第12話【転校生襲来です……!】

 見事、第二回イベントPvPでフィールを倒したベルは、一位の賞品であるアイテムを貰う。



「えっと……これは……?」



 そう聞くベルに答えるのは先程までアナウンス、ナレーター、解説その他諸々をしていたお姉さんだった。



「はいはい! そちらは次の大型アップデートで使えるアイテムですよー! 多分……! まぁぶっちゃけそれ、装備強化とかに使うアイテムなんですけどね」


「お、大型アップデート……!?」



 アイテムなんてそっちのけで、その言葉にベルは目を輝かせていた。

 それを聞いた他プレイヤーたちも歓声を上げている。

 ……ただ一人を除いて。



「あっぷでーと? ……ってなに?」


「あぁ、ベリーは知らないか……まぁいろいろ追加されるんだよ。アイテムとかモンスターとか……今回はダンジョンの追加とかじゃない?」


「おぉ! 凄い!」



 ゲーム、VRMMORPGのことなんてほとんど知らないベリーにベルが説明する……が。



「いえ、違いますよ?」



 そうお姉さんが言う。

 周囲のプレイヤーがどよめき出すと、お姉さんはニッと笑う。



「今回は“大型”なので……新階層の追加となりまぁーーっす!!!」



 周りのプレイヤーにも聞こえるように、大声で叫んだ。



「新階層……?」



 ベリーは何を言っているかわからないようだが、他プレイヤーはとても……いやかなり喜んでいるようだ。

 中には発狂しながら高速スピンしている者もいる。



「新階層だって! そんな情報無かったのに!」


「えぇ、今回のイベントで発表する予定でしたから。ちなみにアップデートは明日の午前十時から開始されて、次の日の……夕方くらい? にアップデートが完了する予定だそうでぇーす!」


「そっかぁ、じゃあ明日は出来ないね……」


「あはは……まぁそうだけど、その分すっごい楽しみ!」



 少ししょんぼりしているベリーに対し、ベルはアップデートが楽しみで仕方なかった。



「えー、それでは! 第二回イベント、PvPはこれにて終了でーす! 皆さんお疲れ様でしたー!!」



 こうして、ベリーの初めてのイベントは終了した。

 大型アップデートという楽しみを残して――。



* * *



「……フレンド登録、したい」



 イベントが終わり、少し休憩していたベリーとベルの元にフィールがてこてこと駆け寄ってくると、そう言ってきた。



「フィールさん! 今度は私が勝つからね!」


「……うん、頑張って」


「フィールはどれくらい《NGO》にいるの?」


「……もう七年になる」


「へぇ! 私と一緒だ!」


「え……えっ? えぬじーおーって?」



 と、ベリーは《NGO》について聞く。



「あー、《NewGameOnline》の略だよ。長いからね」


「あぁ! なるほど!」



 理解できたらしいベリー、するとフィールがこんなことを言う。



「……ベルとベリーは、リアルでも友達?」


「うん、そうだよ」


「そうだよー、幼馴染なんだー!」



 オンラインゲームなどでリアルの話はタブーだが、それくらいはいいかとベルは答え、ベリーも続けて笑顔で答える。



「……そうなんだ……じゃあ、そろそろログアウトするね。引っ越しの準備があるから……」


「そうなんだ、どこに引っ越すの……ってリアルの話はあんまりしないほうがいいね」



 ベルがそう言うが、フィールは構わず答える。



「えっと……学校があって、お店があって………家が沢山あるところ」


「うん、わからん」



 地名ではなく風景で伝えてくるフィールに、ベルは笑顔でハテナを浮かべた。



* * *



「――じゃあねフィール! 今度は新階層に探索に行こう!」


「そうだね! フィールさんまたよろしくねー!」


「……うん。あと……ベリー」


「ん? なぁに?」



 フィールは振り向き、言う。



「あなたの剣捌き……凄かった。今度……その、教えて……くれる?」



 顔を赤くし、少しもじもじしながらベリーに聞く。



「も、もちろん!」


「……ありがとう、それじゃ……。あっ、あと……“さん”はいらないから……」


「うん! わかったよフィール!」



 そう言って、フィールはログアウトした。



「フィールって、かわいい子だねぇ~」


「そうだねー……うーむ、何か予感が……」



 そして、少しして二人もログアウトしていった。



* * *



 次の日の朝、学校へ向かう苺。

 手には食パンを持っていた。



「おはよー苺! ……って何そのパン」



 道中で会った鈴は、普段は朝はご飯のはずの苺にそんなことを聞く。



「え、あ……う、うん……」


「な、なんか元気ないね?」



 ボーッとしている苺は手に持っているパンを眺めていた。

 パンは一口かじられた跡がある。



「まぁどうせ遅刻しそうだったから食べながら来たんでしょ?」


「ううん……これはね……」



 そして苺はパンを入手した経緯を鈴に話した。



「…………えっと、つまり?」


「角を曲がったらパンくわえてる女の子とぶつかって、パンをキャッチしたんだけど逃げられた」


「……なるほどわからん。どんな子だった?」


「えっと、髪が凄く長くて……身長は私よりちょっと大きかったかな? 多分ひゃくごじゅう……いくつだと思う。雰囲気的には大人しそうな子だったよ」


「へぇ……なんかフィールっぽいね」



「そーえば……フィールもあれくらいの身長だし髪も長かったような?」


「あれ? フィール……昨日引っ越すって言ってたよね?」


「……そういえば見たことないのにうちの学校の制服着てた」


「……いやまさかね、ははは。あったとしてもそんな一日で……」



 苺と鈴はその瞬間、何かを予感した。

 ……そしてその予感は、見事に的中する。



「………昨日引っ越して来ました。理乃りの・スフィールです……よろしくお願いします」



 身長は苺よりほんの少し高く、髪は黒く、地面に届きそうなくらい長かった。



「髪は黒いけど……一応ハーフ……です」


「ね、ねぇ……やっぱり……」


「うん……苗字? がスフィールって……」



 ――苺と鈴がどうなんだろう疑問に思っていたが、真実を問う間もなく放課後になってしまった。



「苺、どうしよう……」


「……教室三人だけになっちゃったね」



 放課後、現在この教室には苺と鈴、そして理乃だけとなっていた。



「は、話したほうがいいかな?」


「うーん、まだフィールって決まったわけじゃないし……それにもしフィールだとしてもこっちに気づかないよ」



 すると、その会話が聞こえていたのか、理乃は勢いよく立ち上がり、苺と鈴の元に歩いてくる。



「え、えぇっと……理乃さん?」


「……あなた、もしかして……ベル……?」



 そう鈴に聞く。

 どうやら気づいていたようだ。



「ってことはやっぱりフィールなんだね」


「うん、おとーさんに調べてもらって引っ越して来たの」


「「…………ん?」」



 二人は困惑している。

 今、確かに“おとーさんに調べてもらって引っ越して来た”と言った。



「え、えーっと……どゆこと?」


「おとーさん、NGO社員、だから調べてもらった」


「な、なんて恐ろしい……お父さんだいじょぶか? って、なんでそんなことを?」


「二人と、リアルで友達になりたかったから……」



 そう言って顔をうつ向かせる理乃。



「……う、うーん……まぁいいや! んじゃあこれからよろしくね、理乃!」


「うん! そうだね! よろしく理乃ちゃん!」



 二人がそう言うと理乃は顔を明るくさせ、にっこりと笑った。



「うん、よろしく……!」



 そして苺と鈴の二人は、理乃を怒らせてはいけないと本能で感じた。

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