第3話 旅をすることにしました

目覚めてから1週間ほどが経った。

俺が眠っていた場所はどうやら森の中にある小屋らしく、娘以外の者は見かけることはなかった。

娘の名前はジナという名で、以前までは父親とこの小屋で生活していたが数年前に亡くなってからは一人で生活しているらしい。

ジナによると、俺はその父親が倒れているところを発見したとのことだ。発見した時俺の体にはしっかりと剣が刺さっていたらしく、その剣は今も小屋に残しているとのことだった。その父親が俺を見つけた後この小屋まで連れてきてくれたとのことだ。その時の俺は当然かなりの深手を負っており、死ぬか死なぬかの間際だったようだが、その父親とジナが看病してくれたおかげで一命はとりとめたがその後目覚める気配がなかったため、その間ベッドに寝貸せていたと彼女は言っていた。


殺されたと思っていたが、まさかあの時生きていたのか?

では記憶にあるさっきまでいたあの暗い世界は精神世界?あの声はジナが声を掛け続けてくれていたものか?だが声は違うような気もする。

自分の中でより謎が深まるばかりだった。


ジナはとても親切だった。彼女は生まれてからこの小屋を離れたことはないらしく、森をよく熟知しており、狩りもうまく、鼻も利く。きっと良い冒険者になれるだろうと思った。

10年間寝ていたからか最初は体をうまく動かすことはできなかったが、2~3日もすればかなり前の動きに戻ってきた。しかしそれでもブランクがあるからか今から冒険に出ても下位の依頼ならばこなせるかもしれないが、上位のモンスターを倒すとなれば苦戦を強いられることは明らかだった。以前のように戦えるようになるにはもう少し時間がかかりそうだ。


森でいつものように体の調子を取り戻すために薪を割っていると、ジナが俺を呼びに来た。


「おーい、そろそろ飯にしないか?」


ちょうどお昼時でお腹がすいていたこともあり俺は彼女の意見に賛同し小屋に戻り昼食をとることにした。

彼女の料理はかなりおいしかった。おそらく町に出て料理屋をやってもかなり繁盛するだろう。そのくらいのレベルだ。

いつものように二人で食事をとっていると、ジナが口を開いた。


「なあ、いつまでこの小屋にいるつもりだ?」


考えてもみなかった質問に対して俺は少しうろたえてしまった。

確かにそうだ。いつまでもここにいる訳にはいかない。死んだと思っていたが再び蘇った喜びのおかげでこの先の事など考えてもいなかった。

そしてその言葉のおかげでなぜ蘇ったのかを思い出すことができた。

そうだ。俺は俺を殺した奴を見つけること。なぜ殺したのかを理由を知ること。そしてあの夜、ホノカが俺に言いたかった事が何なのか。

自分がすべきことを再度認識した。


しばらく黙っていた俺を見てジナは、


「別に出て行ってほしいわけじゃないんだ。ウィンターさえよければいくらでもここにいてくれて構わない。お前はいいやつだからな。ただ・・・。」

「何か問題でもあるのか?」

「いや、問題というか・・・。一つお願いがあるんだ。私をこの森の外に連れて行ってくれないか?」

「ん?外に出たいのか?」

「私、生まれてからこの町を出たことがないんだ。ずーっとこの小屋で暮らしていた。私はそれで良いと思っていた。でも、お前を拾ってきたあの日から私は外の世界が気になってしょうがない。父から外の世界の話は聞いていたが、実際に父以外の人間を見たのはお前が初めてだった。父が死んでお前を看病している時思ったんだ。『こいつが復活したら森の外に連れて行ってもらおう』と。」

「ジゼルはこの森の外に出たことがないのか?他の人間を見たこともない?」

「ない。一度もな。だから頼む。私と一緒に外の世界に行ってくれないか?」


なるほどそういうことか。彼女は外の世界を見てみたいのか。

少し迷った。彼女を連れて行って大丈夫だろうか。

だが、今の自分の力や彼女を戦闘能力の高さを考えると一人で動くよりも一緒に行動したほうが効率は良い気がした。


「よし。じゃあ一緒にこの森を出よう。君は僕の恩人だからね」

「本当か?!ありがとう!!」


彼女は今まで見たことのない笑顔で喜んでいた。

その笑顔を見ることができただけでも少しは恩返しできた気がして救われた。


「明日の朝出発することにしよう」


こうして俺たちはこの森を後にし町に出ることを決めた。

正直不安は多い。まず、俺が10年間も眠っていたこと。10年間眠っていたということはその間に大きく世界が動いている可能性はある。大きく動くのには十分すぎる時間だ。

次に俺の戦闘力。やはり以前のようには戦える気がしない。一番気がかりなのは力がうまく入らない事があることだ。これでは肝心の攻撃によるダメージを与えることができない。以前のようにタンクに専念できるのであれば問題はないが、今は攻撃手段がかなり少ない。そこは問題になってくるだろう。

最後に俺を再び狙ってくる敵がいるということだ。俺を殺したと思っている奴は俺が生きていると知れば再び命を狙ってくるだろう。そうなれば俺だけでなくジナの命も危険に晒すことになる。

どうすべきか。俺の不安は消えぬまま夜を迎えた。世界はどのように変わっているのだろうか。その夜俺は再びあの声を夢の中で聞く。お前は何者なんだ・・・。


朝になり出発の時が来た。

ジナは張り切っている。ずっと夢見ていた初めての森の外だ。興奮するのも仕方がない。俺は昨日の夜から考えていた問題をどう解決するか考えた。その時、ふと目にあるものがとまった。この小屋にある仮面だ。ジナが毎朝祈りをささげている仮面がある。この仮面をつけてはどうだろうか。


「ジナ。その仮面を俺にくれないか?」

「いいけどなんでだ?」

「おそらく、俺が生きているとわかれば俺を殺そうとするやつがいるはずだ。そいつに俺が生きているとわからないように顔を隠したい」

「そういうことなら。これは父がずっと持っていたものだ。これを一緒に持って行けばきっと父が私たちを守ってくれる。そうだ。それならばこのマントも一緒に羽織っていった方がいいんじゃないか?」


彼女はそう言うと長年彼女の父がつけていたというマントをくれた。

確かにこの方がより正体がわからなくなるだろう。

俺は受け取ったマントと仮面をつけた。


「よし、行くとしよう」

「ちょっと待って、これも持っていこう。武器がなければ戦えない」


そう言って彼女が手にしたのは俺が以前使っていた盾。そして俺を貫いたであろう剣だった。


「これが俺を殺そうとした剣か。そうだな持っていくとしよう」


必ず俺を殺そうとした犯人を見つける。そう決意をさせてくれるのにはこれ以上のものはなかった。


こうして準備を整えた俺とジナは小屋を出た。

これから俺を殺そうとした奴を必ず見つける。そしてなぜ俺を殺そうとしたのか。必ず突き止めてみせる。

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