してエイジと答えているあたり確実に何か知っているだろう。


「怪しいものではないのです。ただ、メイの母親を治すために何か方法がないかと探っているのでして・・・」


と言い切ったところで、先ほど返答してきた男が殴りかかろうとしてきた。

俺はとっさに避け、彼の背後に回り込み腕を彼の首に回した。そしてそのまま動きを封じ、のど元に短剣を近づけた。


「知っていることを話してください。さもなくばこの人の命はありませんよ?」

「俺はどうなっても構わん!誰も何も話すな!」


互いに睨み合いが続き、しばしの沈黙が流れた。


「くそっ・・・!」


という声と共に一人が殴りかかろうとした時、


「待て!!!」


と大きな声が部屋中に響いた。

声は部屋の奥から聞こえてきており、俺は声の方を向いた。


すると部屋の奥から元々部屋にいた男たちもかなり体格は良かったが、それよりもさらに体が大きく、顎に髭を生やした男が姿を現した。


「待て、お前たち。それ以上動くな。・・・すまんな仮面の男。お前の要求は何だった?」

「話が分かる人間がいて助かる。メイの父親について聞きたいことがあるんだ」

「奴はここにはいない。だが知っていることは話そう。だからそいつは放してやってくれ」


大男からの要求を俺は呑み、拘束していた男を放した。

そして解放したのを確認した後、大男は口を開いた。


「メイの父親、エイジについて何が聞きたいんだ?」





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