第9話【これだからゲームは面白い!】
ベリーの敗北から数分……ベルはプレイヤーと絶賛戦闘中だった。
ベルのことだから圧倒している……というわけには行かない。
やはり、さすがここまで来たプレイヤー、と言うべきだろう。
「くぅ……しっかりスキルでガードされるなぁ! 【跳弾】!」
ベルはなかなか攻撃が当たらず、壁に銃弾を放つ。
もちろん、やけになって適当に撃ったのではない。
その銃弾は壁に当たると跳ね返り、敵プレイヤーの左腕辺りに向かう。
「うぐっ……! 【旋風】!」
敵プレイヤーは避けきれず、ダメージを負うが……防御力が高いのか、あまりダメージを与えられなかったようだ。
そうでもないダメージであることを予測していたらしく、敵プレイヤーは弾を無視して【旋風】による範囲攻撃を行う。
「【絶対回避】ッ!」
ギリギリでスキルを発動したベルは前転し、止まった直後さらに数発、撃ち込んでいくが……。
「【乱撃】!」
敵プレイヤーは連続攻撃スキルを使い、出来るだけ多くの銃弾を弾いて耐えてみせた。
両者共に、HPは残り半分だ。
「あなた……なかなかやるね……! こんなに刀を使いこなしているのは私の友達とあなたしか見たことないよ!」
ベルは息を切らしながら、敵である侍職のプレイヤーに言う。
身長は160cmくらいで、前にどこかで見たことがあるような顔だった。
「僕も……《NGO》でここまで強い人と会ったことがないですっ……!」
二人とも顔に汗を浮かべており、かなり疲労しているようだった。
しかしその表情は笑っていた。
今、この瞬間を最高に楽しんでいるのだ。
だからゲームはやめられないと、だからこういうイベントには参加する価値があると、ゲームの楽しさを実感している。
「いやぁ、これだからゲームは面白い! あ……名前、聞いてもいいかな?」
「僕は……バウムって言います」
「バウム……ね。うん。私はベル……ってことで、じゃあそろそろ再開しようかッ!」
「急ですね……ッ! 【一閃】!」
ベルが銃を構え、射撃した瞬間――バウムはスキルを発動し、太刀を横に凪ぎ払う。
「うわっ……と! 危ない危ない、【一閃】は斬撃が飛んでくるんだったね」
「よ、よくご存知ですね……数が少ない職業なのに」
「まぁ、ある程度のスキルは把握してるよ」
「凄いですね……。じゃあ、これは……奥の手を使うしかないですね……!」
すると突然、バウムが握っていた太刀がフワッと浮かび上がった。
「え!? なにそれ、反則でしょ!」
「あ、あはは……。これは【幻手】っていうスキルで、見えないと思いますが幻で作られた手で刀を持ってるんですよ」
「へぇ……って、そんなこと教えていいのかな?」
「えぇ、教えた以上……倒さなきゃいけませんからね!」
そう言うと、バウムの太刀がベルに向かってヒュンッと飛んでくる。
素早いが、避けられないスピードではない。
「っと、見えないから銃は不利……って! 弓!?」
だが、バウムは弓を構え、ベルの避けた先を狙っていた。
「刀は【幻手】が持っているので! 【速射】!」
バウムが矢を放ち、一直線に矢がベルに向かう。
つまりは【幻手】に太刀が装備された状態だから、バウム本人は別の武器を装備して戦えるのだ。
「くっ……痛ってて~。ってまぁそこまで痛くはないんだけど……回復回復……!」
「させませんよ! 【雨ノ矢】!」
回復スキルでHPを回復しようとするベルに隙を与えないよう、バウムら空に向けて一矢を放つと、すぐに数百もの大量の矢が雨のように降り注ぐ。
「よっ! ……うぐ、ダメだ避けきれないっ!」
【絶対回避】は使用済み……リキャストタイムもまだ残っており、全ての矢を避けきれず、数本の矢がベルの体に刺さる。
「うぅ、矢は当たっても残るから動きづらくなるなぁ……!」
「止まってると危ないですよ!」
そう、止まってしまうと【幻手】によって攻撃されるのだ。
「ぐあ!? ――ま、まさかそれ……もしかして自動攻撃じゃないよね?!」
「自動ですよ。幻手には幻手のHPが存在します。一種のモンスターと思ってください」
「んなバカな……くそっ、今撃ってもそれに弾かれちゃうし……」
ベルのHPはもう残り少ない。
なので出来れば一瞬で決着をつけたいところだが、矢が腕や足に刺さっていて動きづらいので、素早く相手に近付けなかった。
「すぅ~……はぁ~……」
危機的状況に、ベルは深呼吸をして心を落ち着かせる。
「まだ奥の手は隠しておきたい……どうするかぁ……」
そう呟くと、また矢が飛んでくる。
「っと! 危ないでしょうが! 今考えてるのに!」
「え、えぇ!?」
戦闘中に考えていて立ち止まっているならその隙を狙うのは当たり前のはずなのに、さも当然のように怒鳴られてバウムは驚く。
「あぁ~もう! ちょっとの痛み……違和感なんて気にしない! あんたの脳天に一発喰らわせてやるから!」
と、そう事前予告すると矢の痛みを気にせず突っ走り、バウムに接近する。
この世界は仮想世界で、これはゲーム。
痛みと言っても強めに押されたような違和感がある程度だ。
だが矢は貫通して刺さって残るので、その違和感がずっとあり、結果動きづらいということだ。
そこまで痛くはないが、感覚は不快なのであまりその状態で動きたくはない。
それをただ根性で我慢して、ベルは走る。
「す、凄い……【幻手】! 接近して攻撃を!」
バウムは幻手にそう命令し、ベルに攻撃させる。
「見えないけど、腕はあるんだよねっ!」
ベルはふとそう言うと、攻撃してきた太刀を避け、その見えない幻の手に足をつける。
「よし! 覚悟しなよ……バウム君!」
「くっ……【火柱】!」
するとバウムはスキルを発動し、下から燃える炎を柱の如く突き上げ、幻手もろともベルを焼き払う。
「よし、命中した!」
その炎は確実にベルを呑み込んだ……かの様に見えた。
「残念、あれ分身」
「……ッ!?」
炎に呑まれたはずのベルは、既にバウムの後ろに立っていた。
【分身】と【潜伏】の二つのスキルを使い、バウムに接近したのだ。
「ぜ、【絶対回避】!」
咄嗟に【絶対回避】を発動させるバウムだが、すぐにそれがミスだと気付く。
ベルはナイフを持っており、それをチクッと、バウムの体に刺しただけだった。
少し刺さっただけでも攻撃と判定されるので、【絶対回避】は発動するのだ。
そして、ベルはその回避した瞬間を狙っていた。
そう、スナイパーライフルを構えて、バウムが回避した場所を既に狙っていたのだ。
ついさっき、バウムが同じことをやったように――。
銃口はバウムの額に当たりそうなほどの距離。
そして、そのスナイパーライフルは、いわゆる対物用のスナイパーライフルだ。
対人……バウムの残り半分のHPを消し去るには、充分すぎる威力を持っていた。
「それじゃあね、
「え!? なんでそれを……ッ!?」
直後、凄まじい発砲音が周囲に響き渡ると、バウムのHPは0になった。
「私、観察力高いんだよね」
ベルはそう言うと、一息ついてゆっくりとスナイパーライフルを置き、地面に座り込む。
「ぬ、ぬおぉ……! 耳キーンって来たぁぁ~!!!」
ベルは両耳を手で押えてそう叫んだ。
対物用スナイパーライフルの発砲音はもちろん大きい。
少し聴覚が良いベルが、至近距離でその音をまともに聞いたのだからそうなるのも当然だった。
「はぁ……まぁこれで四位か……。って私のバトルが最後だったの?! ちょっと時間かかっちゃったなぁ、ラストバトルはもっとうまくやろう」
そうしてベルは大の字に倒れ、待機ルームに転送されたのだった。
* * *
「よ、お疲れ」
待機ルームに戻ってきたバウムは、ソラに迎えられた。
「あ、あぁ……うん、ありがとう」
「俺は八位だったよ。お前は五位か……やっぱ経験の差があるかぁ……って、どした?」
「い、いや……その、さっき僕が戦った人なんだけど……」
戦闘中の映像は流れていても、プレイヤー同士の会話までは流れないので、あの事をソラは知らなかった。
そこでバウムは、ソラにベルに言われたことを説明する。
「……え? お前のリアルネームを知ってた?」
「うん、多分学校の誰かだと思う」
「へぇ、よくわかったなぁ……リアルのお前の身長15…2? だったか?」
「156だよ!」
「あぁ、悪い悪い……で、心当たりは?」
そう聞かれ、バウムは生徒たち、クラスメイトの顔を思い浮かべる。
「う~ん? 特に居ないよう……な……。あっ!」
「お? わかったか?」
「えっと、一条さん……だと思う、顔も似てるし」
「……えぇ? 一条って、あの一条鈴……だよな?」
「うっ……そうだよね。一条さんってなんでも出来て、頼れるお姉さんみたいな人だし、ゲームとかあんまりやらなそう……」
そう、鈴は学校で“苺の第二の保護者の優等生”なんて言われていた。
学校では優等生……いつもフラフラと何処かへ行ってしまう苺の回収係だ。
周りをよく見ているので誰かをよく手伝ったりしていて、先生たちからの評価も高い。
しかし実際は周りの目線が気になりチラチラ見ていたらたまたま視界に荷物を運んでいた人を見かけたので手伝っただけなのだが。
「うーん、でも似てるんだよなぁ……」
「まさかあいつ……いや、まぁ……もしやってたとしても……秘密にしといてやろうぜ。あいつもいろいろストレスが溜まってるだろうしな」
「あぁうん、そうだね」
* * *
「あ゛あ゛あ゛ぁ~~……何であんなことを! ゲームやってるの隠してるんだから気付いても名前を言っちゃダメでしょーがぁー!! 誰がこんなことを? えぇハイ、バカな私ですよ!」
「べ、ベル……大丈夫?」
転送され、待機ルームに戻った直後に、ベルは自分の頭をポカポカと殴っていた。
「あー、うん。大丈夫。もういい……次の敵を爆殺してスッキリしよう……」
その宣言通り、次のマッチでベルは敵プレイヤーを罠に嵌めて爆殺し、順位二位は確定した。
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