第8話【初めて負けました……!】
初戦を見事突破したベリーとベルは、待機ルームで他のプレイヤーの戦闘終了を待っていた。
ベルはじっと設置されたモニターを眺め、プレイヤーの動きを観察していた。
「おぉ、あの人の動きいいなぁ」
そう言ったベルが見ていたモニターを、ベリーも横から見る。
そこには長い銀色の髪を揺らしながら颯爽と草原を駆け、敵プレイヤーに接近すると最速で決着をつける女性のプレイヤーが映っていた。
身長はベリーよりも高いが小さく、155cmくらいだろうか。
「ホントだすごい……女の子だね」
「そういえばここじゃ女性プレイヤーは割と珍しいか」
キャラクター……アバターの性別は現実と同じで、身長や見た目は現実の身体を元にしてランダムに自動生成されるので大体の姿形は現実とあまり大差は無い。
つまり街を歩くプレイヤーの男女比は見たままで、女性プレイヤーは居るには居るが、やはり数が少なかった。
この仮想世界での男女比は七対三くらいだろう。
「……この人、私の予想だと上位は行くね」
「そ、そうなの……? じゃあ気をつけなくちゃ!」
すると、戦闘終了したプレイヤーたちが続々と待機ルームに戻ってくる。
モニターに戦闘中のプレイヤーの姿はなく、次のマッチングまでの予測待機時間が表示されていた。
「お、そろそろマッチングされるね」
「うん、ベルも頑張ってね!」
「ベリーもね」
ベリーとベルは互いの拳をトンッとぶつけ合わせ、光に包まれ転送される。
それに続くように、最初に比べて半分まで減ったプレイヤーたちが同じようにフィールドに転送されていった。
* * *
そのまま、ベリーとベルは順調に勝ち進んでいった。
それも、二人とも奥の手を隠して。
ここまで勝ち進んだプレイヤーのほとんどは奥の手を隠している可能性があるため、気を引き締めて挑まなければならない。
と言っても、もはや残りプレイヤーの数は八人だった。
「とりあえず十位以内には入れたよ! 目標達成! やったぁ!」
「うん、やっぱベリー凄いと思うよ……」
まだ始めたばかりだというのに、上位に入っているベリー対してベルは尊敬を込めてそう言う。
しばらくするとベリーとベル、そして残り六人のプレイヤーが転送される。
ベリーの次の相手は――。
* * *
光から解放され、ベリーは周囲を確認する。
どうや、古い廃墟のフィールドに転送されたようだ。
まだ敵プレイヤーは見当たらない。
「うーん、歩いていれば会えるかな?」
そう言って歩き出そうとした瞬間、目の前のコンクリート床に衝撃が走り、砕け散る。
あと一歩踏み出していれば落っこちていただろう。
「うぇ!? ご、豪快……!」
そして、一人のプレイヤーが下の階からジャンプして登ってくる。
それは……ベルがいい動きと言っていた、あの女性プレイヤーだった。
さっき見た戦いでの装備とは異なる、真っ黒の鎧を身に着けていた。
相手に合わせて……いや、ここから先は猛者ばかり……本気モードになっているといったところだ。
「……【創造・剣】……魔剣グラム」
静かにそう呟いてスキルを発動させると、銀の長い髪をなびかせながら右手から禍々しい黒い剣がゆっくりと現れる。
創造……要は武器生成スキルらしい。
「な、なにそれぇ!?」
「【エンチャント・ヘルフレイム】」
銀髪少女がベリーのことなど気にすることなくスキルを発動すると、黒い剣がこれまた黒い炎に包まれる。
このゲームでは数少ない属性付与……エンチャントスキルというものだ。
しかし、このエンチャントはエクストラスキルという特定の条件を満たさないと取得出来ない特殊なもので、このプレイヤーが使っているのは“ヘル”……つまり、地獄を意味する属性エンチャントだ。
通常の属性付与よりも強力であると思った方がいいだろう。
「……これは最初から本気で行かないとヤバいかな……【鬼神化】!」
その見た目から嫌な予感がしたベリーは、出し惜しみしてる場合ではないと奥の手である【鬼神化】を発動し、即時決着を狙う。
額から角が生え、紅く燃え盛ると、熱気からなのか緊張からなのかわからない汗を垂らす。
「【覇気】!」
ベリーは早速【覇気】で銀髪少女を吹き飛ばし、一定時間行動不能にしようとするが、行動不能になったはずの女性プレイヤーは何事も無かったようにこちらに近付いてくる。
「なんでさ! ……ッ!?」
それどころか、何故か逆にベリーが吹き飛び、行動不能になってしまった。
まるで自分のスキルが跳ね返ってきたようだ。
「……あなた、初心者……?」
銀髪少女は首を傾げてそう尋ねる。
それもそうだ、ここまで勝ち進んだプレイヤーならば、相手のスキル対策はしているはずなのだ。
彼女も【スキルカウンター】というスキルで対策していた。
「え、えぇっと……はい、数週間前に始めたばかりです!」
「数週間前から始めてここまで……? 凄い……あなたとは、またお話したい……ここ女の子少ないし……」
確信の持てなかった問いが当たり驚いているようだが、表情にあまり変化は無く、かなり落ち着いていた。
「そうですよね! またお話しましょう!」
「ん……じゃあ、もう勝たせてもらう……」
「……! それはこっちのセリフです!」
瞬間、二人の刃が交わる。
ベリーは【鬼神化】の効果で、スキルを連続で叩き込む。
銀髪少女は全く動かずに、剣を構えているだけだった。
「あなた……本当に初心者………」
ゴリ押しにも程があるベリーの斬撃に、どこか楽しげに言う。
「な、なんですか……! これでもう終わりですよ!」
そう言ってさらに一撃与え、銀髪少女のHPは残り僅かになる。
――あと一撃で、決着がつく。
「うん……あなたのおかげで、一撃で終わる……」
「えっ!?」
そう、銀髪少女は既にスキルを発動させていた。
そのスキルの名は【
発動すれば、自身の行動全てに対応出来る、あらゆる攻撃を反射反撃する追加スキルが与えられるが、このスキルは扱いがとても難しい。
というのも、相手のスキルを反撃するのにタイミングがある。
そのタイミングというのがコンマ何秒間という、高難易度のプレイヤースキルを要求される。
それをこの銀髪少女は狂いなく正確に見極め、スキルを発動しているのだ。
そして、ダメージを受けてから数秒……特定のタイミングで、今まで受けていたダメージを全て数倍にして返す。
「【オーバーカウンター】……!」
「……ッ!」
――その攻撃を、ベリーは回避出来なかった。
忘れずに【絶対回避】を発動していれば、あの時、相手の作戦に気付いていれば……なんてことを終わってから振り返る。
ベリーは待機ルームに戻ると、椅子に座り込む。
「く、悔し~~い!!!」
ベリーは昔、実の祖父との勝負に負けた時の悔しさを思い出しながらそう叫んだ。
「次は勝つよ……!」
ベリーは次こそあのプレイヤーに勝つと意気込み、ベルが戦闘しているのが映っているモニターを見て、自分との戦い方を比べて反省点を見つけ、少しでもうまく戦えるよう勉強した。
悔しさをバネに、ベリーはもっと上を目指していく。
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