第18話【憤怒兵器に憑く守護霊】

 ベル、フィール、ソラの三人が第一階層ボス、《シュッツガイスト・オートマトン》に突撃する。

 ここで一気に蹴りをつけるつもりだ。



「ソラは防御! フィールは隙が出来たら攻撃、私は援護する!」


「「了解!」」



 《シュッツガイスト・オートマトン》は両手を剣に変化させると交差し、ソラを狙って振りかざす。



「うおぉ、はぇぇ!」



 《シュッツガイスト・オートマトン》は凄まじいほどの速度で剣を振るが、ソラはなんとか防ぎきる。



「【エンチャント・ヘルフリーズ】」



 フィールはエンチャント系のスキルで剣に氷属性を追加する。

 だが、それで終わりではない。

 もっと……確実に倒すために――。



「【エンチャント・ヘルフレイム】……【エンチャント・ヘルストーム】……!」



 フィールは全三種の属性を付与し、攻撃を開始する。



「はあ……!」



 フィールはMPを温存したいため、これ以上スキルは使用せずに戦う。

 《シュッツガイスト・オートマトン》の装甲を斬って、ダメージを与える。



「一発、一発当てればいい……! フィールが減らしたHPを一気に削れれば終わる……【フルチャージ】!」



 ベルはいつも以上に集中し、《シュッツガイスト・オートマトン》の攻撃をガードするソラと、その隙を攻撃するフィールの動きをよく見て、誤射しないようにする。



「はぁ! やあっ……! もうすぐ……!」



 フィールの攻撃がかなり効いていて、《シュッツガイスト・オートマトン》のHPが減っている。



「くっ……もう俺の盾の耐久値が限界だ! やれ、ベル!!」



 ソラの持っている盾はボロボロになり、耐久値が残り僅か……あと数発耐えられるかわからないほどだった。

 ベルはスコープでボスの頭ではなく、心臓部分を狙う。



「ロボットだし……頭よりは胴体部分に何かしら詰まってるはず! なら、そこに衝撃を与えれば……!」



 そう言ってベルは、トリガーに指を置く。



「すぅ――――」



 静かに息を吸って、ゆっくりとトリガーを引く。

 その瞬間、部屋に轟音が響くと同時に、機械人形の心臓部に命中する。



「……やった! HPは!?」



 ベルはそう言ってボスのHPを確認する。HPはぐーんと減っていき、赤いゲージに変わる。

 そのまま討伐完了――と、思われたが、異変が起きた。


 《シュッツガイスト・オートマトン》の体から大量の蒸気が噴き出たと思ったら、その体は機能を停止したかのように膝から崩れ落ち、背中がガパッと開く。



「な、何あれ……」



 ベルが驚いた理由……それは、なんとボスの背中から、まるでマトリョーシカのように一回り小さいロボットが出てきたのだ。

 ツルツルで黒い光沢の装甲、そして、胸にある謎の鍵穴……。



「う、嘘……さっきのHPって、外殻の……?」



 そう、この階層ボスは“外殻”を身に付けていた。

 そして減っていたのはその外殻のHPで、階層ボス本体には全くダメージが通っていなかったのだ。



『フシュゥゥゥー!!!』



 《シュッツガイスト・オートマトン》は口部を開くと熱気を吐き出し、赤い目でベルを睨んでいる。



「……ッ! 考えろ……! きっとあの鍵穴がヒント……鍵穴? って、そうだ! ベリーが持ってたやつじゃんか!」



 ベルは脳をフル回転させ、どう考えても鍵穴にベリーが入手した例の鍵を使うのだろうということを導き出す。



「あぁっ、でもベリーが……っ! ソラ! フィール! ちょっとよろしく!」


「おうっ!」


「ん……」



 ベルはそう言ってソラとフィールに少しの間 《シュッツガイスト・オートマトン》を任せ、ベリーの元へ走る。



『グルァァーー!!!』



 《シュッツガイスト・オートマトン》は背を向けたベルを追いかけるが、それはソラに防がれる。



「わかった……! シュッツガイストの意味は『守護霊』だったはずだ! 霊ってことはコイツ、まだ形態があると思うぞ!」


「ん……なら多分、何かの霊を機械に取りつかせてこの場所を守らせてる。霊自体は無害、強制的に機械を動かさせて戦わせてる……っていう設定だと思う」


「あーったく。普通に考えて取り憑いた霊が機械を支配するとかだろこれ!」



 ソラが思い出したシュッツガイストの意味から、フィールはそのボスの設定を考察する。

 そういうことならば、霊を解放すれば終わるのではないだろうか。



「ベリー! ベリーごめん、一回起きて! 鍵が必要なの!」



 鍵はベリーのインベントリの中なので、ベリーが操作しない限り、取り出すことは出来ないのだ。



「う……ベル……? あと五分二十四秒だけ寝かせて……」


「細かッ! って起きたんだね!」


「うぅ……まだガンガンするよぉ……」


「あ、あんな無理するから……じゃなくてほら、あの鍵、あいつの胸に差し込めば何か進展すると思うんだ!」


「待ってて……はい、じゃあ私はバウムくんを復活させてくるねぇ……」


「うん、よろしくベリー! 復活させたら休んでて!」


「ふあぁい……」



 ベルはベリーから鍵を受け取ると、人魂となったバウムの元にほふく前進のように向かうベリーを一目見てから鍵を握りしめ……。



「――【シュート】ォォッ!!!」



 力強く投げることが出来るシステムアシストの【シュート】を発動して、鍵を《シュッツガイスト・オートマトン》の鍵穴に向けてぶん投げる。



「ちょ、おい! いくらなんでもそりゃ無理だろ!?」



 そんなベルを見ていたソラがさすがに無理と言うが……鍵は綺麗に真っ直ぐ投げられ、さらに右回転しながら《シュッツガイスト・オートマトン》の胸の鍵穴へ向かい――。



「……う、嘘だろぉ……」


「……でもやった、ベル凄い……」



 なんと鍵は、見事に鍵穴へピッタリと填まり、回転力で右へ回ってガチャリと解錠音が耳に聞こえた。



「よぉぉっしっ!!! どうだ、見たか私の正確性っ!」


『グアアアアアアァァァッッッ!!!!!』



 内心「さすがに無理か?」と思っていたベルだが、無事に成功してガッツポーズをする。

 解放の鍵を使われた《シュッツガイスト・オートマトン》は、熱い蒸気を体中から噴き出しながら激しく震え、光の粒が舞い上がった。



「あっ……これは、まさか?」



 モンスターの消滅エフェクトである光の粒が舞い上がったのだが、人形自体は消えていない。



「今の……霊が消えただけ。多分……第三形態……」


「俺の予想だとな? 多分、霊が俺たちを守るためにコイツの力をなんとか抑えてて、その霊が鍵で解放されたことで本格的に暴走する。……っていうシナリオだと思う」


「えぇ…………もう、ぶっ壊してやるッ!!!」



 ベルは終わったと思っていたのに、予想が外れて途端に恥ずかしくなり、このボスを絶対にぶち壊すと決意した。



『警告――。コノ兵器ハ、モウ、止マリマ……セン。至急、避難シ、テクダサイ』


「【乱射】、【乱射】、【乱射】ぁぁ!!!」


「おいベル、まだストーリー進行中だって」


「……あと【乱射】を適当に撃ってるから……一発も当たってない……」



 二人にそう言われるが、ベルは続けてロケットランチャーを取りだし、ボスへ向けて発射しまくる。



「なあ、フィール……暗殺者って、こんなド派手だったっけ?」


「……私の記憶じゃあ、静かに……相手に気付かれずに殺すっていうものだと……思ってた……」


「こっちのほうが暴走してね?」


「ん、早くバウムとベリーを戦闘に復帰させなきゃ……」


「んだなぁ……」



 ソラとフィールの二人には、もはや暴走した人形も、ベルも止めることは出来なかった――。

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