第二章:ムラサメの刃

第31話【俺たちのことを忘れてないだろうな!?】

 ――遂に来た、イベント当日。

 第三回目となる今回のイベントの内容は、二対二のプレイヤー同士で行われる、いわゆるタッグで行われるチーム戦だ。

 会場に選ばれたのは第二階層、《機械の街》の中心部に位置するコロシアムで開催される。

 コロシアムの入り口付近では、続々とプレイヤーがエントリーしていた。


「うわぁ、いっぱいいるね……」


 ベリーは今までに見たことがないほどの人数に驚いていた。

 それもそのはず、今回のイベント参加者はこの時点で百を越えていた。

 まだまだ続く長蛇の列を見れば、その数もさらに増えることが容易に想像出来る。


「さすがにこれだけの人がいると緊張するなぁ」


 前回のイベント優勝者であるベルも、かなり緊張していた。

 さすが優勝者というだけあって、他のプレイヤーから注目を浴びている。


「イベントに参加するプレイヤーは、こちらの端末にキャラクターネームとチームネームを入力してください!」


 NPCらしき受付嬢の案内に従い、ベリーは端末に名前を入力していく。


「チーム名……《B.B》っと、よしっ!」


「無事エントリーされました! コロシアムの中に入って、待機所でお待ちください」


 ベリーとベルの二人がコロシアムに入ると、自動的に転送されて待機所に現れる。

 既にエントリー済みのプレイヤーたちが、自身の得物をチェックしたり、何やらコソコソと話し合っていたりと緊迫した雰囲気が漂う。

 そんな待機所には、他のプレイヤー同士の戦闘状況が見れる大型のモニターが設置されており、座って休憩出来るスペースもあった。

 二人はとりあえずと、革のソファーに座ってくつろぐ。


「おっ、ベリー見て。どうやら出番は早いみたいだよ」


 ベルがモニターを指さして言う。

 その画面には、イベント開始までのカウントダウンと次の対戦相手のチーム名が表示されていた。

 『チーム《B.B》vsチーム《PK団・リベンジ》』


「開始まであと五分か……ベリー、準備はオーケー?」


「バッチリ、絶好調だよ! ベル!」


「よし、じゃあ初戦……張り切って行こうか!」


 カウントがゼロになると二人は光に包まれ、コロシアム内部、戦闘エリアに転送される。

 硬い砂の地面に、石壁、隠れる場所などないシンプルな作りだ。

 その円形のコロシアムの観戦席には、これまた大勢のプレイヤーがイベントを見に集まっていた。

 上空にはドローンの様な物も浮いている。


「――あっ。あれってフィールとアップルじゃない?」


「ホントだ! おーい! 私がんばるよー!」


 ベルとベリーは観戦席に座るフィールとアップルに手を振る。

 フィールとアップルもベリーたちに気付き、手を振り返す。

 並んで座っている二人はまだ面識が少なく、特にアップルの動きが少々ぎこちないが。


「はいはいはーい! 前回に引き続いてやってりますよぉぉ! はい、皆さんご存知、私です☆」


 と、前回のイベントでも進行役をしていたやたらテンションの高いお姉さんの声が、マイクを通してスピーカーから響く。


「こほん。ではでは! 人数も多いのでサクッとルール説明しちゃいますねー!」


 そう言ったお姉さんは今回のイベントルールを説明し始める。


「今回もPvPでやって参ります! ですが、前回とはすこーし変わって、二対二のチーム戦ですよ! アイテムの使用は禁止で、皆さん統一でレベル50となっています! そしてそして、エントリーしたチーム総数は……やややっ! およそ二千チーム! ということは……約四千人のプレイヤーが参加してくださいましたー! は〜い拍手!」


 スピーカーから規則正しい複数の拍手音が響く。


「とまぁ、さすがにこの人数を順番にふたチームずつやってたら夜になっちゃうよ! ということで、なんと戦闘エリアが〜えぇっと……まぁなんかたくさん追加されました! ……え? どこにあるかって? 上をご覧ください!」


 そう言われて、プレイヤーが一斉に上を見ると……そこにはこのコロシアムと全く同じ形、大きさのものが確かに沢山……十以上、機械の街の上空に浮遊していた。


「うひゃあ……! これがゲーム……!」


「コロシアムを浮かすのか……」


 ベリーとベルは空を見上げて口を開けていた。

 もちろん対戦相手も同じくお口ポカーン……観戦に来たプレイヤーたちも、開いた口が塞がらなかった。


「ほらほら、時間もないのでさっさと始めますよ! はいレディー?」


「「えぇっ!?」」


「ゴー! さあさあ、存分に暴れちゃってください! 私は酒缶片手に高みの見物だぜ! ――え、仕事中だからダメ? ぇ……あっ……そっすか…………えいえいふぁいとー、いけいけごーごー」


(((テンション下がりすぎだろ! 仕事しろ!)))


 ほとんどのプレイヤーが心の中でツッコミを入れた瞬間に、ベリーは走り出した。


「――【絶対回避】、【開放ノ術】……あと【見切り】!」


「面倒くさそうなのは任せといて〜! 【スパイラル・ショット】!」


 ベルはスナイパーライフルのスコープ越しに相手プレイヤーを睨むと、螺旋状の回転する弾丸を放つ。

 対戦相手の《PK団・リベンジ》の職業クラスは剣士と暗殺者――以前、どこかで見たことがあるような気がしながらも、次の弾を装填する。


「ぬおっ、いきなりか!?」


 ベルが放った弾丸は、暗殺者のプレイヤーにヘッドショットを決める。

 一撃でキルとまではいかなかったが、相当な大ダメージを与えた。


「くっ、運良く初戦で当たったと思ったらこれかよ……! だが今回は勝たせてもらうぞ!」


「あぁそうとも! ……あれ? まさか、俺たちのことを忘れてないだろうな!?」


「へっ? ……あっ、思い出した! ベル! この人たち、前のPK集団さんだ!」


「あ〜、なんか見覚えがあると思ったらあいつらか……そいっ」


 ベリーの言葉を聞いてハッキリと思い出したベルは、そう言いながら瀕死の暗殺者プレイヤーを狙って撃つ。


「くっそ、任せろ! 【挑発】!」


 剣士のプレイヤーが発動した【挑発】は、モンスターが相手だとヘイト値が上昇して狙われやすくなるというものだが、プレイヤーが相手の場合は、挑発を受けたプレイヤーはその発動者にしか攻撃が出来なくなるのだ。


「ベリー、そのまま剣の方よろしく! 【分身】!」


 しかしベルは剣士を攻撃しに行かず、無視してベリーに任せると、暗殺者の方へ【分身】を発動して接近する。


「おっけー! 【霧雨】!」


 任されたベリーも、【霧雨】を発動すると挑発してきた剣士に接近した。


「俺たちだって強くなってるんだからな! 【空斬カラギリ】!」


 剣士は大きく剣を振りかぶり、不可視の刃を飛ばしてくる。

 が、しかし――ベリーが既に発動していた【見切り】でそれは弾かれ、ベリーの攻撃力を上昇させた。


「ふ、【フレイムボルト】!」


 尚も接近するベリーに、続けて炎属性と雷属性の混合魔法スキル【フレイムボルト】で攻撃するが……雷纏う爆炎も、【絶対回避】の効果で自動回避される。


「へへ、回避先に気をつけ――!」


 ベリーの攻撃回避手段を二つ封じた剣士は、【絶対回避】で避けた先に剣を振り下ろしていた。

 初めからこれを狙っていたのだろう……だが、しかし。


「ほっっ――と、【第壱型・霧薙キリナギ】ッ!」


 軽やかにバク転して攻撃を避けたベリーは、霧で薙ぎ払い、剣士に無数の傷跡を付ける。

 そして――――。


「霧雨解除っ! 一気に決めさせてもらいますね! 【鬼神化】! 瞬時炎解――【閻魔】ッ!!!」


 霧が晴れたそこには、赤い鬼が立っている。

 ベリーは【閻魔】をチャージせずにそのまま発動し、灼熱の炎を剣士にぶつけた。


「ぐわぁぁぁああ!!!」


「よし、ベル〜終わったよ〜! ……って、な、なにしてるの?」


 ベリーは剣士のプレイヤーを倒し、暗殺者のプレイヤーと戦っているであろうベルの方を見ると――。


「く、くそっ! ちょこまか動きやがって! 当たれ!」


「よっ! ほっ! あ、ベリー終わったの?」


 【分身】で三人に増えたベルが、暗殺者のプレイヤーの周りをピョンピョンしたり、グルグルしたりと割と自由に……というか、もはや遊んでいた。

 可愛らしい……かどうかは置いておいて、この挑発行動だが……ベルの職業クラスも一応は《暗殺者》だ。

 果たして隠密行動をする者やることだろうか……と、観戦者たちはそう思った。

 暗殺者の相手プレイヤーはナイフを両手に持ち、懸命に振り回しているが、どうやら全く当たっていない様子。


「挑発も解けたし、これでようやく攻撃出来るね〜、【クイックショット】!」


「ぶべらっ!?」


 一人のベルがそう言うと【クイックショット】で相手の脳天に速射連発した。

 こうして、なかなか呆気なくベリーとベルは初戦を突破した。


「ふ、ふふふ……お、俺たちの復讐は終わっちゃいない……まだ二人、残ってるぜ……ガクッ」


 暗殺者のプレイヤーは最後にそう言い残して消えていった。


「あ、そういえばあの時四人いたっけ!」


「え、そうだっけ?」


 ベリーは初めてのことだったのでかなり鮮明に覚えているようだが、ベルはあまり覚えていないようだ。


「まぁ……とりあえず初戦突破だね」


「うん! 次も勝つよー!」


 元気よく意気込むベリーだが、四千人が戦って二千人になるのに十分以上掛かり、退屈でテーブルにおでこを付けながら手遊びすることになるとは、思ってもいなかった――。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る