第11話【勝者決定!】

 ベリーを倒した銀髪の女性プレイヤー、フィールと戦闘しているベルだが、その攻撃のほとんどは【カウンター】や【ステップ】などで対処されてしまう。

 フェイント攻撃も徐々に効果が無くなってきた。



「もうフェイント攻撃に慣れちゃったかぁ……」


「……人の凄いところは、どんな環境でもどんどん慣れていくこと……だと思う……」


「そうだね、人って凄いねぇ……【クイックショット】!」



 【クイックショット】というスキルは、数十発の弾を一気に連射するスキルなのだが……弾丸はフィールに数発当たっただけで、そのほとんどを【カウンター】で返される。

 カウンターされた弾は威力を増して、全てベルに向かってくる。



「【スライディングショット】!」



 ベルは前へ走り、返された弾が命中しようとした時にスライディングをして、そのまま相手に発砲していくスキルでうまく避けていく。

 しかし、発砲された弾はさらにカウンターされてベルに向かってくる。



「【テレポート】ッ!」



 スキルでフィールの後ろに瞬間移動する。

 こんな簡単なこと、どうせ予測されてると思いながらも、ベルはナイフを引き抜く。



「猛毒が塗られたナイフでもいかがですか!」



 そう言いながらフィールの首元に向けて毒が塗られたナイフを振るうが……。



「【創造・盾】……イージス」



 そのナイフにフィールは動じずに、盾を【創造】してベルの攻撃をガードする。



「うわぁ、ホントに作れるんだ、もうそれチートだよ!」


「……あなたもチートみたいに正確に私を狙ってきてる。でも……だからこそ、何処を狙ってるかわかる」


「それは私も思ってた……。うん、正確すぎるとわかりやすいもんね」



 ベル自身もわかっていた。

 自分の攻撃は良くも悪くも正確すぎる。

 なので、長時間戦っていると熟練者であればだんだん相手は慣れて、避けるようになっていくのだ。



「そんなこと自分がよくわかってるさ。……まぁ、だからちゃんと対策もしてるに決まってる」



 自分の特技であり、弱点でもあるこの正確性をどう使うか。

 それは簡単なことだ。



「問題、私は今……何処を狙っているでしょう」



 そう問いかけたベルが持つ拳銃は、その銃口は、しっかりとフィールを狙っているように見える。



「……少し右にズレてる、でもワザとじゃない……つまり私の右目を狙ってる」


「……ふっ、残念でしたッ!」



 そう言った瞬間、ベルはトリガーを引く。

 発砲された弾はフィールから見て右へ向かい、もちろんフィールは予測、宣言通り右目をガードする。

 途中で狙いが変わった動きは見られない……正確に、右目を狙っている……が。



「ッ!? なんで、……!?」



 放たれた弾丸はフィールの盾をすり抜け右目へ――しかし、当たったのは右目ではなく、なんと真逆の左目だった。



「私はね、今正確に、ちゃーんと“左目”を狙った。でもそれじゃあガードされちゃうから、スキルでちょーっとズラしたんだ。あなたからは私が右目を狙ってるように見えたでしょ?」


「でもそれなら……反対側をガードすれば!」


「……右に見えるから左をガードする、果たして本当にそうかな?」



 そう言ってベルは追撃にもう一発撃つ。

 やはり、右へ向かっているように見える。

 フィールは今度は左をガードするが、弾はに命中する。



「な、なん……で……!」


「誰も反対にズラすなんて言ってないよ。ズラす方向は毎回違うかもしれないし、もしかしたらスキルを解除して正確に狙ってるかも知れない。……これで、私はただいつも通り撃つだけで、あなたは毎回どこに撃たれるか、どこを守るかの選択を迫られることになったね」


「……【創造・剣】エクスカリバー!」



 その言葉を聞いたフィールはこの展開はマズいと、すぐに決着をつけなくてはと焦り、【創造】で作った剣を右手に握り、ベルに接近する。



「戦闘中の焦りは危険だよ?」



 すると、目の前にいたはずのベルは突如、霧のようにフッと消える。



「なんっ……【分身】……!?」


「当たり!」



 ベルの後ろから声はし、フィールはその声に振り向くがそこには誰も居ない。



「どこ、どこに居るの……!?」



 フィールは激しく混乱していた。

 いや、恐らくこのラストバトルを見ているプレイヤー全員、混乱しているだろう。



「くっ……そこ!」



 フィールはそう叫び、突然真横に出現したベルに向けて剣を薙ぎ払うが手応えは無く、またしても霧となって消えていく。



「……ッ、後ろ……! ――なっ!?」



 この状況だ、後ろから狙うのが定番だと、フィールは後ろへ振り向く。

 確かにベルは後ろにいた……ただ、数十人もだが。



「な、なんで………【分身】は……今は最大でも三人までのはず……!」


「そりゃあね。私も三人しか分身してないし」


「え……じゃあ……私が見てるのは……」


「うん、全部嘘の情報……幻覚かな? 今、私はあなたの目の前にいるけど、もしかしたら後ろにいるかもしれない」


「………ッ」



 フィールはそう言われて思わず振り向くが、そこにプレイヤーの気配は無い。

 いや、それどころかこのフィールド内にプレイヤーの気配が一切ないのだ。

 目の前に数十人居るベル……そのうち三人は分身体で、一人は本物だ。

 それなのに、気配が全く感じ取れない。



「あなた……どこに居るの……?」


「ふっふっふ……じゃあこの数十人が放つ銃弾。どれが真実か見極められるかな?」



 ベルはそう言ってスナイパーライフルを構えると、フィールを狙う。



「ッ、どれが……本物なの……!」



 どれも同じに見える……当然だが見た目に違いはない。

 全員、同じようにフィールの頭を狙ってた。



「【サウザンドシュート】ッ!」



 ――フィールは撃たれるのが数十発の弾なら、本物とか偽物関係なく、全てに【カウンター】を使えばいいと思っていた。

 だがしかし、ベルのスキルによって数が増えたように見える銃弾は、万は軽く超えている。



「多い……でも実際の弾の数は数千……! 【創造・盾】要塞!」



 フィールは自身の周囲、人が三から四人程度はぎゅうぎゅう詰めで入ることが出来る分厚い壁の要塞、ドームを築く。



「やっぱり、当たった音が少ない……」


「そうだねー、少ないねー」


「なっ……!? なんで……いつの間に中に……!?」



 なんとフィールの後ろには、さも当然のようにベルが居た。



「簡単だよ。私はずっとここにいた」


「そんなはず……ない……! 私の近くに……プレイヤーの気配は無かった……!」


「うん、気配を消してたからね」



 そう、ベルは自分の【分身】に【サウザンドシュート】を使わせていただけでずっとフィールの近くに居ただけだ。

 【潜伏】スキルで姿を消していたのだが、気配までは完全に消すことが出来ない。

 つまりこの気配消しはベルのプレイヤースキルということだ。



「そんな……!」


「まあ、これでチェックメイトだね……この狭い空間じゃあ、何か作っても振り回せないね」


「なら、テレポ――!」


「はい、【スキルキャンセル】」


 【スキルキャンセル】というスキルは、恐らくこのスキルを持っているプレイヤーはベルと他数人だけだ。

 相手のスキル発動に合わせて発動すると、強制終了させることが出来るこのスキルの入手方法はかなり難しく、フィールもまだ持っていなかった。



「じゃあ、私の勝ちだね! フィール!」



 ベルはそう言って拳銃をフィールの額に突き付け、最後の弾を撃ち込んだ。



『決まったぁぁぁぁ!!! 勝者……ベルぅぅーーー!!!!』



 そして『WINNER! 《Bell》!』の文字がモニターに表示され、勝者報告のアナウンスが待機ルームとフィールドに響き渡った。

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