第17話【第一階層ボス戦です!】
重々しく開かれた扉の先には、真っ白で巨大な空間があった。
「……絶対、あれだよね……ベル」
「うん、絶対そうだね」
五人の前、部屋の中央には人型の機械が佇んでおり、苺たちを出迎える。
黒い光沢に、スマートなボディを持ったロボットはまるで、頑丈な鎧を着た人間のようだった。
その身長は2mほどだろうか、苺たちを見下ろし、戦闘開始を待っている。
「よし、みんなは強化系のスキルはおーけー?」
ベルがそう言って確認すると、全員コクリと頷く。
準備オッケー、万全のようだ。
「よし……んじゃまぁ――戦闘開始!」
ベルのその合図に、全員が一斉に走り出す。
「よっしゃ先手必勝だ! やっちまえフィール! 【パワーアップ】ッ!」
ソラはフィールに攻撃力上昇のスキルを追加で施しながら言う。
「ん……【創造・剣】エクスカリバー!」
フィールは《エクスカリバー》を創造し、縦に一振りすると、光の斬撃が放たれボスに命中する。
斬撃による蒸気で隠れていたが、グラッと相手の体勢が崩れたのがチラリとベルの目に入る。
「崩れた! 叩き込めー!!」
ベルはフィールの攻撃の後、スナイパーライフルでボスの頭を狙い、そうみんなに伝えて撃ち抜く。
「【神技・大地切断】ッ!!」
ソラはかなりMPを消費するが凄まじい威力を誇る【神技・大地切断】を発動する。
そして、バウムがソラの後に続く。
「【一閃】ッ!」
バウムは横に太刀を振り払い、【一閃】を放つとボスにダメージを与えていった。
「……どうだ?」
ソラがそう言って、ボスのHPを確認する。
しかし、半分は削ったと思われたHPだったが、連続でスキルを発動して攻撃したのにも関わらず、ボスのHPはまだ全体の二割程度しか削れていなかった。
「ま、マジで?」
「ッ! 来るよ! みんな避けて!」
相手の高い防御力にソラが驚いていると、今まで何もしてこなかったボスが遂に動き出し、ベルの合図で全員が後退する。
『――ッ! ――――!? ッッッ!!!』
ボスは不気味な機械音を発し、背中から蒸気を噴き上げる。
蒸気はかなりの熱量を持ち、部屋は一瞬にしてサウナのように暑くなる。
「ボスの名前は《シュッツガイスト・オートマトン》……機械人形か」
ベルがボスの名前を確認する。
すると、第一階層ダンジョンボス――《シュッツガイスト・オートマトン》がクラウチングスタートのような姿勢を取り、後退したベルたちの元に接近して攻撃を仕掛けてくる。
『ガッッ――――!!!』
壊れたような機械音を発しながら、機械人形は一直線にベリーへ向かい、拳を構える。
「ベリー危な――ってなにしてんの!?」
「い、いやー……【閻魔】を発動しようとしたんだけどタイミング見失っちゃって……」
そう、ベリーはさっきの全員の総攻撃に出遅れたのだ。
しかしここまでチャージしたスキルを解除するのももったいないので、そのままにしておいたのだ。
……が、【閻魔】の発動の構えから避けることは出来なくはないが、かなり難しい。
チャージ中、他の行動は取りづらくなるので現在ベリーは太刀を構えたまま動けなかった。
「大丈夫! ちょっとやってみるよ!」
ベリーはそう言うと、今なお高速で接近してくる《シュッツガイスト・オートマトン》を睨み――。
「【閻魔】ッ!!!」
そう叫び、《シュッツガイスト・オートマトン》を斬る。
ベリーはなんと【閻魔】を発動し、《シュッツガイスト・オートマトン》を炎に焼きながら向かってきた拳を避けていた。
「や、やった……!」
そう思ったのも束の間、《シュッツガイスト・オートマトン》のHPは削れたが、すぐに次の攻撃へ移行していた。
《シュッツガイスト・オートマトン》は体をグルッと反転させ、回し蹴りでベリーの脇腹を蹴り飛ばす。
「うっくぁ―――!?」
敵の追撃を考えていなかったベリーは、まともに蹴りを脇腹に喰らったことで数メートル先へ吹き飛び、床に転がる。
「ベリーッ!!」
ベルはすぐにベリーの元へ駆けつける。
「う、うぅ……ドッジボールで顔にボールが当たったくらい痛いよぉ……!」
「その程度で済んだなら上々! ほら、ポーション飲んで!」
ベリーとベルがそうこうしている間に、《シュッツガイスト・オートマトン》は攻撃対象をフィールに変更する。
「こ、こんなの……暴走兵器……」
《シュッツガイスト・オートマトン》は人型でありながら両手を地につけ、今度は猛獣のように四足歩行で走る。
「フィール! 【パーフェクトガード】ッ!」
近くに居たソラがフィールの前に立ち、間一髪【パーフェクトガード】を発動して突進を止める。
「やべぇ……MP全部使っちまった」
「そ、ソラ……」
「大丈夫だ。それよりさっさとその剣でそいつを斬ってくれ」
「うん……!」
フィールはソラにそう言われると、ソラの盾の横から剣を振り下ろす。
「てりゃあ……!」
酷く硬い装甲も【創造】で生成した《エクスカリバー》の刃の前ではただの装甲。
ソラとフィールの連携で《シュッツガイスト・オートマトン》の左腕を斬り落とすことに成功した……と、そう思われたが。
「な、なんだこれ……機械が再生って有りかよ……!?」
ソラは目を丸くして内側の部品から徐々に再生していく機械の左腕を凝視する。
「ソラ! 離れてッ!」
バウムがソラに向けてそう叫ぶ。
《シュッツガイスト・オートマトン》の目らしき部分が光っていたからだ。
「――ッ!?」
ソラとフィールはギリギリで《シュッツガイスト・オートマトン》の目から放たれたレーザーを避ける。
「っと、フィール大丈……ッ!?」
ソラはフィールの安否を確認しようとするが、人形はそれを許さない。
右手拳を振り下ろし、ソラを殴り飛ばす。
「ソラ……! ……うあッ!」
ソラが吹き飛び、フィールが混乱している隙を人形は見逃すはずもなく、続けてフィールを蹴り飛ばした。
「い、一撃で……こんな……?」
ベルはソラとフィールのHPを見て驚愕した。
ベルとバウム以外の全員、たった一撃を喰らっただけなのにHPが大きく減っていた。
これが、マルチプレイ推奨の階層ダンジョンの難易度だ。
これが、次の階層へ行こうとするものを拒む最初の障壁だ。
全員、かなり絶望的状況に、目の前の敵に恐怖心を抱かざるを得なかった。
「んぐっ、んぐっ……ぷはっっ! ベル、どうする……?」
ベルに渡されたポーションを飲み干し、HPを回復したベリーがベルに聞く。
「……敵は近距離攻撃を得意としている。近付かなければ私の方が有利……のはずなんだけどなぁ……」
重い高威力の攻撃をするのにあのスピードだ。
ベルが狙っている内に接近され、抵抗する間もなく攻撃を許してしまうだろう。
「……どうすれば……って来たッ!」
ベルが考えてる暇はない。
《シュッツガイスト・オートマトン》はこちらに向かってくる。
「僕が押えるからベリーは攻撃を!」
「うん! わかったよ!」
バウムは【幻手】を発動し、《シュッツガイスト・オートマトン》の体を掴んで拘束する。
「【鬼神化】ッ!! やあぁぁーー!!!」
ベリーは【鬼神化】を発動し、熱気を放つと連続でスキルを使用する。
一連撃、二連撃……そのまま何度も何度も、バウムが拘束出来るギリギリまで、少しずつ減少していくMPが無くなるまで、計五十連撃に及ぶ圧倒的な鬼の力を見せつけ、《シュッツガイスト・オートマトン》のHPを削った。
「凄いよベリー! HPも半分以上削れた! そのままやれば……って、ベリー?」
しかし再度の使用は叶わなず、ベリーは頭を押さえて座り込んでいた。
――――頭痛だ。
前回の頭痛が発生した時は、最大でもおよそ二十連撃だったのだ。
その倍以上の連続使用……現実では絶対に有り得ない無理な動き……その代償として、ベリーに動けないほどの酷い頭痛が襲ってきたのだ。
『――――ッッッ!!!!!』
そして、HPが一気に減ると《シュッツガイスト・オートマトン》の装甲に赤いラインが現れ、形状が少し変化する。
……第二形態だ。
「ベリー危ない!!」
ベルがそう叫ぶが、動くことも出来ないベリーは倒れてしまう。
そして、そんなベリーを《シュッツガイスト・オートマトン》は腕を剣に変化させ、攻撃する。
「八坂さんッ!!!」
――そう叫び、バウムはベリーの前に立ち、《シュッツガイスト・オートマトン》の代わりに攻撃を受け止める肉壁となる。
「正樹……くん……」
バウムが攻撃を受け止めてまもなく、ベリーはそう呟きながら気絶してしまった。
そして、ボスの攻撃をまともに受けてしまったバウムのHPは完全に無くなってしまう。
「くっ、ここまでです! すみません……!」
バウムは最後にそう言い残すとその場に倒れ、人魂となってしまう。
「バウムっ……! ソラ、フィール!」
「おう、回復は出来た!」
「ん、私も……もうあっちもHPは少ない……一気に畳み掛ければ、勝てる」
「……よし、突撃ーーーッ!!!」
その合図で、三人は《シュッツガイスト・オートマトン》へ攻撃を開始する。
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