第2話 推し活
「で? どの推しが死んだって?」
すぐに食堂は賑やかな声で満ちた。
凪は自分が注目されたことなどお構いなしに、グスグスと泣くものだからこの場で一番頭を抱え、恥ずかしくなったのは間違いなく友里だ。
深いため息をつきながら、凪を向かいの席に座らせて昼食を摂りながら話を聞く。
「コレッ! 私の最愛の推し!
スマートフォンをここぞとばかりに凪は見せつける。
画面に映るのは、友里も知る人気漫画の男キャラクターだ。
スーツ姿ではあるものの、金曜日のサラリーマンのようなくたびれた様子はない。少し緩めたネクタイからは、大人の余裕を感じる。加えてすらっとした立ち姿、腰元に刀を数本携えているのが印象的だ。もちろん顔も整っていて、キャラクターのことを何も知らなくても、好きになる人は多いだろうと友里は感じた。
「へぇ」
「ちょっと! 何でそんなに冷静なの! 推しだよ!? 推しが死んだっ……なのに!」
「いやいや。だって漫画でしょ。それに、バトルっぽいじゃん。刀持ってるし。そりゃ死ぬ可能性もあったでしょ、今後回想シーンで出てくるって絶対」
「違うの! それじゃ駄目なんだよ!」
「はぁ?」
目を赤くしながら凪は力説する。
「みんな大好きな八尾さんだよ? 優しくて真面目で強くて……八尾さんが生きているからこそ、世界が回って救われていたのに……もう世界は破滅だよぅ……この世の終わりだ」
「んな大げさな。たかがキャラクターじゃん。それに主人公じゃないでしょ? わきや――」
「八尾さんはメインキャラクターです」
「いやいや、流石にあたし、主人公周辺のキャラクターぐらい知ってるから。その、ヤオさん? はサブのサ――」
「八尾さんはメインキャラクターです」
頑なに譲らない凪。これ以上は何を言っても無駄だと悟った友里は争うことをやめて、次々に昼食を食べる手を進める。
「ねぇー友里~、慰めてよ~。友里だって推しが死んだら嫌でしょ?」
「ドンマイ」
「友里ぃぃぃ」
ゾンビのように友里にすがる凪。だが、友里は凪に構っている余裕がなかった。
「あたし、今日これのコンサートあるからさ。一人で何とかしてて。じゃあねぇ」
「友里の裏切り者っ!」
友里も自分のスマートフォンを操作し、画面を凪に見せつけた。
そこに映るのは人気男性アイドルグループ。どの人も整った顔で、今や音楽だけでなく、俳優としてテレビに出るメンバーもいる。
友里は友里で、アイドルを推しとしていて忙しいのであった。
それ故食べ終えた食器を持って、席を立って去って行った。
二人とも今日の午後は講義がない。友里が帰ってしまうなら、凪も学校で残って何かをするほどの予定がないため、しぶしぶ立ち上がる。
「八尾さんの葬式しよ……」
涙を拭いながら、凪は帰ることにした。
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