第19話【いろいろありましたが階層ボス戦クリアです!】

「よーっし、ここが正念場だ! 気合い入れろよー!」



 ソラが無くなったMPを回復させながら言う。

 《シュッツガイスト・オートマトン》のHPも残り少ない、ベリーの攻撃がかなり通るのだがまだ頭痛が酷い……ということで。



「奥の手を使います」



 そう言ったのはベルだった。



「ベル、奥の手ってなんだ?」



 ソラはそう疑問を問いかける。



「奥の手は奥の手、でも私のじゃない」




 ベルはそう言って、フィールを見た。



「フィール、PvPイベントの時……奥の手を隠してたよね?」



 そう、フィールは前のPvPイベントで“奥の手”を使っていない。

 と、そうベルは予想した。

 上位者のほとんどは奥の手を隠し、イザという時に使っていたが、フィールはあるはずの奥の手を使わなかった。

 いや、使えなかったのだ。



「……わかった。私の奥の手……見せてあげる」



 フィールはそれを承諾すると、ベルは頷いて言う。



「多分あの時はアイテムが使えないってルールだったから、MP足りなくて出来なかった……でいいよね?」


「ん……私の奥の手……最終手段というのでもないけど……私の中では最高火力のスキル」


「おぉ……それで、MPのほどは?」


「足りない、私のMPを全部使わないと無理」


「じゃあ……はい、ポーション。んじゃ、みんなはボスを引き付けて! 倒せるのであれば遠慮なくぶっ飛ばしなさい!」


「「「了解!」」」


「それでベリーは……」



 と、ベルはベリーの方を見ると、バウムを復活させたベリーは目を瞑って坐禅を組み、瞑想していた。



「えっ……と、何してるのベリー?」


「こうすると頭痛が治まるんだよ……すぅ……」


「そ、そっか……じゃあ頭痛治ったら戦闘に復帰してね」


「うん、わかった……」



 ベリーは現在の姿勢を維持しながら集中力を切らさずにそう言った。



「ではでは、敵さんも攻撃準備出来たようだし、やりますか!」



 ベルはそう言って攻撃を開始! ……しようとしたのだが。



「【幻手】、【朧斬り】! ――【燕返し】!」


「【パワーアップ】! オラァァアッ!!!」



 ソラとバウムの本気モードがそこにあった。



「……全てを燃やし、全てを凍らせ……全てを破滅へ導け……」



 フィールはというと、スキルの詠唱を行っていた。

 フィールの周囲が妖しく輝き、後ろには謎の大きな扉の門が出現していた。



「これは……私、いらないなぁ……」



 ベルはそう言いつつも二丁拳銃でソラとバウムを援護していた。



「頭痛治ったよ!!」


「おぉ、意外と早かったね。えっとじゃあ……」


「私も援護する!」



 ベリーはそう言って弓を装備する。



「うん、よろしくねベリー」


「任せて! 【メテオシュート】!」



 ベリーは弓の弦を引くと、スキルを発動する。

 矢は燃え上がり、一回り膨張すると《シュッツガイスト・オートマトン》へ向かう。

 《シュッツガイスト・オートマトン》の頭に矢は刺さり、突如轟音が響いたと思えば、爆発する。



「う、うわぁ……いつの間にそんなスキルを……」


「街に居た弓道の達人の人に勝ったら貰った!」


「そ、そうなんだ……フィール! そっちはどう?」



 ベルはベリーのことは一旦置いといて、フィールのスキル発動の具合を聞く。



「もう、終わる……。悪魔を殺し、龍を殺し、神を殺し、全てを消し去り無に還せ……!」


「ソラ、バウム! 避けて!」



 ベルはかなり派手なエフェクトを見て悟る。

 この長い詠唱、そしてエフェクト……全MPを使用するというスキル……自分でやれと言っておいて、これはヤバいスキルなのだと気付いたのだ。



「――終焉の時を今ここに……ッ! 創造、【ラグナロク】!」



 フィールは遂にスキルを発動すると、《シュッツガイスト・オートマトン》に向けて……いや、全エリアを対象に攻撃を開始した。


 【ラグナロク】――それは《NGO》で神属性スキルと呼ばれる、この仮想世界に四つしか存在しないスキルだ。

 その四つのスキルはそれぞれ違う効果だが、この【ラグナロク】はかなり、物凄く、めちゃくちゃ強力で、効果はなんと“フィールド内の全ての敵のHPを0にするまで攻撃する”という仕様なのか疑うレベルでバカみたいな火力のスキルなのだ。

 様々な神や悪魔など、神話の生物を模したものが次々と開いた門から現れ、まさに地獄絵図だった。



「「「「うわぁ……」」」」



 ベリー、ベル、ソラ、バウムの四人が、その光景を眺めて思わずそう呟いた。

 そして、いつの間にか……というか、とうのとっくに《シュッツガイスト・オートマトン》のHPは0になっている。

 もはやオーバーキルだった。



「……終わったよ、みんな」



 空から降る隕石やらビームやら、神やら悪魔やらが消え、フィールがフワッと髪を揺らして振り返り、終わりを告げる。



「うん……世界が終わらなくてよかったよ」


「ベル……ゲームってなんだっけ?」


「もうこいつは神か? 神なのか?」


「このパーティー……僕以外おかしいほど強すぎると思うんだけど……」



 ベルとベリーは呆然とし、ソラはフィールを神なんじゃないかと言って、バウムはこのパーティーの総火力がおかしいということに今更気付く。

 ……バウムもその最強に含まれるのだが。



「でも、これで第一階層攻略完了! クエストクリアだね!」



 ベリーが笑みを浮かべてクエストクリアを喜ぶと、その笑顔に呆然としていたのが一気に無くなる。



「そうだね、よーっし! 早く第二階層へ行こう!」


「ん……私も早く見たい」


「おー、俺も俺も! どんな街だろうなー!」


「ちょっ、みんな! せめてドロップ品を確認してからでも!」



 こうして第一階層をクリアし、開いた奥の扉から第二階層へ向かうベリーたちであった……。



* * *



 一方その頃、運営側は――。


「…………」


「…………一個だけいいか?」


「あっ、なんだ?」



 沈黙している者が数人居る中、一人が同僚に聞く。



「このボスさ、設定ミスってほとんど誰も攻略出来なかったじゃん?」


「あー、そうだな。第一階層のボスにしてはちょっと強すぎたな」


「うん、でも……でもさ? これ、おかしくね?」



 そう言って男は同僚にプレイ映像をモニターに映して見せる。

 そこには【ラグナロク】を発動させるフィールが映っていた。



「……マジ? 何でこの子【ラグナロク】持ってんの? 神属性スキルはほぼ入手不可能な設定にしたろ? まだ入手出来るプレイヤーはいないと思ってた……」


「あぁ、確かこの子はフィールっていうプレイヤーだ。前回のイベントで二位だった」


「…………で、他には?」


「あとは……このプレイヤーだ」



 画面を変え、さらにおかしい子を見せる。

 今度はベルだった。



「このベルっていう子、フィールを倒した前回のイベント優勝者なんだけど……このエイム力やばない?」


「ベルって確か《NGO》の初期のほうにもそんな名前のやつ居たな、ベテランにもなるとそこまでいくのか」


「あとはこの二人の男プレイヤー、こいつらも連携がうまくて凄い。あと入手困難の【幻手】をこの緑の侍が持ってる」


「マジか……ん? この子は?」


「ああ、この子が一番ヤバいんじゃないかって思うんだ」



 そう言ってベリーを拡大して見せる。



「この子はついこの前ログインしてきた初心者プレイヤーなんだが……剣さばき、弓の扱い……そして何より俺たちが遊びでふざけて作ったのに本社に採用された五老人ミニゲームをあっさりクリアしやがった……」



 その言葉に同僚は固まる。



「なん……だと……!? あの五老人ミニゲームを……!?」


「あぁ、もう将棋の達人が突破されてる」


「マジかよ……いや、でもそれくらいならベルとかフィールのほうが凄くね?」



 同僚はベルとフィールのほうが凄いと言うが……。



「いやいや、それがまだある」



 そう言って見せたのは、いつかのベリーが戦った青い騎士……《ザ・ブラウリッター》だった。



「こいつを倒しやがった。レベル10か、そこらでな」


「マジかこいつ……どうやったらあの青騎士倒せんだよ、俺だって倒せなかったぞ?」


「な? もうあれだ、全部の設定見直して、修正だ。メンテだメンテ、あの階層ボスのレベルも調整だ」


「うへぇ〜、仕方ねぇな……じゃあメンテ後は日本サーバーで三回目のイベントか?」


「そうだなー、内容はどうする? またみんなで決めるんだろ?」


「えー、じゃあ……チーム戦とかどうよ?」


「それじゃあコイツら無双するぞ……」


「んじゃあ……二人チームで!」


「うーん……まぁそれならいいか? その線で行こう」



 ベリーたちは運営から注目され、第三回目のイベントとしてチームVSチームのタッグ戦が予定されることになった。

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