第23話【修行しようとしたらパン屋を見つけました!】
「苺ぉ〜、今日メンテ終わるけど……私無理だからぁ〜」
「うぇ? そうなの? でもどうして?」
メンテナンス終了を誰よりも楽しみにしていた鈴がそんなことを言う。
「ほら、もうすぐじゃん……期末テスト」
期末テスト――その緊急クエストは、鈴にとって最大の試練なのだ。
その理由は鈴の母によるもので、テストの点数が悪いとしばらくゲームを禁止されるのだ。
苺が《NGO》を始めるちょっと前は中間テストで、点数が落ちたので一週間のゲーム禁止命令が下された。
「ってことで、今日だけ勉強しまくります……」
「大変だねぇ……頑張ってね」
「いや苺もテストやるんだからね?」
「わかってるよ〜、ちゃんとやってるも〜ん」
鈴もそうだが苺もしっかりと勉強はしている。
しかしテストの途中で寝落ちするので答えはわかっているがほぼ空欄で終わり、点数はあまり良くない。
「今回はテスト前にしっかり寝ときなよ?」
「わ、わかってるよー!」
テストも頑張らないといけないが、苺は《シュッツガイスト・オートマトン》との戦いで長い時間戦闘に参加出来なかったのを悔やんでいた。
……と言っても総合的にHPを一番多く削ったのは苺なのでかなり貢献出来ているのだが。
苺自身がもっとみんなの役に立ちたいと思っているので、今日は一人で修行をすることにした。
「――とうちゃ〜く! さて、どこに行こうかなぁ……」
帰宅して、《NGO》にログインしたベリーはメンテナンスで少しだけ変わった第二階層でどこへ行くか迷っていた。
「う〜? すんすん……この匂い……パン!?」
前まではなかった良い匂いに気付いたベリーは、その香ばしいパンの匂いを頼りにパン屋へ向かった。
「パン〜パン〜♪ 今日は〜ホットドッグが〜♪ た〜べたいな〜♪」
謎の歌を歌いながら歩いていると、目の前に匂いの元のパン屋が現れた。
「うわぁ〜い! パン屋〜!」
パン屋を見つけると走って、すぐさま中に入った。
パン屋の店内は当然だがパンのいい匂いが漂っていて、思わずよだれが垂れそうになる。
「すみませ〜ん! ホットドッグくださいな!」
ベリーはワクワクしながらそう言う。
「すみません、ホットドッグはありません」
「そ、そんな……!?」
ホットドッグがないことを告げられ、ベリーはショックでぺたんと座り込む。
こんなことがあるだろうかと、軽く絶望する。
「ほ、ホットキャットならございます……」
「ホットキャット!? じゃあそれください!」
店員は何故か顔を赤くさせながらホットキャットを取りだし、袋に入れる。
「……130ゴールドになります」
「は〜い!」
ベリーはゴールドを支払い、ホットキャットを受け取る。
「うわ〜! 形がネコさんだぁ〜!」
ネコの形をしたパンを見て目を輝かせ――。
「はむっ! ん〜♪ 美味しい! 凄く美味しいよ!」
躊躇いも無くかぶりついた。
店員はなんとも言えない表情をしているが、そんなことはお構い無しに、ベリーはレタスやウインナーが挟んであるホットキャットをもぐもぐと咀嚼する。
マスタードの辛みがいい感じに効いていて、すぐ次に行きたくなる。
「は〜美味し〜! それじゃあまた来ま〜す♪」
「は、はい……ありがとうございました〜」
そうしてベリーはパン屋を出て、もう一つ買ったホットキャットを食べながら第一階層の最初の街へ向かった。
「そーえばこのゲーム、ネコちゃん多い気が……まあいっか! 今度ベルにもここのパン屋教えてあげよ〜」
* * *
「よっ、どうだった?」
と、三嶋が先程までパン屋の店員をしていた八神にそう聞く。
「私が作ったホットキャットを……パクって……かぶりついた……」
「おう、見てたぞー」
八神はプルプルと震えて一言。
「めっちゃ可愛い! なにあの子! パクってする姿がもう……たまらんっ! ネコを躊躇いもなく食べたのはちょっと驚いたけど……ねえ、次はお寿司とかやってみない? 中華もいいよね! ね!?」
「お前一応ここ機械の街ってことわかってる? あと、今回で最後だからな、こんなこと」
そう、八神は今回、ベリーのことがどうしても気になってパン屋の店員のNPCを操作したのだ。
「わ、わかったよ。いいさいいさ! 私も《NGO》やってるし、どっかで会うでしょ!」
「へいへい、んじゃさっさと仕事に戻れ」
「へ〜い……」
* * *
一方その頃、ベリーは第一階層の街へ戻ってきていた。
しかしその理由は……。
「さぁて、まだ食べてないお店もあったし、全部食べるぞー!」
まだ行ったことのない飲食店の完全攻略だった。
修行のこともいつの間にか忘れ、マップを見ながらお店へ向かった。
「んー、ここも行ったし……ここも、行ったなぁ……もう全部行ったのかな?」
数時間で既に三軒もの店を攻略したベリーは、マップを眺めながらそう言った。
しかしマップに表示されない隠れた名店もあるかもしれないと、ベリーは人気のない路地へ進む。
「んー、分かれ道……どちらにしようかな、天の神様の言う通り! よし右だ!」
ベリーは進む道を神に任せ、良いお店と出会えることを願いながら歩き出した。
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