第25話【もうモンスターに追いかけられるのは嫌です……!】

 《五老人ミニゲーム2》をクリアしたベリーは、最初に戦ったあの猪型モンスターが沢山いる草原のフィールドに来ていた。


「えっと……じゃあ君に決めた! 【捕食者】!」


 そう言いながら一匹の猪型モンスターを指さし、クリア報酬として獲得した【捕食者】を発動させる。


「…………あ、あれ? 発動しな……グフゥ!?」


 が、何故か発動しない【捕食者】……ベリーが困惑しているその隙に、猪は突進した。

 防御も出来ず、クリーンヒットしたベリーだが、起き上がると【捕食者】の効果を実感した。


「いてて……あれ? HPが回復してる!」


 【捕食者】は発動中、範囲内のモンスターからHPとMPを奪い取るというスキルなので、HPやMPが満タンだったベリーには効果がなかったのだ。

 そのためダメージを受ければ、減ったHPが【捕食者】によって回復し、逆にモンスターはダメージを受けて光となって消滅する。


「凄い凄い! これならポーション使う時間が無くなるから戦いやすくなるよ!」


 そう言ってベリーは、少しの間フィールドを探索し、猪からわざとダメージを受けては自動回復を続けた。


「うーん、MP消費しないし効果時間もいっぱいあって範囲も広いけど……リキャストタイムが長いなぁ」


 【捕食者】は強力なメリットがある分、一回の戦闘で一度くらいしか使えないというデメリットがあった。


「これは奥の手……かな」


 と、【捕食者】の使うタイミングから奥の手行きにしたベリーは辺りの草原を見渡す。


「そーいえばベルが第一階層のフィールドは草原以外にも沢山あるって言ってたなぁ」


 思い出したように呟いたベリーはマップを開き、適当な場所をポチッと押す。

 ベルに教えてもらったフィールド移動、ファストトラベルだ。

 『ここにファストトラベルしますか?』とベリーの目の前にメッセージが表示され、もちろん承諾して第一階層の観光名所でもある山岳へテレポートした。


「んん〜♪ 風が気持ちいい〜!」


 一瞬でテレポートしたベリーは、大きく息を吸いながら背伸びをして脱力する。


「…………岩だらけ」


 が、辺りを見渡せば岩やら石ころやらが沢山あるだけの場所。

 残念ながら、ベリーが来たこのフィールドは観光名所と呼ばれるところとは少し離れた場所に位置するただの岩山フィールドだ。

 鳥型のモンスターの群れもちらほら見える。


「うぅ……確か頂上には大型モンスターがいるんだよね………いい景色らしいけど」


 ファストトラベルは一度使うと数分は使えない仕様なので、仕方なくベリーはその辺を歩くことにした。



* * *



「――うわわわぁぁ! 来ないでよー!」


 歩いていたら、中型の鳥モンスターの群れがベリーに襲いかかってきた。

 弓で撃ち落とそうにも狙っている間に攻撃され、反撃の隙が見つからない。


「ちょっ、待って! 走りづらいっ!」


 さらにここは山道……石がゴロゴロ転がっていて、足場が悪い。

 そして、敵は空を飛んでいるのでそんな道を走っているベリーに容赦なく羽根のホーミングミサイルを飛ばしてくる。


「クルルァア!」


 群れのリーダーらしき、ちょっと他とは大きめの鳥型モンスターが仲間に合図すると、ベリー目掛けて一斉にホーミングミサイルを放ってきた。


「うわぁぁぁぁ!?」


 【絶対回避】を使用しても避けきれないほどの数の羽根……もう駄目だと、そう思ったその時――。


「【ブレイドビーム】!!」


 そんなスキル名が聞こえたと思ったら、発光する刃がベリーの頭上を通り抜け、鳥型モンスターのリーダーを撃ち落とす。


「は、はひぇ?」


 ベリーは何が起きたのかわからず、走る足を急ブレーキし、山道の先を見る。


「ふん……あの程度のモンスターで逃げ回るなんて、まぁ初心者っぽいし仕方ないわね」


 そう言った少女の手には短剣があり、腰にも何本か装備されていた。

 恐らくその短剣で先程のスキルを発動させたのだろう。

 ベリーより赤く、長めの髪をサイドテールにしており、身長は160cmくらいだろうか。

 黒と赤で装飾されたいかにもレアで強そうな装備を身に付けている。


「わあ! 凄い装備ですね! さっきのスキルはその短剣で!? あ、助けてくれてありが――」


「ちょちょっ、ちょっと待って! まだモンスター残ってるから! というかあんた、さっきまで息切れしてたわよね!?」


 疲れなんてとうのとっくに忘れ、赤い少女に近づくベリーだが、まだモンスターは残っているのだ。


「数が多いわね……あんた、ちょっと手伝いなさい」


「わかりました! あ、私ベリーって言います!」


「忙しい奴ね……私は、えっと……あ、アップルよ」


 と、髪と同じく恥ずかしそうに顔を赤くさせて名乗ったアップルを、ベリーは目を輝かせてじっと見る。


「可愛い名前ですね!」


「う、うっさい! ほら、来たわよ!」


「あっ、ホントだ。よぉーっし、【鬼神化】! そして【開放ノ術】!」


 ベリーは【鬼神化】と【開放ノ術】を発動させて、弓を構える。


「【雨ノ矢】!」


 そう叫んで放った矢は、雨のように鳥達を襲う。


「な、なかなかやるわね……【白狼】!」


 アップルはベリーの【鬼神化】や弓の技術に少し驚いたが、すぐに自分もスキルを発動させる。

 【白狼】というスキルは、職業召喚師が使うスキルで、中型の狼型モンスター《白狼》を召喚し、敵モンスターと戦わせることが出来るのだが……。

 主に己の牙で戦う白狼に遠距離攻撃は出来ない、というよりスキルが使えないので、鳥型モンスターとの相性は最悪なのだ。


「白狼、【火柱】!」


 そうアップルが白狼に命令すると、スキルが使えないはずの白狼が命令に従い【火柱】を発動させて鳥型モンスター達を一掃した。


「凄い! なんですかこのワンちゃん!」


 召喚師のことなど知識にないベリーは素直に驚いていた。


「ワンちゃんじゃないわよ! 白狼! これはエクストラスキル、【司令官】の効果で……ってなんであんたに教えなくちゃいけないのよ……!」


「ん? あ、ベルからだ! 何々………『第3回イベントが発表されたからちょっと来て』……イベント来るんだー! あ、それじゃあ私はこれで! ありがとうございました!」


「え、ちょっ……はぁ、本当に忙しくて騒がしい奴ね。私もそろそろ準備しなきゃ」


 忙しなく去っていったベリーを見送ったアップルは、目の前に出現した半透明のパネルを操作し、ログアウトした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る