第4話 町に着きました
今朝、ジナと小屋を出発してからしばらく歩いているが未だに森を抜けられる気配はない。ジナも森は詳しいが町の方まで行ったことはなかったため手探りで進んでいくしかなかった。なんとなく父親から教えてもらったという方角にただひたすら歩を進めた。
「ジナはなんで森の外に出てみたくなったんだ?」
「んー。やっぱり父の話に興味を持ったのが一番大きな理由だな。小屋に住み始めた理由はわからないけど、父は元々町の方にいたらしい。その時の話をよく聞かされていたからその時に興味を持ったんだ」
なるほど。父親は元々町で暮らしていたのか。
「なんでその父親は町を離れて森の奥で暮らすことになったんだ?」
「それは・・・。聞いてないな。そのことを聞くといつもはぐらかされるんだ。だからわからない。ただ、親父がいつも楽しそうに町の事を話していたのは覚えているからきっと戻りたかった気持ちもあるんだろうな。けど、私にはいつも『森の外には絶対に出るなよ。クマやイノシシなんかよりも人間はよっぽど怖いからな』って口癖のように言っていたな。私もそれを信じて疑わなかった。でも、お前を見て考えが変わった。町にあるのは危険なだけじゃない。森の中では体験できないこともあるだろうって」
俺が理由だったのか。
彼女の父親に拾われて彼女がその後数年間面倒を見てくれていたが、まさか父親も拾ってきた男が原因で娘が町に行くことになるなんて思ってもいなかっただろう。
少し皮肉を感じながら森の中を進んでいった。
途中、獣は現れたがさすがは森で暮らしていたというだけあって手際よく対処していった。これだけの身のこなし、戦闘能力があればモンスター相手でも十分戦えるだろう。
日中、ちょうど彼女がイノシシを倒したところで、そのイノシシの肉で食事にしようと思い彼女に提案した。彼女はイノシシを捌くのもお手の物だった。肉の処理は彼女に任せ俺は火を起こすことにした。
二人とも準備が終わり肉を火にかけているところでふと気になったことを彼女に聞いてみた。
「イノシシの姿は俺が昔見ていた姿とあまり変わらないように見えるんだが何か変化はあったりしたのか?」
「いや、私が生きている間ではないな。10年だとそんなに生体系が変わることはないんじゃないか?」
なるほどな。俺が思っているほど10年の月日というのは物事をそんなに変化させないようだ。
と、肉を手に取ろうとした瞬間どこからか悲鳴のような声が聞こえた。
『キャーーーっ』
間違いない。おそらく女の叫び声だろう。
俺はジナの方を向くと彼女も聞こえていたのかこちらに頷き一目散に駆けていった。
すぐに俺も走り出し声のする方へと向かった。
声の主まではそう遠くなかった。到着するとそこにはでかいクマのようにでかく4足歩行のモンスターのグリーズとその目の前にある木の裏には少女が座り込んでいた。目には涙を浮かべている。どうやら叫び声の正体は彼女で間違いないようだ。ジナはその状況を見るな否やすぐにグリーズの前に立ちふさがった。
どうやらグリーズは怒っている様子だ。普段は人など目もくれない珍しいモンスターなのだが、一度怒ると目の前のものを問答無用で襲ってくる。こうなってしまっては倒す以外に方法はない。
「ウィンター!どうすればいい!」
彼女がグリーズを見るのは初めてか。グリーズを少女の方から離すように動きながら聞いてきた。
「こいつは目の前のものを襲う状態になっている!だから俺が引きつけておく!その間にジナはこいつの下に潜り込み、首元にある輪の印の中心を狙うんだ!」
そう言いながら俺は走りながら「こっちだ!」と声を発する。するとグリーズはジナから標的を俺に変え突進してくる。俺のタンクとしての能力の一つに敵を引き付けることができるというものがあり、その能力のおかげだ。
俺は盾を構えグリーズの突進を待ち構える。すぐに『ドンッ』と鈍い衝撃音が聞こえると同時に衝撃が手に伝わる。
久々の戦闘で受ける敵の攻撃に手の衝撃だけでなく、脳にまで衝撃が走ったように感じた。何かビビッとくるような感覚だ。俺は間違いなく生きている。久々の戦闘に妙な興奮を覚えたが、すぐに気を取り直しジナに呼びかける。
「ジナ!今だやれ!」
ジナが手に短刀を構えながら横切るように視線に入ってきた。そして俺とグリースに近づくとズザッと素早く滑り込みグリーズの下に潜り込んだ。潜り込んだのが見えた数秒ののち、「グウォーーーー」と大きな咆哮を上げながら、一瞬後ろ足のみで立ち上がりすぐに鈍い音を立てながら横に倒れていく。どうやらジナはうまくやれたようだ。
「よくやったなジナ」
「こんなでかいのとやったのは初めてだ・・・。これがモンスターというやつか?」
「そうだ。こいつはまだ倒しやすい方だな。グリーズは攻撃が単純だからな。モンスターとの初戦としては最適だったかもしれない。それにしてもジナ、初めてなのによくやったよ。才能あるんじゃないか?」
「いや、ウィンターが敵を抑えてくれていたおかげだ。それに敵の情報もわからなかったしな。ウィンターがいなかったらきっと何もできずただ闇雲に攻撃して体力を消耗していただけさ。そういえば、もう一人いたのは?」
ジナにそう言われ女の子の事を思い出した。どうやら久々のモンスターとの戦闘で少し興奮していたようだ。俺はすぐに少女が隠れていた木に駆け寄り少女に声をかけた。
「こんなところでどうしたんだ?はぐれたのかい?」
少女は泣きじゃくりながら俺の方を向き確認すると口を開いた。
「お・・・お母さんが・・・。お母さんが体調悪いから・・・。こ・・・この森に良い薬草があるって大人が話してて・・・。それで取りに来たんだけど迷ったの・・・。薬草みたいなのがあったから走って取りに行ったの・・・。そしたらあのクマみたいなのが襲ってきて・・・」
恐らく走った時にグリーズのしっぽを踏んだのだろう。
クマと違って長いしっぽがあり、それが怒りのスイッチになっている。
「そうか、それは大変だったな。でももう大丈夫だ。俺とあのお姉さんが君を安全に森から出してあげるよ。名前はなんて言うの?」
「・・・メイ」
少女メイはそう言うと少し泣くのが収まったように見えた。
「さあ、メイ。俺たちと一緒に町へ戻ろう!立てるかい?」
メイは首を横に振った。
俺はメイの前に屈みこみ、くるっと背を向けおんぶする体制をとった。するとメイは素直に俺の背中に乗っかってきてくれた。
その時なぜだかホノカの事を思い出した。おそらく怯えて俺の背中に良く隠れたホノカとメイの姿が重なったのだろう。
俺とジナ、メイは先ほどのイノシシの肉まで一度戻り、腹ごしらえをした後すぐに町に向かった。メイは今日の朝から出発しこの時間まで森にいたと言っていたのでおそらく町までそう遠くないと予想できた。途中、グリーズが暴れていた影響からか獣に会うことも少なく、邪魔されることなく進むことができた。
メイはかなり落ち着いた。ただメイも迷っていたため道を覚えていたわけではなかったので町までの道のりを聞くことはできなかった。
ジナは初めて見る人間の子供に少し戸惑いながら興味を持っているのが分かった。しゃべりかけはしないものの、じっとメイを見つめている。
グリーズを倒してから数時間をさまよった頃、ジナがあることに気が付いた。
「ウィンター、これを見てくれ。誰かが通ってきた足跡がある。サイズも小さい。もしかするとこれはメイの足跡なんじゃないか?」
ジナが指さす方を見てみると確かに足跡のようなものがついている。
「ジナ、メイの靴と合わせてみてくれ」
そう言いながらジナにメイの靴を渡した。
「ぴったりだ。模様もどうやらあってるみたいだ」
「よし、この足跡の方を辿っていこう。メイもうすぐ町に戻れるぞ!」
メイが嬉しそうにしている。それを見たジナも嬉しそうな表情をのぞかせた。
俺たちの予想通り、足跡を辿って進んでいくと少しずつ道が拓けていた。おそらく町の人間がこの辺で木を来ているのだろう。そうなれば後は道なりに進んでいけばいいだけだった。
「メイ!着いたぞ!」
俺は背中で寝ていたメイを起こすようにそう呼びかけた。
目の前に見えたのは俺が殺された日に訪れた町とは違う光景が広がっていた。
どうやら俺が以前いた方向とは違う方向に出てきたのだろう。
だが、殺されてから10年ぶりの町に俺は少し心を躍らせていた。
俺たちはついに森の外を抜け出し、最初の町にたどり着くことができた。
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