推し、転生する

夏木

第1話 推し死ぬる


「聞いてぇぇぇぇぇ!」


 お昼時で賑やかな食堂へ遅れてやって来た女子大学生、春山はるやまなぎが悲鳴を上げながら窓際の席へ向かう。


 大きなガラス窓の前のテーブル席に友人、嶋崎しまざき友里ゆりがいたのだ。凪の声を聞くなり、彼女は昼食の日替わり定食を食べる手を止めて、嫌な顔をしつつ凪を迎えた。


「今度は何? グッズが売り切れた?」

「ちがうのおおお! グッズは買えたから!」

「買えたんかい。じゃあ何よ? チケット争奪戦に負けた?」


 二人は互いに好きなものも把握し合っている友人である。それ故、凪がしばしば今のように泣きすがる様子を見てきた。

 理由は毎回異なるものの、大元は好きなものに何かあったとき。


 その好きなものというのが、凪の場合は、漫画なのである。

 原作からアニメ、映画、イベントまで好きになったらとことん追い、グッズを集める。フィギュアやアクリルキーホルダー、マスコットなど、アルバイトをして貯めたお金に加えて、生活費として貰った親からの仕送りも食費を削って投資する。


 身を削ってまで貢いでいることを知っているから、友里は、呆れつつも何かあったのかとりあえず話だけ聞くことにした。


「……だ」

「え? ハッキリ言いなさいよ」


 賑やかな食堂。小さく出した凪の声が消される。

 友里は自らの耳に手をあてて、再度ハッキリ言うように促した。


「……だの」

「はい? ワンモア」

「推しが死んだのっ!!」


 叫んだ凪の声は、一瞬で食堂の喧騒をかき消し、注目の的になった。

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