閑話【おじいちゃんが帰ってきました!】

 理乃が転校してきて数日、苺は嬉しそうな顔で教室に入ってきた。



「どうしたの苺、なんかあった?」


「えへへ~、実はねー……おじいちゃんが帰ってきます!」



 なんと、苺にいろいろ吹き込んでくれた例のおじいちゃんが帰ってくるらしい。



「苺ちゃんの……おじい…ちゃん?」


「あー、理乃は知らないか……苺に謎の剣術やらなんやらを教えた張本人。私も昔会ったことはあるみたいだけど……覚えてないなぁ……」



 鈴が理乃にそう言う。

 苺の幼馴染である鈴も、そのおじいちゃんについては詳しくは知らなかった。



「へぇ……それで帰ってくるって……?」


「うん、おじいちゃんは確か……七、八年前かな? それくらいにアメリカに行っちゃって」


「な、なぜアメリカへ……?」


「うーん、確か昔の友達をボコボコにしにいくって言ってた」


「昔の友達をボコボコにするって言ってそんなに経ったの!? 友達大丈夫か!?」



 鈴は苺の祖父がどんな人なのかますますわからなくなった。



「それでね! おじいちゃん帰ってくるし会ってみない?」



 苺は鈴と理乃のそう言う。



「う、うん……会うよ、気になるし」


「私も……苺ちゃんをそこまでおかしくさせたおじい様に会ってみたい」


「お、おかしくないよ!」



 そんなこんなで、鈴と理乃は苺の祖父に会う事になった。



* * *



 そして放課後、苺の家の前……もうすぐおじいちゃんに会う。



「な、なんか……ドキドキしてきたなぁ……」


「大丈夫大丈夫!」


「ほ、本当に……大丈夫なの?」



 理乃が苺に震えながら聞く。



「だ、大丈夫だって! なんでそんなに怖がるの?」


「だ、だって……」



 そう言って理乃が指差す所には玄関があるのだが……扉の前にどこか不気味なクマのぬいぐるみが三匹置いてあった。



「あー、これはお土産かな? おじいちゃんクマ好きだから」



 苺はそう言ってクマのぬいぐるみを回収すると、玄関の扉を開ける。



「はい、どうぞ!」


「……理乃、生きて帰ろう」


「……イザとなったら……鈴だけでも逃げて……」



 よく苺の家にも遊びに行っているはずの鈴も、開けられた扉の奥の気配にゴクリと唾液を飲み込む。

 鈴と理乃の二人は謎の覚悟を決め、家に入っていった。



「おぉう! おかえり苺!」


「ただいま! おじいちゃん!」



 と、嬉しそうに抱き合う二人を呆然と見ている鈴と理乃。



「あ、えっと……あなたが……苺のおじい様……ですか?」


「おうそうだぞ! ほれ、キミたちにもお土産をやろう!」



 と、凄く元気な苺の祖父に渡されたのは謎の仮面だった。



「おじいちゃん! こっちが鈴で、こっちが理乃ちゃんだよ!」


「ほぉぉ、鈴ちゃんだったのかー……。こりゃ大きくなったなぁ……ほれお土産追加」


「理乃ちゃんは昨日転校してきたんだよ!」


「それはそれはご苦労さん。ほれ、引っ越し祝いにお土産追加」



 どんどんお土産を追加してくる苺の祖父に、鈴は戸惑いながらも聞いてみたいことを再び覚悟を決めて口に出す。



「え、えぇっと……苺の話では、アメリカに行ってたんですよね?」


「ん? あぁ、アメリカにいるわしの昔の友達をちょいとぶちのめしにな。金を貰ったから他の国にも旅行してたら八年も過ぎてたわ! ガッハッハッ!!」



 苺の祖父はそう言って大笑いする。

 そして鈴と理乃は「そのお金……貰ったんじゃなくて奪ったのでは?」と思ったり思ってなかったりした。



「まぁ奪ったんだがな」


「「や、やっぱり……?」」


「まぁいいんじゃよ! アイツはアメリカに会社建てて儲かってるんじゃからなぁ! HAHAHA☆」


「い、いくら儲かってても奪ったら犯罪ですよ?」



 そう鈴が言うが――。



「安心するんじゃ……もう八年前の話じゃからな。それに安心せい、報酬金扱いじゃよ」


「う、うわーお」



 そう言いながらも次々といろんなお土産を袋から出していく。



「おじいちゃんはいつまで日本にいるの?」



 苺がおじいちゃんにそう聞く。



「そうじゃなぁ……明日には飛行機に乗ってドイツに行かんといけないからなぁ」


「そっかぁ……やっぱりお仕事大変なんだね」


「あぁ……まぁでもすぐに戻る」


「うん! 今度は私も海外に連れてってね!」


「もちろんじゃよー、かわいい孫じゃからなぁ!」



 苺の祖父、それはとても元気で少し不思議な感じの優しいおじいちゃんだった。



* * *



「じゃ、もうそろそろ行くかな……」


「えぇ! もう行っちゃうの!?」



 いろいろな国の話を聞いていたらもう夜になっていた。

 明日とは言っていたが、もう発つようだ。



「鈴ちゃんと理乃ちゃん、今日は泊まっていきなさい。もう親には連絡しておいたから」


「い、いつの間に……」


「それじゃあな、これからも苺のことをよろしく頼む」


「は、はい!」



* * *



 そして、苺の祖父はドイツへ向かうため、すぐに家を出てしまった。



「……おじいちゃん」



 苺はうつ向いてそう呟く。

 幼少期、両親はほぼ帰ってこず、祖父に育てられたも同然の苺は、最近祖父の旅が多くなってきたことから寂しさが込み上げているのだろう。

 肩を震わせて、立ち尽くしている苺に、鈴はハッと何か気付いてその肩に手を置く。



「……い、苺。私もう疲れた。今日は早めに寝よう、そうしよう?」


「私、お泊まり初めて……苺と鈴と、友達になって良かった……から……元気出して?」


「う、うぅ……! おじいちゃん……私のプリン、食べたでしょおぉぉぉぉ!!!」


「「え、えぇ……」」



 その叫びは当然、離陸した飛行機に届くはずはなかった。



* * *



 一方その頃、ドイツへ向かう飛行機の中では。



「いやぁー、かわいいのなんのって!」



「いやいや、確かに苺ちゃんもかわいいが……やはりワシの孫の鈴のほうがかわいいじゃろ!」


「いいや、苺のほうがかわいい! 鈴ちゃんもかわいいが!」


「ぐぬぬ……!」



 飛行機の中、苺の祖父と、何故か隣に座っている鈴の祖父が暴れていた。



「はぁ……重郎、お前本当に昔から変わらんなぁ」


「ん? そうか雅信? あぁ~苺はかわいいなぁ!」



 苺の祖父……名を八坂やさか重郎じゅうろうという。

 そして何故、鈴の祖父である一条いちじょう雅信まさのぶと一緒に居るかというと。



「それはそうと、次の依頼はなんじゃ?」


「はぁぁ……それくらい把握しとけよ? 銃を密造している組織があるから潰せ、とのことだ」


「なんじゃ、いつもとそう変わらんな」


「さっさと終わらせて鈴に会いに行こう。もうずいぶんと会っとらん」


「そうじゃったな。ほれ、お前の孫の写真じゃ」



 重郎はそう言って雅信の目の前にいつの間に撮った鈴の写真を出す。



「お、おおぉ!! こんなに大きくなって! ワシは、ワシは嬉しいぞ!!」


「一枚五千円」


「おまっ……いや、何枚ある」


「十枚」


「買ったあぁぁぁ!!」


「まいどあり」



 そうして飛行機は、そんな騒がしい二人を乗せて夜空の中を飛んでいくのだった。

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