第5話 母親に会いました
町は俺が昔いた町とは違う場所でさほど大きくはなかった。
町は俺が10年前に訪れたことのない町だった。
だからこの町が俺が死んでいた10年間で変わっているのかどうかはわからなかった。
酒場があり、薬屋があり、宿屋、八百屋なんかもある。そんな風景は10年では変わらないのだと感じた。
俺たちはメイを家に送りに行った。
メイの家は町の中心から少し離れたところにあった。
外見はかなり老朽化しており、質素な感じがする家だ。
「仮面のおじさん、ジナさん、ありがとう!」
そう言ってジナは元気よく家に入っていった。
「ジナ、俺たちも宿を探して休むことにしよう」
「そうだな。町に泊まるのは初めてだからワクワクするよ」
「その前に腹が減ったから飯でも食べよう」
俺たちがメイの家を離れ町の中心の酒場に向かおうとした時、
メイの家の扉が開き慌てた様子でメイが出てきた。
「おじさん!お母さんが・・・!」
恐らく病気が悪化したのだろう。
俺はメイに引かれ急いで家の中に入った。
メイの母親はベッドで横たわりせき込んでいた。
だが、壁側を向いているため様子がよくわからない。
俺は一度状態を見れば何かわかるかもしれないと思い声を掛けてみた。
「すみません。一度俺に病気の状態を見せていただけませんか?」
メイの母親は咳きこみながら、
「ごほっ・・・。どちら様ですか?」
「私が森で迷っているところを助けてくれて家まで連れてきたおじさんだよ!おじさんすごく強いから何かわかるかもと思って・・・」
「そうだったんですね・・・。それは失礼しました・・・」
そう言うと母親はゆっくりと体を仰向けにした。
見たところかなり衰弱している様子だ。そう長くはないだろう。
サイのように魔法が使えれば簡単に原因がわかるのだが、俺はそんな高度な魔法は使えない。外見から探る以外に方法はなかった。
「失礼します」
そう言ってベッドに近寄り、少し布団をめくった。
母親の腕はかなりやせ細っていた。
「食事は摂れていますか?」
母親は首を横に振った。
「あまり食欲がわかなくて・・・」
「そうですか。いつ頃から症状は出ているんですか?」
「ちょうど一年くらい前からです。最初は少し体がだるいな。という程度だったんですが、次第に体を思うように動かせなくなって、食事も・・・」
「なるほど・・・。その日変わったことはなかったですか?」
「特には・・・。前日は結婚記念日だったんです。だから奮発して普段食べないような少しの贅沢をしたので、きっとそれが食べ慣れてないからなったんだろうって夫は言っていました。お医者さんに見てももらいましたがまったくわからず食あたりだろうと・・・」
そういえば父親の姿は見当たらない。
「メイのお父さんはどちらにいらっしゃるんですか?」
「わかりません・・・。私がこうなってから半年前に姿を消しました。それからは私とメイの二人で暮らしています。近所の人が助けてくれてはいますが、病気がうつるかもしれないと・・・」
メイはずっと一人で母親の看病をしていたのか。
それにしても何が原因か全く見当がつかなかった。
食あたりが原因と言っていたが、それでここまでひどくなるだろうか。
いずれにせよ一度お腹を見てみるか。
「一度お腹あたりを見せてもらっても良いですか?」
そう言うと母親が頷いたので布団をめくり、服を少し上げた。
やはり特段変わったところは見えない。
しばらく見たり触ったりしていると、ジナが口を開いた。
「それ、おかしくないか?」
そう言うとお腹を指さしながらこちらに近づく。
そしてそのまま母親のへその横にあるほくろを指さした。
「これ、ほくろじゃない気がする」
ジナが言うほくろを見てみる。
一見するとただのほくろにしか見えない。
だがよく見ると何か変だ。呪文が書いているように見える。
「なんだこれは?」
ふと、過去の会話が頭によぎる。
あれはパーティーで活動していた時の事。
皆で呪いの話になったことがあった。サイが詳しく教えてくれていたのを覚えている。
「昔、どこかの国を治めていた王がいたんだけど、その王がある日から国民の前に姿を見せなくなった時があったんだ。若くして王になり国民の支持も絶大だっただけに、国民がみんな心配したんだけどそれ以降姿を見せないままに亡くなったんだ。
国民には病気で亡くなったって知らされたらしいんだけど、実際は呪いで殺されたって話だよ。で、その呪いの方法と誰がなぜかけたかって話なんだけど・・・」
「サイ、話はそのくらいにしてそろそろ行くから早く飯食っちまえ!」
そういえばあの時途中でアルスが話を遮ったんだったか。
だが、気になった俺はミッションに向かう途中で聞いてみた。
「サイ、さっきの話だが使われた呪いはどんなのだったんだ?」
「それはね、食欲が低下して体がだんだん動かなくなっていく呪いだよ。呪い自体はすごく簡単なんだ。だけど普通の病気と見分けがつきにくいんだ。だからその王も呪いではなく病死ということになった」
「なるほど。お前なら見分けることができるのか?」
「僕ならこの呪いだけじゃなくて他の呪いも簡単にわかるよ。でもこの呪いはもっと簡単にわかるんだよ。おなかに呪文が現れるんだ。でも、その呪いはかなり小さくてほくろのように見えるんだ。だから、呪いの事を知っている知識のある人か、その人の体を知っている人じゃなきゃ簡単にはわからないかもね。だからそういう意味では知らない人にとっては簡単じゃないかも」
「そんな呪いもあるのか。お前なら簡単に解けるのか?」
「僕なら簡単だね。というか、今ならその呪いの解き方も判明しているから簡単だよ。でも、今じゃ見ることもないから知っている人は少ないはずだよ」
「なるほどな。一つ勉強になったよ」
再び母親のお腹に目をやると、やはりあの時サイに聞いていた特徴に似ている。
と、いうことはこの呪いが原因か。
「お母さん、これは呪いが原因です。誰かに呪いをかけられたんだと思います」
「呪い・・・」
「ただ、今の俺には解き方はわかりません。もう少し調べてみます」
あの時サイは呪いの解き方をなんと言っていただろうか・・・。
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