第26話【赤い果実同士はいずれひかれ合う?】
「おっ、来たねベリー」
ベルに呼ばれ、第二階層の街にファストトラベルしたベリーは、手をヒラヒラと振るベルに駆け寄る。
「ベル! えっと確か、三回目のイベントがあるの?」
「そうそう、ほらこれ見て」
そう言ってベルはイベント内容を見せてくる。
その内容は二対二のタッグ戦……つまり、ベルが言いたいことは――。
「ベリー、私と組まない? さっきフィールにも聞いてみたんだけど、今回は参加しないってフラれちゃったしさ」
「うん! いいよ! じゃあチーム名は二人合わせて《B.B》だね!」
「おぉ、いいねそのチーム名! ベリー、ネーミングセンスあるよ」
「えっへん!」
「今回はタッグ戦だから、うまく連携しないとね」
「うん、私がんばるよ!」
「うん。まぁ無理しなくても、私がベリーに合わせちゃうけど……っと、もうこんな時間か」
ベルは時刻がもう夜の八時になっていることに気付く。
「じゃあベリーまたね。イベント対策諸々は明日学校で!」
「うん、わかった! また明日、ベル!」
そうして二人はこの日、PvPイベントを楽しみにしつつログアウトした。
* * *
それから数日後、次のイベントまであと少しという時だ。
「あ、おはよう苺……って、なんでまたパンを持ったままボーッとしてるの」
「あ、うん……えっと、ね。さっき道路の角で綺麗な茶髪の女の子とぶつかって、その子が咥えてたパンをキャッチして……」
「待って凄いデジャブを感じる。なんか聞いたことあるなその話」
そう、鈴のデジャブの通り、前に理乃とぶつかった時と似ているのだ。
「苺……またぶつかった?」
「あぁ理乃ちゃん、そうなんだよぉ……! すぐ逃げられちゃって、謝れなくて……」
そう言って苺は理乃に泣きつく。
またフラグだ立ったなと、元フラグだった理乃は思った。
そしてもちろん――――。
「最近引っ越して来ました。
「ああっ!!」
「やっぱりこうなったか……お約束っちゃあお約束だけど、ここまでとは……」
鈴は苺と長い付き合いなだけあって慣れていたが、たまーに予想通りというか予想外というか……しっかりお約束を守る苺を見て呟く。
「鈴……苺って……ラブコメの主人公?」
「いやぁ、一応女の子でっせ理乃はん。天然たらしなのかなうちの苺くん」
「鈴がおかしくなった」
「毎日振り回される私を褒めてほしいね」
「……えらいえらーい」
「ごめんちょっとそれは恥ずかしいかなぁ」
理乃に褒められ慰められる鈴は、頭をなでなでされて赤面して言った。
そんなこんなで休み時間だ。
早速、苺は林檎にぶつかった時のことを謝っていた。
「本当にごめんね林檎ちゃん!」
「り、林檎ちゃん…………うん、大丈夫だから気にしないで、八坂さん」
「うぅ……林檎ちゃんは優しいね、あと気軽に苺で良いからね!」
「う、うん……わかったわ、苺……さん」
ぐいぐい来る苺に少し戸惑う林檎だが、表情はどこか嬉しそうだ。
「こ〜ら、苺、九宮さんが困ってるでしょー。私は鈴、よろしくね」
「……理乃・スフィール、です……よろ…………お願いします」
「よ、よろしく。鈴さんに、理乃さん」
こうして自己紹介を済ませた一行は、その後一緒にお昼ご飯を食べるのだった。
* * *
「はぁぁぁあ…………疲れた」
学校から自宅に帰り、宿題を終わらせた林檎はようやく緊張の糸が切れたのか、ぼふっとベッドに倒れこんだ。
「転校初日で友達出来て良かったぁ……でも堅苦しかったわよね……。はぁ、ゲームの世界だったら気にしないのに、なんで現実世界だとこんなに緊張するのかしら……」
枕の傍に置いてあったカピバラのぬいぐるみを抱きしめながら、そう独り言を呟くと、林檎はまたため息を吐いてスマホを開く。
そこには苺、鈴、理乃の連絡先があった。
「……うーん、鈴さんは少し真面目そうだし、理乃さんもクールだからゲームはしないかしら? 苺さんは…………うん、今日はとっとと寝よう」
考えるのをやめて、林檎はベッドから起き上がる。
疲れからか食欲もないので、ちゃっちゃとお風呂に入り、寝る準備を済ませて再びベッドに戻ってきた。
「…………そうだ、そういえば苺さんって……前に会ったあの元気な子に似てるような気がするわね……いや、気のせいよね。やっぱり……ゲームのし過ぎ……なの、かしら……むにゃ……」
そんなことを考えていたらいつの間にか眠気に負け、林檎はそのまま朝までぐっすり眠ってしまった。
* * *
「――早く寝すぎた……学校までまだ時間あるし、ちょっとログインしようかしら」
朝早くに起きた林檎は、特にやることも無いのでゲームにログインすることにした。
「んー……フィールドで狩りでもしようかしら、レベル上げたいし」
そう言ってフィールドに出たアップルは、適当にモンスターを見つけては狩りを繰り返した。
「白狼、【火柱】!」
そう白狼に指示をすると、白狼は敵に向かって【火柱】を発動させる。
「はぁ、イベント出たいけどフレンド居ないしなぁ……今回は諦めるしかないわね」
「ガウ!」
運営からの通知を見ながらため息を吐くアップルに、白狼が「元気を出せ」と言っているかのように吠える。
「ありがとね、白狼。……ん? あれは……プレイヤー? でもなんでこんなところに? あっちには何もなかったはず……」
アップルはコソコソとフィールドの端へ向かうプレイヤーを見つけ、何故か無性に気になりそのプレイヤーを追いかけた。
――コソコソしているプレイヤーとは実はベルなのだが、そんなことはアップルが知る由もなかった。
「よし、やるか」
そう呟いたベルは、ポーチから何やらソフトボールほどの大きさの球体を取り出す。
ベルがその球体のスイッチを押すと、球体は青く発光し、ベルの手を離れて浮き出す。
『ピピッ――トレーニングキューブ、起動完了しました。モードを説明してください』
そう球体から声が聞こえると、青白いパネルが現れる。
そこには制限時間などいろいろな項目があり、ベルはそれを慣れた手つきでちゃっちゃと設定する。
『完了しました。トレーニングを開始します。カウントダウン、3……2……1…………スタート』
そうしてトレーニングが開始されると、瞬時にのっぺりとした人型のロボットが大量に召喚される。
ベルが設定した内容はこうだ――召喚されるモンスターは人型で、スピードが速く、頭にしかダメージが通らない。
つまりベルは、この人気のないところで複数の敵を一人で倒すためのトレーニングをしているのだ。
「さあ、来い!」
そう言うベルの言葉を待っていたかのように、ロボットたちは一斉に動き出す。
あるロボットは殴りかかり、またあるロボットは腕を銃に変形させ、ベルに向かって撃ってくる。
「ハアッ!」
そんなロボットたちの多種多様な攻撃を、ベルはその全てを避けながら一体ずつ確実に仕留めていく。
「す、凄い……あんな沢山のモンスターを一人で……」
その光景は、他のプレイヤーからすればチートでも使って避けているのかと思うほどに、無駄が一切ないほど正確に避けられていた。
加えてあの射撃性能だ。
これでチートでないと言うのなら、このゲームで右に出る者はいないだろう。
「仮想世界であんな動きが出来るなんて……運動神経が凄いのね……」
と、アップルはじっとその光景を見ていたが、突然ベルが慌て始めて、一瞬攻撃が当たってしまいそうになる。
「ん……? 一体どうし――」
「よっ! はっ! ほっ! ……っと!」
ベルは敵を無視して球体に一瞬で近付き、球体のスイッチを押してトレーニングを終了させた。
「危ない危ない、遅れるところだったぁ……!」
そう言ったベルは球体をポーチにしまい、ログアウトしていった。
「なんだったのよ……って、ああぁ! 学校遅れる!」
時刻はいつの間にか七時半を過ぎていた。
アップル――林檎の家は学校から少し遠いので、急いで準備しないと遅刻してしまう。
「ログアウトログアウト!」
アップルは即時にログアウトすると制服に素早く着替え、家を飛び出して学校へ向かって行った。
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